2003/04/26(sat)
チャンピオンズ・リーグ マンU対レアル・マドリー

 

 

 オールド・トラッフォードを埋める満員の観客。2003チャンピオンズ・リーグも準決勝を迎えた。結果は4-3でホームのマンUの勝利。もちろんサンチャゴ・ベルナベウで1-3で敗戦しているマンUは、このステージで散った。
 レアルの勝因は何か? ホーム&アウェイの2試合を観戦した限り、もちろん今日のゲームでのロナウドのハットトリックもあるだろう。1点目と3点目のシュートは見事の一語につきる。だがファン・ニステルローイのシュートもバーに嫌われたものがあった。だからこの結果は決してフォワードの差ではない。中盤の差だ。特に下がり目の中盤の差だ。まずフォーメーションの解説をしておこう。共に4-5-1。もっと正確に書くと、共に左右のサイドバックを置く4人のディフェンスラインの差はほとんどない。ブラウン、オシェアの2人は、このゲームに限っては、ロベカル、サルガドに劣っていないように見えたし、シルヴェルトル、ファーディナンドのセンターバックは、イエロ、エルゲラのふたりよりも健闘していたように思える。問題はディフェンスラインの前だ。中央にヴェロン、そして左右にバットとキーンを並べたマンUよりも、マクマナマン、グティ、マケレレをほぼ一線に並べ、ルースボールを拾いまくり、大きく展開し、フィーゴ、ジダンに繋いでゆくレアルの展開力がずっと勝っていた。ロナウドへのボールの供給源になるフィーゴ、ジダンへとディアゴナルにボールが繋がっていくレアルに対し、マンUではキーン、バットから有効なボールが前線に供給されることはほとんどなかった。4-3-2-1というフォーメーションのレアルに対して、マンUは、4-1-2-2-1であり、2列目のギグス、スールシャールへとパスが出てくるのはバット、キーンを飛び越してヴェロンからのみだ。スコールズの出場停止が痛い。後ろから2列目の3人が攻守の切り替えのカギになっていたレアル。マンUは素直に4-4-2で、最初からベッカムを入れ、スールシャール、ファン・ニステルローイの2トップにした方が流れがよかったのではないか? フォーメーションについて考えると、レアルのそれは、底があつく、ごく自然に前へとパスが収斂されていく、ピラミッド型であるのに対して、マンUのそれはとらえ所がない。レアルは、ときにフィーゴ、ジダンがロナウドと並び3トップを形成したり、サルガドかロベカルが攻撃参加して常に不定型なアタックを展開していた。ベッカムの2点が入ったのは、すでにこの準々決勝の勝敗の趨勢が決まった後のことだ。レアルは、ロナウドなど主要なメンバーをベンチに下げ、ゲームはエキジビション・マッチに変容していた。ベッカムの登場は歌舞伎の顔見世興行を越えない。
 セリエA勢はレアルに勝てるのか? 伝統のカデナチオという時代遅れの戦法しか残されていないように思うが。

(梅本洋一)

 

2003/04/19(sat)
マンチェスター・ユナイティド対アーセナル

 

 

 今シーズンのプレミア・リーグ天王山のゲーム。最初の15 分は両チームの気合いが入り、中盤でのつぶし合い。パスが連続せず、ボールが落ち着かない。この種のゲームによくある展開。そして1本のロング・パスがファン・ニステルローイに通り、キャンベルとすれ違い様に抜け、キーパーと1対1。キーオンの追走は追いつかない。前半23分、マンU1対0。このゲームでは、アーセナルの流麗なパス・ワークもマンUの力強い攻めもない。ファン・ニステルローイとデニス・ベルカンプというふたりのオランダ人の不調もその原因のひとつだろう。そしてベッカムはベンチ、ヴィーラは膝の故障を押して出場したが、前半でエドゥーと交代。常に高い位置でアタックに参加するアシュリー・コールとピレスの左サイドの攻撃を、ブラウンが必死で止める。同じサイドを疾走するアンリに対しては、常にふたり以上のディフェンダーが対処する。まさに両チームとも相手の長所を消し合う展開。
 そして後半。一気にゲームが動く。コールのシュートがアンリに当たりアーセナル幸運な1点。そしてロング・パスがアンリに通り2点目。その直後、中盤にスペースができたところをクロスが上がり、ギグスのヘッドがゴール・マウスに吸い込まれる。2対2。実質的なゲームはここで終わっていた。ベンゲルは、ほとんど消えているベルカンプをヴィルトールに代え、疲れの見え始めたピレスをカヌーに代える。キャンベルがスールシャールに肘打ちを食らわせ一発退場の後は、アンリひとりを残し、引いて守るアーセナル。両チームの気合いは感じられたが、ゲームとしては凡庸なものに終わった。ゲーム前ベンゲルは引き分けでも良いと語ったが、いかに天王山のゲームとは言え、これはリーグ戦であり、カップ戦ではないのだ。アーセナルはマンUに勝ち点で3点差を付けられていても、消化ゲームは1ゲーム少ない。チャンピオンズ・リーグに勝ち残り、ホームでのレアル戦に勝たねばならないマンUとFAカップのファイナルを残しているとは言え、今後のゲームが比較的優しい相手のアーセナルを比較すれば、ドローで文句はない。ましてやキャンベルという重要なコマが退場という憂き目にあってもドローはまずまずだろう。どちらかと言えば、マンUは余力を残して引き分け、アーセナルはドローに持ち込んで正解。
 それにしてもアーセナルの「華麗な中盤」は影をひそめてしまった。中盤を徹底して消しにかかるニッキー・バットとロイ・キーンの動きは見事だった。だがマンUにしてもスコールズ、ファン・ニステルローイというふたりのアタッカーがまるでボールに絡んでいない。シーズンの終盤は怪我人が増え、疲労が増し、互いのスタティックスも既知のものになり対応が容易くなる。ゲームは停滞する。アーセナルに限っては、センター・バックの問題が解決されないまま積み残されている。ずっと好調なのはアンリひとり。マンUにしても、このレヴェルのゲームを繰り返してはオールド・トラッフォードのレアル戦を2点差以上で勝つことなど夢に終わるだろう。

(梅本洋一)

 

2003/04/07(mon)
ベンゲルは「名将」ではないのか?

 

 

「Number」誌最新号(チャンピオンズ・リーグ特集)のコラムに杉山茂樹が、アルセーヌ・ベンゲルは「名将」ではない、と書いている。ヨーロッパにこの程度の監督ならたくさんいるというのだ。確かに昨日の対アストン・ヴィラ戦、このサイトにも書いた対バレンシア戦を見ると、一時期のアーセナルの勢いはない。それにシーズンが深まってくると、チームそのものの問題点が浮き彫りにされてくる。センター・バックのキャンベルのパートナーの問題、ベルカンプがいない場合の選手起用の問題……。すでに書いたがアイマールのようなタメを作れるトップ下の存在感をバレンシア戦で見せられると、飛行機に乗らないベルカンプの問題はことチャンピオンズ・リーグについては大きな問題だと言わざるを得ないし、中田英寿獲得の噂も俄に信憑性を帯びてくる。だが、完全なまでにフラットな3ラインでのフットボールはその魅力を一向に減少させたりはしない。ベスト・メンバーを組めて、しかも選手の体調がよいときのアーセナルの魅力は、やはりモダンフットボールの魅力と等号で結ばれるのではないか。たとえば同時刻に行われているセリエAのどのゲームでもよいが、アーセナルのゲームとザッピングしてみれば、その遅さ、場当たり性が理解できるはずだ。ゲームは中盤の「ハンカチーフ」の面積に収斂し、ピッチの広さを感じさせないのがセリエAだとすれば、中盤のスペースを「創造」していくアーセナルのフットボールは、常に小さなテレビ・モニターの「フレーム外」に向けて、空間が脱領域化を続けていく。フラットに並んだ中盤の4人が著しいポジション・チェンジで文字通り空間を「捏造」し、ディアゴナルに走り込むアンリ、ヴィルトールがその空間を敵のゴールに向けて接続していく。こうしたフットボールは、理想的な「モダン」であり、理想的であるがゆえに常に実現可能なものではない。アーセナルのフットボールが「現実主義」から遠く、勝利という結果ばかりを収めるものではないことはその戦績が証明しているだろう。常に「理想」を追うがゆえに、どこかに綻びがあり、どこかに破綻を来すだけで、その「理想」は瓦解する。
 私たちフットボール・ファンは、常に勝利を収めるチームばかりを贔屓にしているわけではない。たとえ敗れるにしても、素晴らしいフットボールを展開し、そのフットボールがフットボールの未来に寄与するようなものであり、そうしたゲームを見ることこそ、フットボールばかりではなくスポーツを見ることの快楽なのだ。プレミア・リーグで言えば、アレックス・ファーガソンのマンUを必ずしも支持できず、セリエAで言えば、ときに素晴らしいゲームをするキエーボを除いて、リッピのユヴェントスにも、アンチェロッティのミランにも、クーペルのインテルにも、ましてやカペッロのローマの最悪のフットボールなどには興味を覚えない。リーガに目を移せば、誰が監督でも同じだろうレアル・マドリーやクライフ以降誰も監督に成功していないバルサにもフットボールの未来を感じられない。ディポルティーヴォかバレンシアはなるほどときに素晴らしいフットボールを見せるが、そこには「勝つ」ことへの「現実主義」が強く感じられる。
 確かに「勝つ」ことに関してベンゲルは最良の「コーチ」ではないだろう。だが、フットボールの窮極のモダンの在処をリスクを冒して常に追い求めているのがアルセーヌ・ベンゲルなのだと思う。年間の日本滞在日数が3ヶ月ほどで、100ゲーム以上を海外のスタジアムで見ていることを自慢にする「サッカー評論家」杉山茂樹。確かにその行動は称賛に値するだろうが、スタジアムにいると当時に複数のゲームを見ることはできない。CS時代のフットボール・ファンは、常に複数のゲームをザッピングしつつ(ときにはアルジャジーダ放送もそのザッピングの中に入ってくる)、世界の動勢を探っているのだ。

(梅本洋一)

 

2003/03/30(sun)
日本対ウルグアイ

 

 

 イラク戦争の影響でホームでの開催となった日本対ウルグアイ戦。ジーコ・ジャパンは、勝てるゲームを引き分けた。
 ウルグアイは、徹底してアウェイ型の戦いを挑んできた。中盤でのプレスを省略し人数をかけて引いて守る。ロングボールで前線に散らし、カウンターを仕掛ける。前後半にわたってウルグアイが行ったすべてだ。日本の布陣は、4-4-2でふたりのセンターバックに森岡と秋田。両サイドに名良橋と服部。2ボランチに小野と稲本、オフェンシヴに中田と俊輔、そして2トップは鈴木と高原。こうしたディフェンスをされると苦しいのは鈴木と高原だ。スペースがない中でボール・キープを強いられる。したがってペナルティ・エリア付近でのフリー・キックの回数が増える。主に俊輔が担当したFKは惜しいものもあった。先取点は広いスペースを使われ、スピードのない両センターバックの中央を割られてのヘディング。秋田の衰えが感じられた。そして日本の1点目は俊輔のPK。確かに日本の「黄金の中盤」はボールをキープするが、鈴木と高原でつまってしまう。ウルグアイの2点目は川口のミス。久しぶりの実戦のためかかつてのような攻撃的なディフェンスがまったく見られない。彼に攻撃性が失われては、単なるの背の低いキーパー。川口の移籍は失敗だった。キーパーはゲームに出てこそ実戦感覚が養われることを明瞭に示した。日本の2点目は、こうしたゲームではもっとも有効なもの。ペナルティ・エリアの周囲でボールをキープした中田が稲本にバックパスし、稲本がミドルシュートを決めた。こうした展開こそ、引いた相手には適切だ。小野も稲本ももっと積極的にミドルシュートを打つべきだった。アレックス、中田浩二がそれぞれ俊輔、小野に交代した後半。中盤のプレスがないため、このふたりがドリブルでつっかける場面が目立ったが、こうしたときこそ、短いパス交換から相手をおびき寄せて攻めるべきだ。中田浩二とアレックス程度の個人技なら、ウルグアイは容易に対応していた。名良橋について書き忘れた。何度もオーヴァーラップしたが効果的なクロスが上がらない。こうした相手ならば3バックの方がよかったろう。
 ジーコ・ジャパンの問題点。まずキーパー。川口はもう代表クラスのキーパーではない。そしてフォーメーション。4-4-2に固執しない方がよい。フレキシブルに相手に対応できる布陣を。引いた相手にはワン・ボランチで十分。3-4-3(中盤ダイアモンド)なら勝てたかもしれない。次にディフェンス。秋田は遅すぎる。別のセンターバックを試すべきだ。そして中盤。今の日本の力ではボールをキープできても相手を圧倒できない。俊輔と中田はもう少し相手を引き寄せる動きをし、高原と鈴木にスペースを与え、もっとシュートすること。

(梅本洋一)

 

2003/03/21(fri)
チャンピオンズ・リーグ アーセナル対バレンシア

 

 

  今シーズンのチャンピオンズ・リーグもアーセナルの野望は費えた。2次リーグの最終戦対バレンシアのゲームで1対2で敗れたからだ。だが、このゲームは、今シーズンのフットボールのゲームの中でもっとも面白いもののひとつだった。前半終了間際のカルーの豪快な1発でリードしたバレンシアを、後半開始直後アンリの得意な形からのシュートで追いついたアーセナル。ここまでは、よくある展開、しかもバレンシアのホーム。だが、それから先は、一方的なバレンシアのゲームだった。カルーのヘッドがゴール右隅に突き刺さり、それから先のアーセナルは全戦に放り込むばかり。終了間際にジェファーズ、カヌーを投入しても一向に流れは変わらなかった。
 アーセナルのフォーメーションは、言わずもがなの4−4−2。レギュラーではないのは、怪我のキーオンに代わってシガン(安定感では彼の方が上)、コールに代わってトゥーレ、そしてベルカンプのいないアウェイで、アンリとコンビを組んだのはヴィルトール。右にリュングベリ、左にピレス、中央にジウベルト・シウバとヴィーラ。ほぼベストだろう。確かに前半20分まではいつものアーセナル。中盤で早いパス交換とサイドチェンジ、そして前線でアンリとヴィルトールが動き回る。ワンタッチ、トゥータッチの長短のパスが織り交ぜられ、ゲームを支配する。だが、1点ビハインドになってからのゲームは、中盤を完全にバレンシアに支配された。ハーフウェイ・ライン付近でボールを獲られるので、ディフェンス・ラインが薄くなり、逆にバレンシアに分厚いアタックをくらうことの繰り返し。
 原因は何なのか。ベンゲルが言うように同点になって甘さが出たのか。かつて書いたことだが、後半の後半になると、パス交換のリズムが一定のアーセナルに対応するのが容易くなる。だからパスカットされる。つまり攻撃に変化をつけられるベルカンプの不在がここでもクロースアップされる。そしてバレンシアでは、後半特にアイマールが目立った。華麗にディフェンスをかわすドゥリブルを見せたり、ワンタッチでサイドに繋いだり、スピード不足のアーセナル・ディフェンスを翻弄していた。逆にアーセナルで不調だったのはヴィーラ(怪我のためか)とヴィルトール(どうも2トップの一角を占めると彼は調子が出ない、おそらく左サイドの2列目の方がよいのだろう)。ピレスとヴィルトールのポジションを入れ替えれば、もっとパスが繋がったかもしれないし、ジウベルトをベンチに置き、彼の位置にピレスを入れ、ピレスの位置にヴィルトールを置き、ジェファーズをスタメンで起用した方がよかったかもしれない。だが、バレンシアの勝利はそうした戦術的な理由ではなく、プレッシングを続け、アイマールに繋ぎ全員が走るという極めて単純なアタックを最後まで続けたことだ。その意味であまりにシステマティックなアーセナルにはアイマール的な選手がいない。ベンゲルが、中田英寿を狙っているという噂もその意味で嘘ではないかもしれない。それにしてもアーセナルはチャンピオンズ・リーグに弱い。
 当夜はバレンシアの火祭り。選手たちはゲーム終了後市役所前の火祭りに参加したという。大いに盛り上がったことだろう。そしてバグダッドで火の手が上がったのは翌朝のことだった。聞けば、ブッシュは、民家でサダム・フセインが秘密会議をしているというCIAの情報でトマホークを打ち込もうとしたらしい。アメリカは、今や、独裁政権の中枢にいる者たちの命を狙う国家的なテロ組織になった。

(梅本洋一)

 

2003/02/25(tue)
ラグビー日本選手権決勝 サントリー対NEC

 

 

 今年度が最後の開催になる日本選手権の決勝。これはかなり見応えのあるゲームになった。理由はふたつある。まずラグビーにおける好ゲームは30点をめぐる攻防にあると書き続けてきたが、このゲームの最終的なスコアは36対26。30点を上回ったチームが勝利を収めた。そして、ラグビーはスタイルの戦いであるとも書き続けてきたが、このゲームは、サントリーのブランビーズ流のスタイル対NECのディフェンスとモールを中心にしたスタイルの戦いになった。最終的な勝利を収めたのはNEC。ブランビーズ的なスタイルには限界があることを示した。
 この2点は重要だ。まず30点をめぐる攻防であるというのは、そう簡単にトライが取れてはいけないということ。何よりも1対1のタックルだ。ブレイクダウンの瞬間に強度を与えること。ボールを支配し続けるサントリーのスタイルにストップをかけるにはこれしか方法がない。NECの各選手はノーサイドの瞬間まで忠実にこれを実行した。最近、日本で行われるゲームは点が入りすぎる。何度も書くがラグビーはバスケットボールではない。サントリーの土田監督はこのことを理解すべきだ。次いで、サントリーのラックを連続的につくり、少ない人数でボールを出し、最終的に人数を余らせてトライを取る方法は、フィジカルに優れたチームが最終的に勝つと言うことであり、もし日本のチームが6ネイションズやトライ・ネイションズのチームに当たった場合、この戦法はまったく通用しない。ブレイクダウンの瞬間にターンオーヴァーされたら、浅めのラインで勝負するこの戦術では、すぐにピンチが訪れてしまう。事実、接点で負けなかったNECは、再三ターンオーヴァーに成功し、トライを奪った。サントリーがいくら戦術に磨きをかけたとは言え、FW陣のシステマティックなムーヴと、小野澤の個人技と両ウィングの早さだけでは、限界が露呈してしまう。サントリーの戦いぶりは常にデジャヴュの世界であり、その戦術に対応できれば──つまり、接点の強さを身につければ──、どのチームでもサントリーに勝てる。去年の秋のワラビーズのヨーロッパ遠征の結果を見れば、ブランビーズ流のスタイルがすでに現代のラグビーから遅れをとったものであることは理解できるだろう。ワラビーズは、対イングランド戦ですべての接点で負けていた。
 1995年の南アフリカのワールドカップにおける対オールブラックス戦で屈辱の145点を奪われて以来、ジャパン・ラグビーは、失われた10年を経験し、その度にジャパン・オリジナルの復権が叫ばれてきたのだった。平尾の失敗は、フィジカルに強い外国籍の選手に頼り、グローバル・スタンダードの名の下に、オリジナルを忘れたことだと総括されている。1999年当時のグローバル・スタンダードのコピーであるサントリーのラグビーが2003年に勝利を収めてはいけない。まずディフェンス、そして「しのいで勝つ」。それしかない。NECは、まずディフェンスを忠実に強烈に行い、接点に勝って──つまり「しのいで勝った」。だが、アタックについては、まだまだオリジナリティはない。箕内の獅子奮迅の活躍と、辻のボールさばきという個人技と気力でサントリーに競り勝った。どうやって点を取るのかについては、モールを押す、という解答はあまりに原始的だ。接近=連続=展開を思い出さねばならない時間が来ている。スピンの効いた早いパスでディフェンスをすれ違い様に抜いていく大西ジャパンが持っていた技術を復権させるしか方法はない。バックス陣ばかりではなく、FWもまたその「伝統工芸」を身につけなければ、今秋のワールドカップでジャパンの予選突破はあり得ない。これからジャパンが予選で当たるフランス対スコットランドが行われる。

(梅本洋一)

 

2003/02/19(wed)
6カ国対抗開幕戦 イングランド対フランス

 

 

 日程の関係から今年のシックス・ネイションズは、事実上のグランド・スラム争いであるイングランド対フランスで開幕した。結果は、25対17。イングランドが昨年のリヴェンジを果たした。点差が競っていて、それだけ見れば面白いゲームのように感じられるかもしれないが、正直、見ていて失望した。得点の内容は、イングランド1トライ(1ゴール)、6PK。そしてフランスは3トライ(1ゴール)。接点での微妙なオフサイドで得たPKをイングランドのウィルキンソンがすべて決めた。それに対して、フランスのスタンドオフ、メルスロンのキックはまったくの不調でイージーなPKをミスする有様。トライ数の差と勝負が結びついていない。それでは、3トライを挙げたフランスは、試合に勝って勝負に負けていたのか? そんなことはない。ブレイクダウンの場面では、イングランドFWが勝り、何度かターンオーヴァーを許したし、名手ガルティエは不調。ディフェンスには活躍したが、アタックでの球さばきが遅かった。バックスにボールが回っても、ラインが浅すぎて、スピードがつかず、イングランド・ディフェンスに止められる。フレンチ・フレアは見られないままゲームが終わった。
 PKでしか点の取れないイングランドと、華麗さからはほど遠いフランスBK。双方ともキックを多用し、ノックオンなどのミスも多く、ラインアウトとスクラムばかりのゲームになった。これでは面白いゲームになるはずはない。南半球3カ国を圧倒したイングランドFWはフランスを圧倒できず、ワイドに攻撃するフランスもラインが浅くスペースが作れない(それでも3トライしているのだから、メルスロンのキックが普通の調子ならやはりフランスが勝ったと思うが……)。両チームともあまりすっきりしない終わり方をしたと思う。
 では、フランスはこれからどうすればいいのか? まずSOを代える。このゲームのようにメルスロン、ガルティエのポジションを再三チェンジする戦いぶりをするなら、SOには思い切ってミシャラクを投入し、タブルSHで望む。そして何よりもフランスの攻撃の遅滞を招いているのは、両センターであって、彼らのポジションをあと2メートル深くする。全体的に深く広いラインを作り、BK陣のスピードを活かすためにスペースを作る。また自慢のフランカー陣の衰えがやや目立ったから、マーニュに代えて、シャバルをスタートから使う。とにかく私はフレンチ・フレアの展開ラグビーを楽しみたいのだ。

(梅本洋一)

 

2003/02/11(tue)
ラグビー日本選手権03 一回戦

 

 

 今回が最後になるラグビー日本選手権。1回戦の顔合わせは、大学の4強対社会人の4強。予想通り社会人の4チーム(来年からはトップリーグ入り)が勝利を収めた。関東学院対NECは、同型のチームだがNECの順当勝ち。ノックオンやペナルティの多い、実に退屈なゲーム。レフリーのゲームメイクにも考慮の余地あり。帝京対サントリーはほぼ控えメンバーのサントリーが大勝。法政対東芝は、東芝のバタバタしたラグビーが目立ち、どんなゲームをしたいのか意思統一する必要あり。法政も関東学院も社会人チームに零封されたことは単に実力差以外の何ものでもない。
 そしてもっとも注目を集めた早稲田対リコー。大学レヴェルではアルティメイト・クラッシュを続けた早稲田が、社会人では第4位の実力を持つリコーにどう対処し、監督の清宮克幸が、実力上位の相手にどんな作戦をとるのかが興味の中心だった。そして結果は64対31。このゲームも大差がついた。早稲田サイドに言い訳もあるだろう。試験シーズンの直後で、大学選手権からそのままピークを維持できなかった、等々。だが、早稲田はリコーから31点取ったのだから、勝たねばならない。6ネイションズやトライ・ネイションズという世界最高峰のゲームは、30点をめぐる攻防なのだ。64点取られ、しかもトライの取られ方が、一発でラインを破られているものが多い。清宮はサントリーから良い点をコピーしているが、ディフェンスの悪さという欠点までコピーする必要はないだろう。10トライ対5トライという差は、早稲田にディフェンス力がないことを示している。近年ブレイクダウンあるいは接点の強さという言葉が、ラグビーに万延している。センター・クラッシュする敵方のボールに積極的に働きかけ、理想的にはターン・オーヴァーだが、少なくとも敵方に容易にボールが出ないようにする。その接点の強さがゲームを制するという考え方だ。シャロー・ディフェンスで素早く飛び出すというディフェンス方法はその接点の強さの原点だ。だが、出来得ればスローペースでゲームを運びたいリコーに対して、早稲田のディフェンスは、多くの評者が語るようにファースト・タックルが弱かったから破られたのではなく、2線防御についてのドリルが足らなかったから破られたのだ。確かにワイドに展開する近年のラグビーにあって2線防御は難しいが、それでもフランカー、バック・スリーを中心に、2次3次防御までしっかり決めておくこと。FWの平均体重が8キロ軽いチームは、やはりしのいで勝つ以外方法はない。清宮体制の集大成である3年目の来シーズン、早稲田はどんなディフェンス網を整備してくるだろう。

(梅本洋一)

 

2003/01/12(sun)
大学選手権決勝 関東学院対早稲田

 

 

 点差や展開を含めて私の予想は裏切られたが、勝敗についてとりあえず誤謬はなかった。後半30分までは、27対10という点差であり、関東学院ゴール前でPKのチャンスを得た早稲田が、イージーな位置だったにもかかわらずタッチキックを狙った。27対22までに関東学院が迫ったのは、あの時点で早稲田がPKを狙わずにタッチキックを蹴ったからだろう。それほど優位に立っていないラインアウトでマイボールを奪われ、以後、関東学院のアタックを受けることになる。ラスト10分での関東学院の2トライはチームプレイの結果ではなく、個々の突破の集積だった。後半のラスト10分を除いては、つまり、早稲田の完勝だったのだ。
 最初に書いておきたいのは岩下真一レフリーの不可解なジャッジが多かったことだ。もちろんスクラムでのプッシュの方向を巡るペナライズが一貫性を欠いていたことが事実だが、それ以上にアドヴァンテージを取っている長さが場当たり的であり、スムーズな試合展開を妨げていたように感じられた。
 ゲームに戻ろう。早稲田は前半近場を攻めるだろうという私の予想に反して、開始早々からワイドに展開に一気に3トライを奪った早稲田。国立競技場にいた私は、そのときスコアボードの上にはためくフラッグの方向を確認した。確かに早稲田が風上に位置してはいたが、それほど強風ではない。この3トライにキックが絡んでいるものはひとつもなかった。私を含めた多くの観客は、大差での結末を予想したにちがいない。しかし、関東学院も次第にディフェンスを立て直してくる。ワイドな展開に対応するために、両センターを中心に徹底したドリフトを仕掛けて、特に左ウィングの仲山のスペースを消していた。浅く広く展開する早稲田に対して、このディフェンスは功を奏した。だが、問題は、早稲田のアタックを止めることができても、関東学院がなかなかターンオーヴァーできなかったことだ。両チームでペナルティとミスが増え始め、スクラムとラインアウトが増えてくる。関東学院が前半に奪ったトライは2つ。いずれもゴール前のラインアウトから始める一連のプレイから生まれた。そして、両チームともディフェンスのしのぎあいの様相を呈してくる。接点での早稲田フランカーの頑張りで関東学院側にそれほど有効なボールが出ないし、スクラムでも関東学院の立川は、この試合に照準を合わせてきた早稲田の伊藤雄大に完勝することはできない。つまり、スクラムとラインアウトで優位に立っても、ブレイクダウンの局面で関東学院はゆっくり仕掛けることができず、個々の能力以外に攻め手が見つからない。それに何よりも、早稲田との比較においてハーフ団の力不足が目立った。チャージから早稲田の高森が奪ったトライも関東学院ハーフ団のミスから生まれたものだ。
 それでは完勝に見える早稲田に問題はなかったのか。ワイドラインに対する関東学院の対応が見事なのを見て、早稲田側はラインの修正をせず、そのまま攻め続け、結局は僅差の勝負になった。もっとキックを使うなり、大田尾の位置を少し深くするなり、対応力を見せて欲しかった。堂々の真っ向勝負からもっと徹底したアルティメイト・クラッシュが見たかった。そして後半が押し詰まった時間帯ではじっくりPKを狙う余裕が相手のモティヴェイションを下げることも知って欲しい。対社会人チームのテーマは、対関東学院と同じ。セットプレイでイーヴン、そして深いワイドラインで攻める、そしてPKを狙う。その3条件がクリアできれば、2〜3チームを除いて好勝負に持ち込めるのではないか。

(梅本洋一)

 

2003/01/04(sat)
ラグビー大学選手権準決勝

 

 

 関東学院対帝京は51対28で関東学院が、早稲田対法政は43対7で早稲田が、それぞれ順当に11日の決勝に駒を進めた。
 関東学院対帝京戦は、点差以上に関東学院の圧勝という感じだったが、勝敗の帰趨が見えてからとはいえ、攻撃力に独創性があるとは思えない帝京に4トライを献上する関東学院のディフェンスには、やはり問題は残るだろう。ゆっくりとボールのリサイクルを続行しながら、ゼットのフェーズで帝京を圧倒する関東学院は、アルティメイト・クラッシュしなければならないはずだが、自らのゆっくりしたアタックのリズムがディフェンスにも感染し、個人技でディフェンス網を破られてしまう瞬間も多かった。こうしたリズムを「懐の深さ」とも形容できるが、同じようなリズムで前後半が続行されると見る方は眠気を催す。スクラム、ラインアウトといったセット・フェーズのフォワード力は抜群だが、それでトライが取れてしまうからチーム戦術としてまったく面白味を欠いている。
 早稲田対法政戦は前半だけを見れば、10対7であり(つまり後半は33対0)法政のシャローでタイトなディフェンスが早稲田を止めているが、風上に立った後半、早稲田は一気にワイドに展開し、後半10分で勝負を決めてしまった。清宮は、前半は近場を攻め、相手にダメージを与えてから後半勝負という戦術を立てたと言うが、それがピタリと決まった。ただ勝負が決まってから早稲田は、ラインが浅くなり、たびたびターン・オーヴァーを許している。何度も書いたかもしれないが、ワイドなラインで攻撃するときこそ、SOとセンターのラインをもっと深く取るべきだ。一昨年の早明戦や昨年の大学選手権のとき、早稲田は前後半で同じ戦いをし、修正できないと書いたが、今年のチームは、見事に修正できるようになった。
 さて決勝の予想、というよりもこれは希望的観測にすぎないが、早稲田が関東学院に最低30 点差つけて勝って欲しい。確かに関東学院のフィフティーンはそれぞれに才能あるラガーマンたちだが、こういうラグビーをしている限り、もっと重く、もっと緻密なプレイをする外国チームに勝つラグビーはできない。クリエイティヴでスペクタキュレールなラグビーを展開するために早稲田が勝利する義務を負っている。そのためにはどうすればよいか? 山下大悟を除いて、ひとりひとりを比べれば関東学院の圧勝だ。まず関東学院が自信を持っているセット・フェーズでイーヴンであること。スクラム、ラインアウトは少なくともマイボールは確実に確保すること。スクラム第1列の面子が安定せず、スロワーのボールが安定しないといった不安要素はある。だが勝利を手にするために、これは最低条件だ。そして第3列は関東学院よりも一歩でも早くボールに寄ること。羽生、川上そして上村に期待する。関東学院のFWを分断し、素早く田原、大田尾に展開すれば、絶対に勝機はある。関東学院に比べて唯一優れているのはハーフ団だ。大田尾もこのゲームに限っては、もう少し位置を深めに、ワイドに深く展開すれば、関東学院のフィットネスは後半には絶対に落ちてくる。そのために田原は球さばきをもっと俊敏にすること。前半を2トライに押さえれば、後半5トライはいける。前半のディフェンスの頑張りを期待する。そしてこうしたゲームの場合、PKは大事だ。センターに安藤を起用し、前半からPKは狙っておいた方がよい。関東学院は前半からFWを全面に押し立てて攻めてくるはずだ。大事なのは、何よりも前半の20分まで。その時間帯までノートライに押さえれば早稲田が勝つ。最終的なスコアは48対14。

(梅本洋一)