2004/1/4(sun)
ラグビー大学選手権2回戦

 

 

関東学院対同志社、早稲田対法政を最後にラグビー大学選手権2回戦が終了した。同志社が明治、帝京を連覇したほか番狂わせはない。だがその同志社も関東学院に完敗。12トライの猛攻を受けた。対する早稲田は、法政に19-12の辛勝。曽我部を欠いた早明戦から早稲田はゲームプランにもたつきが出て、昨年のようなアルティメイト・クラッシュを一向に見せられない。
準決勝は関東学院対法政、早稲田対同志社とマッチアップになった。関東学院は前半こそ法政のディフェンスに苦労するだろうが、後半になればFWの差で法政を突き放すだろう。早稲田は? この2回戦の3ゲームを通じて同じことだが、接点の激しさをもう2倍、ミスを2分の1にしなければ、関東学院はおろか同志社にも危ない。曽我部の故障以外にも早稲田の不振の原因はいくつかある。まず接点でのスピードのなさ。上村、羽生らの卒業で、フランカー陣のボールへの寄りが一歩遅いこと。ついでSHの後藤の球離れが悪いこと。後藤個人に、去年の田原以上の運動能力が備わっているためか、パスマシーンに徹する凡庸さが足りない。すべてを太田尾に託すくらいの機械に徹する凡庸さが彼には必要だろう。そして、何よりも──このことは誰よりも清宮が理解していると思うが──センター。ハードタックラーがひとり欲しい。2回戦では多様な人材を試し、結局、池上=今村に落ち着きそうだが、今村の才能は認めるし、池上のクラッシュも認めるが、前へ出るタックルがこのポジションには不可欠だ。そして、もう1点。蹴れるFBが欲しい。落ち着いたゲームメイクのできるFBはいないのか? 内藤慎平のアタックとディフェンスは買うが、キックがない。
同志社には、キックを封印してパスプレイに徹すること。5トライはいけそうだ。そして、3トライ以下に押さえること。だが、関東学院に勝つには、キックによるゲームメイクも絶対に必要になってくる。関東学院の完成度は去年よりもずっと高い。だが、FWで崩して山本貢でトライするパターンのラグビーはジャパンの取る道ではない。つまり、今年くらい、早稲田の勝利が必要な年はないのだ。フランスよりもワイドなラインでトライを取り、そして勝つ。それがジャパン・ラグビーの将来像と重層されるはずだ。

(梅本洋一)

 

2004/1/3(sat)
天皇杯決勝 ジュビロ磐田VSセレッソ大阪

 

 

サイドの出来がチームの攻撃力を左右する。セレッソ大阪は明らかにそんなチームだ。3−5−2の右サイド酒本がジュビロ(こちらも3−5−2だ)左サイド服部に詰め寄る。センターラインを越えた辺りで奪ったボールを中央前線のバロンへ。ワンタッチで落としたところに走りこむ森島はシュート!ではなく逆サイド大久保へダイレクトパス。シュートこそ打てなかったものの、開始早々のこのシーンが、セレッソ唯一最大の攻撃パターンであり、そして今試合における最大のチャンスだった(もちろんこれは<ゴール>ではない。あくまで<チャンス>だった)。
 中央に司令塔を持たないセレッソには、つまり高い位置でボールを奪うこと、しかもそれをサイドで実行することが重要となる。そして、サイドから裏を狙うにせよ、中央に当てるにせよ、ゴール前の勝負どころでは必ず大久保、バロン、森島が絡むこととなる。
だがふたつのことがセレッソの攻撃を失速させる。まずひとつ。中盤におけるプレス勝負に真っ向から立ち向かったこと。藤田のいないジュビロにかつてほどの中盤力はないにせよ、やはりセレッソに比べれば一枚も二枚も上手だ。均衡した時間帯もあったが、逆にいえば均衡が精一杯。もしセレッソが勝ちたかったのなら、右サイド酒本(あるいは後半から投入された徳重)をもっともっと高い位置に固定させるべきだった。守備はスリーバックと両ボランチに任せておけばよい。攻めは上記の3人と、サイドアタッカーをプラスした4人。難しいことは考えずにそれで勝負すべきだった。ふたつめ。前線のバロンの出来が悪すぎ。これは決定的にまずい事態。つまり、たとえ高い位置でボールを奪ったとしても、次の選択肢は、一直線に大久保を裏へ走らせるしかなくなるからだ。彼がすべきだったのは、とにかくディフェンス2枚(鈴木と田中)の間に位置すること。そうやって自ら相手ディフェンスをコントロールし、大久保と山西とのマッチアップの状態を作らねばならなかった。
以上のふたつは、敗因であるとともに、もちろん逆にいえばチャンスでもあった。ジュビロは、西(彼の動きはこのチームのバロメーターだといってよい)を酒本にぶつけることでサイド勝負に勝利し、鈴木を大久保につけ、そしてバロンにできるだけ低い位置(つまり全くの無危険地帯)でボールを持たせることに成功する。
 このバロンと大久保とのコンビネーションは、少しばかり日本代表を思い出させた。そしてこの試合の<MVP>名波を見たわれわれは、とにかく彼を日本チームに必要としていることに気づくのだった。

(松井宏)

 

2003/12/16(tue)
ラグビー 大学選手権1回戦

 

 

今年から方法が変わった大学選手権。1回戦に勝ったチームがA、Bグループに分かれてリーグ戦を行う。つまり1回戦のみがノックアウト・システムになっている。
16チームが戦った1回戦の中で注目の2ゲームについて。
関東学院対慶應、早稲田対関西学院。関東学院対慶應は横浜ダービーとも言えるし、もし慶應が対抗戦グループ5位にならなければ、1回戦で当たるカードではない。早稲田対関西学院は1回戦カードらしいし、勝敗(最初から早稲田が勝つに決まっている)の興味よりも、関西学院のコーチにあの横井章がついたという噂を聞いたからだ。
まず関東学院対慶應。ゲーム開始直後から関東のラッシュ。FW第一列と、ナンバー8を中心にゴリゴリ慶應FWを崩し、崩れたところでバックスに展開し、トライ。慶應伝統の低いタックルよりもなお低い姿勢で山本が、ナンバー8が慶應をはね除けながらゲインラインを越えていく。慶應のディフェンスはライオンにたかるハエのようだ。もっとも前半の早い時間帯にゴールに迫った慶應がPKからの3点に留まったが、ここでもし1トライ取れていたが展開が変わったと思う。以後、前半は、ほとんど関東ペース。5トライ。慶應も1トライを返すがそこまで。後半もまず得点したのは関東。慶應は前半からペースを変えられない。「死ぬ気でタックルして来い」という渡瀬の言葉がなかったのか。このゲームに負ければ今シーズンが終わりだという危機感も感じられない。冬の時代の慶應に戻ってしまったようだ。ところが勝負の趨勢が決まった直後から、関東が気を抜いたのか、慶應にボールに回り始める。速いテンポのアタックに関東のディフェンスがついて行けなくなる。連続2トライ(ゴール)を奪う慶應。だが、ここで関東の山本が負傷。これで完全にリズムが崩れる。再び関東ペースになりゲームが終了。トライ数3-9。24-57で終了。慶應を立て直すには相当の努力が必要になるだろう。個々のフィットネスの強化から始めなくてはならない。
ついで早稲田対関西学院。点数的には85-15という早稲田の圧勝。13トライの猛攻。だが早稲田のラインが自在に動き回るという展開ではなかった。太田尾、曽我部、佐々木、内藤兄弟らの不在。今シーズンの早稲田でキーになるプレーヤーではSHの後藤、川上、松本の両フランカー、両ロック程度。バックアップ・プレーヤーの店晒しなのだが、トライのほとんどの個人技によるもので、清宮も頭が痛いことだろう。健闘したのは関学のディフェンス。すべてがシャローで横井章流のディフェンス。これには好感が持てた。早稲田がこの状態ではとても関東からの勝利は得られない。

(梅本洋一)

 

2003/12/12(fri)
チャンピオンズ・リーグ アーセナル対ロコモティヴ・モスクワ

 

 

1次リーグ序盤で完全にリーグ突破の望みをほとんどなくしかけていたアーセナル。インテルに完敗し、アウェイでキエフ、モスクワにも勝てず、ベンゲルも目標をプレミア一本に絞った旨の発言をしていたが、ホームでの対ディナモ・キエフ戦の終了直前にアシュリー・コールのヘッドがネットを揺らしてから、前半の不調が嘘のように甦った。特にホームで0-3と完敗したインテルにアウェイで5-1と完勝したゲームは、もちろんインテルの内紛という副筋はあるものの、完全な復調を示したゲームだった。
モスクワでは引き分けに終わり、ボール・ポゼッションに終始するアーセナル・フットボールの時代が終わりを迎えたように見えた。だがこの日のゲームを見る限り、アウェイでの引き分けがまるで幻想のようにしか見えない。なぜこんなチームに引き分けたのか、まったく理解に苦しむ一方的な内容だった。もちろん、この日のアーセナルがローレンの代わりにトゥーレが右サイドに入り、センターにシガンが入っただけで、ほとんどベストメンバーだったとはいえ、後方にどんと控えて文字通りヴォランチとしてのハンドル捌きを見せるヴィーラ、両サイドをドリブルで崩すピレスとリュングベリ、コールとトゥーレのオーヴァーラップ、時折現れて素晴らしいパスを出すベルカンプ。もちろんモスクワは完全に引いて、8人がペナルティエリアを死守する専守防衛。サイドラインを切れかかったボールをアンリが拾い、右に移動したピレスにパスすると、ピレスが空いた中盤を切れ込んで鋭いシュート。この得点はアーセナルをB組1位に導いた。
モスクワの専守防衛の周囲をボールが渦を巻くように回り始め、次第に半径が狭められ、ペナルティエリア周辺で小さなパス交換が連続するに伴って、モスクワのディフェンスに小さな隙間が生まれ、そこにリュングベリが飛び込んで2点目。
アーセナルは相手をあざ笑うかのようにポゼッションを続け、このゲームに完勝する。来年2月に始まるノックアウト方式の決勝トーナメントまでとりあえずプレミアに専念できるのは、選手層の薄いこのチームにとっては嬉しいことだ。もうレスターに引き分けている暇などない。

(梅本洋一)

 

2003/12/10(wed)
ラグビー 早明戦

 

 

毎年書くことだが、学生ラグビーは判らない。圧倒的に優勢だった前半を終えると、早稲田がミスを連発し、ゲームは明治ペースになった。なぜか? 太田尾の右足の故障と、曽我部の欠場が原因だ。自陣に押し込まれてから、マイボールになってもキックが使えない。自陣ゴールライン5メートルからでも無理矢理アタックするしか選択肢がないのだ。明治としても敵ボールになったとき、早稲田の選択肢がアタックしかないことが判っているから、前に出てディフェンスをすればよい。早稲田はなかなかゲインラインを切れない。悪循環。それでも30分は耐えたが、その後に一気に2トライを奪われ、ゲームは24-17。早稲田はわずか1トライ1ゴールのリードだけだ。結局、その後にワントライを奪った早稲田が29-17で逃げ切りはしたが、煮え切らないゲームだった。
大枠から考えるとすでに早明戦は大一番ではなくなっている。明治が2敗し、対抗戦の優勝はすでに早稲田に決定しているし、かつてのように対抗戦こそラグビーの中心で、その後はおまけというシーズンではなくなったこともこのゲームに緊張感を欠く理由になっているだろう。大学選手権はトーナメントからベスト8が2グループに分かれてのリーグ戦になったし、大学選手権が終わってからジャパン・カップでトップリーグに属するチームとの対戦が待っている。つまり早明戦をベストコンディションに持っていくことは、それから先のシーズンに良い影響をもたらさないのだ。
フォワードの体重もスキルも劣っているのに、モールとスクラムに拘る明治は根本的に戦術を変えなければ未来はない。早稲田の方は、曽我部の怪我が重そうなので、大学選手権の1回戦(関西学院戦)は思い切って太田尾を休ませ、リーグ戦に入ってからベストに持っていく工夫をすべきだろう。曽我部を欠いたチーム戦術をどうするのか? ワイドに振るパスが使えない限り、チャンネル2で勝負すべきだろう。チャンネル1で勝負していては、関東に勝てない。両センターの間のパスプレーを洗練させ、センターで抜けるラグビーを創出することだ。センターで抜けた──もちろんFBのライン参加が不可欠だ──ところでウィングがフォローしていくラグビーが一番手っ取り早く習熟するはずだ。だからラインを深く、やや狭くとることだ。そしてタックルとキックのできる選手をSHの後藤以外に最低ひとり入れておくこと。100名以上の部員を抱えている早稲田なら誰かひとりくらい抜擢できるのではないか。清宮のチームマネジメントの腕の見せ所だ。

(梅本洋一)

 

2003/12/2(wed)
アーセナル対フルアム

 

 

インテルを6-1という驚異的なスコアで下したアーセナルが本拠地ハイバリーに戻ってフルアムを迎える。気分良くホームに帰ったアーセナルは、ローレン、ヴィーラを欠いても、絶好調に見える。今シーズン見たことがなかったほど中盤でワンタッチ、トゥータッチのパスが繋がり、昨シーズンの絶好調時に戻ったようなアーセナル。見る人は全員、フルアムのゴールが破られるのは時間の問題だと思ったにちがいない。アンリは稲本とフォルツがふたりがかりでマークし、右サイドにもふたりを配している。まったくアタックを捨てたようなフルアム。
 事実、何度もゴールを脅かすようなシュートがフルアムを襲う。ベルカンプ、アンリ、リュングベリ、ピレス……。前半はショッツ・オン・ゴールが7本。対するフルアムのそれはゼロ。このスタッツは、アーセナルの猛攻を示しているし、アーセナルが良かったころのフットボールを思い出していることを示しているだろう。点が入らなかったのは、ファン・デル・サールが好セーブを連発したからだ。
翌日の新聞は、フルアムが最初から引き分けを狙いアーセナルがその術中にはまったと書いてあった。だが、フルアムは、そんな芸当のできるほど成熟したチームではない。単にディフェンスに精一杯で、アタックに人が割けなかっただけだ。だが、アーセナルの猛攻にフルアムのリズムが次第に合ってくる。同じリズムでてきぱきと攻撃を続けるアーセナルの勤勉さ。昨年も書いたが、これはこのチームの長所であると同時に短所だ。同じ攻めをこれでもかこれでもかと反復すると、ディフェンダーたちもそのリズムに慣れ、パスやシュートのタイミングを読みやすくなるからだ。それにアーセナルは、常に美しくディフェンスを崩すことを志向しているから、めったにロングシュートが来ない。ゴールエリアでどっしりと構え、ファン・デル・サールがシュート・コースを読めるようにディフェンスすれば、今日のキーパーの調子なら、失点はしないのではないか。フルアムのディフェンダーたちは次第にそう考えるようになるだろう。
後半、ディフェンスに余裕の出たフルアムは、ときにカウンター・アタックまで繰り出すようになる。前半はまったく暇を持て余していたレーマンも、ひやっとするようなシュートに見舞われる。焦っているのはアーセナルのように見えてくる。これほどボールを支配し、これほどシュートを打っているのに入らない。カヌを入れ、アリディエールを入れ、攻撃陣を強化する。去年あれほど調子が良かったのに引き分けが多かった原因は、この日のゲームと同じだ。アタックにチェンジ・オヴ・ペースがないからだ。ロング・シュート、クロスからのヘディング、ドリブルでアタック──そうした選択肢があるのに、ひたすらきれいなパスワークに拘る。ユーロ2000の準決勝でオランダがイタリアに勝てなかったゲームにこの日のゲームは似ていた。

(梅本洋一)

 

2003/11/28(fri)
チャンピオンズ・リーグ アーセナル対インテル

 

 

ラグビー三昧の日々を過ごしている間もチャンピオンズ・リーグは進行中だ。まったく調子の出ないアーセナルはすっかりチャンピオンズ・リーグを捨ててプレミア・シップのみに集中していたと思われた。ベンゲルのコメントも、一番大事なのはプレミア・シップだ、と何度も繰り返されている。ハイバリーでのインテル戦に0-3の完敗。キエフにもロコモティヴ・モスクワにも勝てない。それが、対キエフ戦のラスト1分アシュリー・コールのヘッドで勝利を収めて以来、この日はサン・シーロで5-1の快勝。
ベルカンプ、ヴィーラ、ローレン、ヴィルトールの不在。2トップの先発は、アンリ、カヌー。一方のインテルはザッケローニ就任以来負けなし。もちろんこのゲームにアーセナルが敗れれば、予選リーグ突破の道は完全に閉ざされる。誰もが1-0ぐらいでインテルの勝利を予想したろう。確かに前半は1-1。アンリとヴィエリの両エースの得点。後半開始早々アンリからのリターンをリュングベリが決めてアーセナルがリードを奪うとザッケローニは定石通り選手を代えて、この夜も勝利をめざす。リズムが変わったのはこのあたりからだ。
コルトバ、サネッティが右サイドでアンリのマーク役を務めていたが、前がかりになり、アンリにスペースを与えてしまう。アンリが左サイドを駆け上がり、何度もマーカーを振り切る場面に出会うことになる。後半30分までには、それでもインテルがゲームを支配し、いずれはアーセナルのゴールマウスにボールが飛び込むだろうと考えた瞬間、左サイドでアンリがセネッティを振り切り3-1。勝負は決まった。
別にアーセナルが良いフットボールをし、インテルの守備がまずかったというわけではない。そうではなく、ラスト10分まではイーヴンだった。だが残り5分からアンリがエドゥーがピレスが、トルドを翻弄するようにゴールを生産していく。何となく勝ち、しかも5点入ってしまったアーセナル。中盤とバックがよくしのいだのは確かだが、アーセナルにとってはとてもラッキーな勝利でしかも5点もはいってしまった。予選リーグのラストゲームはハイバリーでの対モスクワ戦。おそらくアーセナルは決勝トーナメントに出場できるのではないか。

(梅本洋一)

 

2003/10/10(fri)
日本対チュニジア

 

 

開始早々にわれわれを驚かせたチュニジアチームの変貌ぶり──もちろん先のW杯でのチュニジアチームからのだ──だったが、前半30分過ぎからそれは軽い驚きと失望に変わった。日本チームに点を取られてからは、それまでの引き締まったオートマティスムが完全に崩れ、点と点ばかりの漠然たるかつてのチュニジアチームに戻ってしまう。
逆に言えば日本チームが良かったのか? そんなことはないはずだ。もちろん小野はボールのないところで守備のバランスを取り、中田は相手のパスコースを絶妙に消しながら身体を寄せ、急造の4バックは無難に守備をこなした。見ての通り守備面では及第点だろう。だが攻撃に関しては、たとえアウェ−用の戦術だったとしても、何ともお粗末だったはずだ。
そもそも「及第点」である守備は、あくまでも自陣での守備である。ボールを奪うのは低い位置に限られ、奪ってからのパスも雑なロングフィードか──特に中沢はひどい──、あるいは消極的な横パスの連続。これでは、たとえロングで前線に渡ったとしても攻めの人数が足りないし、横パスで前まで運んだとしてもチュニジアの赤いユニホームがすでにひしめく。 
このことは小野、稲本の両ボランチを観察していればよくわかる。小野は下がり目で守備バランスを取ることに酔いしれて攻撃へのアクションを忘れ、稲本は「まず守備、そして前線への繋ぎあるいはロングラン」の基本を忘れ中途半端なポジションで多くの時間を無為にすごす。たとえばどちらかの代わりに遠藤を──もし他のポジションを変更しないならば小野の代わりだろうか──を入れる選択肢はなかったのか? 彼ならば攻撃への意志あるパスを繰り出せたはずだ。それとも「黄金のカルテット」を崩すつもりはジーコにないのだろうか? 個々の意志ではないチームとしての意志を、ジーコはいつまでも放棄するつもりなのか?
 茂庭のクリアが偶然スルーパスとなり、柳沢が偶然1対1を決め(もちろん鈴木がディフェンスを押さえた功績はあるにせよ)、つまりそんな「アクシデント」でしか点の取れない日本チームは、いつになったら攻撃の意志を持つのだろうか?

(松井宏)

 

2003/10/5(sun)
リヴァプール対アーセナル

 

 

ベルカンプ、ヴィーラ、リュングベリを怪我で欠き、マンU戦の「暴力事件」──プレミアではこういう事件がいちばん嫌われる──以降、ロコモティブ・モスクワとやっと引き分け、ニューキャッスルを3-2でようやく振り切ったアーセナルがアウェイでリヴァプールと対戦。リヴァプール監督のジェラール・ウリエは、このゲームが今シーズンの運命を決するとイレヴンを鼓舞してピッチに送り出す。イングランド・メディアは、アーセナルをピッチ上のデーモンとさえ非難した。オーウェン、キューウェルの2トップを擁するリヴァプールは、スタートダッシュに躓いたが、それでも実力を備えたチームであることは述べるまでもないだろう。
そしてこのゲームはとても面白かった。迷走してはいるが、プレミアシップでまだ負けのないアーセナルを、ゲーム開始早々からリヴァプールは全開で攻撃する。特にめだつのはキューウェル。得意の左ばかりではなく、中央にも右にもポジショニングし、オーウェンのシャドウ・ストライカーに徹しているように見えるが、抜群のポジショニングと、球さばきで、まさに躍動している。ある時間帯のボール支配率は、81-19でリヴァプールと表示された。アーセナルはボールに触れることもできない。アーセナルのゴールネットが揺らされるのは時間の問題だと思われたその瞬間、リーセのクロスがオーウェンに当たり、こぼれ球を走り込んだキューウェルがヴォレー。前半14分のこと。それ以降も、リヴァプールは押しに押していた。だが、同30分、ピレスのFKにエドゥーが合わせ、そのヘッディングされたボールがヒーピアに当たって、幸運なゴール。1-1で前半は終了。圧倒的にボールを支配し、ジェラードからの長いパスが両サイドに、オーウェンに散らされ、父の葬式から戻ったキャンベルが、そのアタックを体を張って止める。アーセナルに得点チャンスがあれば、セットプレーだとうと思われたその瞬間、ピレスのクロスにエドゥーが反応した。ダウン寸前まで追いつめられたアーセナルの起死回生のゴール。前半は1-1で終了。
そして後半、攻め疲れだろうか、余裕を持ちすぎたからだろうか、バックラインでパスを始めたリヴァプールに、アーセナルのFWとMFが一気にプレスをかけ始める。ペースは徐々にアーセナルの方へ。中盤の帝王のように見えたジェラードの運動量が落ち始めると、アーセナルの両翼とアンリが活躍を始める。ピレスとレイ・パーラーから常に攻撃が開始され、ディアゴナルに走るFW陣がパスを受ける。ペースは次第にイーヴンになり、今シーズンすっかり影をひそめていたアーセナルの中盤が、少しずつ機能し始めている。左サイドからのピレスの、見事なゴールが決まったのもそのころだ。ドゥデックをあざ笑うように、やや左へと弧を描きながら、ゴールネットが揺れた。ピレスの出来はとりあえず今期最高。リードしてからは、左サイドばかりではなく、トップ下に位置し、ボールの供給源になっていた。このゲームを見る限り、モスクワでの(負けなければ十分という)無気力な戦いぶりとは雲泥の差。ヴェンゲルはもうチャンピオンズ・リーグは捨てているのだろうか? 次のインテル戦で明らかになるだろう。

(梅本洋一)