2003/09/24(wed)
ラグビー 早稲田大学対ケンブリッジ大学

 

 

関東学院、法政と撃破したケンブリッジとの最終戦に早稲田が勝利したことは、とりあえずグッド・ニュースだ。FWの平均体重差が12キロのスクラムを耐え、ワイドなラインからウィングで勝負する清宮監督の唯一の作戦(フランスによく似ている)が実を結んだ。春から夏にかけてのオープン戦では対関東学院に連敗しているこのチームが関東学院に勝ったケンブリッジに勝利を収めたことは、今シーズンの大学選手権に向けて早稲田としては明るい話題だろう。
だが、欧州や南半球の大学チームは、プロ化以来、明瞭にレヴェルを下げている。10年前ならジャパンと当たっても勝利を収めたかもしれないケンブリッジは、現在、スピードも戦術もフィットネスもない。関東学院も法政も勝てるゲームを落とし、早稲田は順当に戦ったと書くべきだったろう。イングランドの貴族的なスポーツたるラグビーは、この10年間で姿を変えているのだ。大学チームでラグビーなどする必要はなく、ラグビーをするなら、高校卒業後、直接プロに入る。フットボールでは当たり前のことが、10年遅れでラグビーにも押し寄せているにすぎない。少なくともケンブリッジ大学は、トップ・プロのチームと比べものにはならないわけだ。
私は、そうした単純な「現状」を前にして、その時代を肯定すると同時に、大学チームがハイレヴェルだった時代にある種のノスタルジーを感じてもいる。大西ジャパンがニュージーランドに遠征した当時、NZUはU23の次に位置するチームだったろうし、オックスフォードケンブリッジ連合軍は、準ブリティッシュラインオンズという格付けだった。そうした当時、たとえば70年代のウェールズ代表の名FB、JPRウィリアムズは外科医でもあったし、70年代から80年代にかけてのフランス代表のSHジェローム・ガリオンは歯科医だったし、確かフッカーのダントランスはカジノのクルピエだったはずだ。別の仕事を持ちつつ、代表選手に登りつめる。仕事を優先し、代表を辞退することもあるのは自然だ。たとえば歯科医ガリオンは、週末ラグビーをするが、平日は予約の患者がいたので、遠い場所への遠征には常に不参加だった。その時代のウェールズ代表SHのベネットは、「自伝」という「売名」をしたので、代表に戻ることはなかったし、若い日の平尾誠二は、ファッション雑誌のモデルをしたことで一時干されたこともあった。アマチュアリズムとコマーシャリズムの間の壁にラグビーほど敏感なスポーツはなかったのだ。
私がノスタルジーを感じるのは、そうした厳格なアマチュアリズムに対してではない。たとえばイングランドのウィルキンソン、フランスのガルティエなどはもちろん名選手だが、外科医でも歯科医でもないし、ましてやクルピエでもない。彼らはラグビーの選手以外に考えられない。優秀な外科医であり同時に代表チームのFBであり(確かJPRはウィンブルドン・ジュニアで優勝したこともあったのではなかったか)──というようなことは、今では、極めて難しくなっていること。私がノスタルジーを感じるのは、そうした過去についてだ。

(梅本洋一)

 

2003/09/23(tue)
アーセナル対マンチェスター・ユナイティド

 

 

水曜日のインテル戦以降、アーセナルには厳しい日程が続く。プレミア通常開催日の日曜は、対マンチェスター・ユナイティド戦。すでに書いたようにチャンピオンズ・リーグ第1節はアーセナルは惨敗、マンUはパナシナイコスに完勝。プレミア前半戦の大一番に来たいが高まったが、ゲーム内容は最低。どちらも「勝つ気」がないのが見え見えの一戦。どちらかと言えば、マンUにはやや勝負をする気があったように見えるが、アーセナルは、完全にドロー狙いのゲームで、一応、その目的を達成はした。
ピレス、ヴィルトールを控えに回し、キャンベルは父親の死でお休み。パーラー、ベルカンプ、キーオンを起用。マンUは、バット、スールシャールをチャンピオンズ・リーグ用に起用し、この日はお休み、そしてスコールズは怪我。両チームとも戦力としては同等か。だが、ボールが落ち着かないというプレミアにありがちが開始後20分が、ゲーム全体に及び、「今日はこう戦うのだ」という理念が、ゲームからまったく伝わってこない。ピレス、ヴィルトールを欠いたアーセナルは、「中盤」がうっすらとあるだけだし、ロナウドという才能の力は垣間見えるものの、マンUもゲーム・プランが見えない。まるで高校の体育の時間のサッカーのようなゲーム。スペースが空き、両チームの間をボールが行き来するだけの展開。これでもプロか? しかもプレミアを代表する2チームか? 東洋の果てで眠気を押さえながら見つめる私がバカなのか?
それでもゲーム・プランとはまったく関係のない見所が後半も押し詰まったころに見られる。ファン・ニステルローイがヴィーラを押し倒し、ヴィーラがファン・ニステルローイに報復するという脅しをかけるように足を蹴り上げる振りをし、2枚目のイエローを食らって退場。両チームの選手ともそれまでのゲーム展開にフラストレーションを貯めていたはずだ。それがこれで一気に爆発。ロスタイムにキーオンがフォルランを倒しPKを与え、ファン・ニステルローイがバーに当てて失敗し、タイムアップのホイッスルが吹かれると、アーセナルのディフェンス陣がファン・ニステルローイを小突き始める始末。
オールド・トラッフォードに満員の観客も、テレビの前に座る全世界の観客も、こんなゲームは見たくない。もしヴェンゲルが、最初からドローを狙った緩いゲームを思い描いたなら、ファーガソンはインテルのようにアーセナルに冷水を浴びせればよいはずだ。だが、マンUもまたアーセナルに合わせた展開。テレビのモニターには間延びした中盤にポツポツと選手が映っているだけ。確かにチャンピオンズ・リーグが開幕し、日程はタイトになり、選手には疲れがたまりはじめるだろうが、僕らはこんなフットボールは見たくないし、初めてフットボールを見た人なら、例外なく、もうフットボールなど見ないと思うにちがいない。ボール・ポゼッションはイーヴンで、しかもスコアレス・ドロー。スタッツはそれを示すだろう。だがフットボールはスタッツでも結果でもない。一瞬一瞬に作られるプロセスであり、時間と空間の拡大と逸脱だ。監督も選手もどんなゲームでもその志を忘れてはならない。

(梅本洋一)

 

2003/09/19(fri)
チャンピオンズ・リーグ第1節 アーセナル対インテル

 

 

 ハイバリーにインテルを迎えたアーセナル。チャンピオンズ・リーグ第1節の好カード。だが結果は3-0でインテルの圧勝。俯き、左手で顎をなでるベンゲルの顔が印象的だった。インテルのフットボールはディフェンスばかりでつまらないと酷評されるが、「守ってカウンター」というクーペルの戦術が、これほどはまったゲームもないだろう。
 ゲーム開始直後、アーセナルがいつもように中盤でボールをつなぎながらインテル・ゴールに迫るが、インテルはまったく乱れるところがない。中盤のザネッティとエムレが巧みにバランスをとりながら、ピレス、リュングベリを押さえ、ハーフラインから自陣10メートルのところでボールを奪い、両サイド(ファン・デル・メイエ、キリ・ゴンザレスに開くか、スピードのあるマルティンズにパスをするのが決まり事。そこからフリオ・クルスが、マルティンズがトゥーレ、キャンベルを振り切ってゴール、あるいは、こぼれたところを右からファン・デル・メイエがヴォレー。インテルの前半のシュートはこの3本、そして点差3-0。ゲームはこれで決まった。確かに2-0になったところで、アーセナルはPKを得たが、アンリのPKがトルドに阻まれる。
 後半はインテルがゆっくりと守る。インテル陣の10メートルまでアーセナルは攻め込むが、それからスピードアップしてアンリ、ヴィルトールにボールが渡ることはない。それで終わり。
 アーセナルはどうしたらよいのか? ホームで0-3の敗北。いくら中盤でボールが美しく繋がろうとも、ゴールを奪えないことにはゲームに勝つことはない。このゲームでカンナヴァロが目立つシーンはひとつもなかった。インテルの洗練された「カテナッチオ」とどうやって崩していけばいいのか? もちろん展開としては、アンリのPkが決まっていればこれほど差がつかなかったとも言えるが、それは単に結果論で、このゲームを解説した粕谷秀樹ではないが、「ショックは大きい」。まずこのゲームでもセンターバック2人の問題がある。キャンベルはゴール前ですぐにタックルに入るし、トゥーレはあっぷあっぷ状態。そして中盤に目を移せば、ピレスの出来が悪く(後半に交代)、ジウベルト・シウバ(後半交代)からの展開がない。インテルが引いたこともあったが、後半、ベルカンプが入ると、それなりにチャンスが生まれたことも事実。1次リーグを抜け、ベスト16まで進みたいのなら、思い切ってフォーメイションを変更すべきだ。トゥーレに代えて、ヴィーラをセンターバックに、そしてピレスとベルカンプをセンターハーフに据えて、リュングベリ、ヴィルトールの両サイド、ジウベルトのワンヴォランチ、そしてアンリのワントップ。センターバックを盤石にし、中盤を厚くし、ワンタッチ・プレイを増やし、素早く両サイドに展開する。このゲームを見る限り、球際ですべてインテルに負けていたアーセナル。ならばもっと早いパスワークで球際勝負になる前に展開するしかないだろう。このB組は2位で抜ければいい。今週末は、アウェイで対マンチェスター・ユナイティド戦。アウェイのモスクワとキエフではベルカンプを欠くことになるが、そこで勝負だ。ヴィルトール、リュングベリの運動量と頑張り。まだ立て直す時間はある。とりあえず悪夢は忘却するだけだ。

(梅本洋一)

 

2003/09/16(tue)
ラグビー・トップ・リーグ開幕 神戸製鋼対サントリー

 

 

 本当にようやくトップ・リーグが開幕したラグビー。世界各国がプロ化への道をほぼ完了した今、日本のラグビーはようやくオープン化の道を歩み出した。と、書きつつサントリー対神戸製鋼という「会社名」対決とはいったい何なのか?suntory、kobelkoはユニフォームのロゴに入っていてもいいけれども、プロ契約選手を含む会社のチームといったところにまだまだラグビーの旧態依然としたシステムが自己主張している。それでも関東協会、関西協会、九州協会がそれぞれ行っていたリーグ戦を一本化することだけはできた。若手の底上げのためには大学のクラブチーム(オール早稲田でもオール明治でもいい)を入れるべきだろう。現在、大学を卒業した優秀選手は、社会人チームに所属しない限り、レヴェルの高いゲームに参加することはできない。私はフルタイムのプロ化ばかりを推進するべきだと思っていない。社会人チームに所属しなくても、優秀な選手は何らかの形でレヴェルの高いゲームに参加できるようにすべきだと思っているだけだ。
 ところでゲームの方は? それなりに楽しめたことは正直に書いておく。両チームの選手たちは、一生懸命にプレイしていた。高々3万5千の観客しか入らないのになぜ国立競技場で開幕するのか、秩父宮で十分だし、イングランドでトゥウィッケナムでなくどこかの陸上競技場でラグビー・リーグが開幕することなど考えられない。結果はサントリー8トライ、神戸4トライ(54-31)。サントリー、小野澤の4トライ、瓜生の2トライを褒めるよりも、対面の神戸の両ウィングを含めたバック3のディフェンス力のなさを責めるべきだ。特に大畑のディフェンス力は目を覆うばかり。これではモンフェランと契約できないのは当然だ。同時にこの点差は、サントリーの3列と神戸の3列の力の差だ。小村、富岡引退の穴は埋まっていない。それに比べてサントリーの新人はその能力の高さを十分に示した。上村康太の絡み、菅藤心のディフェンス力は、少なくともこの試合に関する限り素晴らしいものだった。だが、サントリーの問題もディフェンスだ。吉田、元木の「昔の名前で出ている」両センターに振り回されるようでは、またNECに敗れるだろう。このゲーム・レヴェルでは2トライに押さえて当然だ。それにしても、サントリーの田中と神戸の苑田の両SHを比較すると、このゲームでは絶対に田中だ。苑田のパスは遅いし、ポジションも悪い。これで「代表」はないだろう。

(梅本洋一)

 

2003/09/11(thu)
日本対セネガル

 

 

 新潟の異常に高い湿度のためか、ゲームの展開が遅い。と言っても、これは日本代表のアタックに関することで、セネガルの戦術は実に単純。カウンター・アタックのみ。スピードを活かしてサイドから攻める。これだけだ。戦術が単純であれば、そこに必ずオートマティスムが働く。「僕らはこれをすればよい」。ジーコが監督になってからは、トゥルシエが主張したオートマティスムがまったく感じられない。それぞれのこの技術を活かすのはよいが、なるべくマイボールをキープしながら攻めるというのでは、攻撃が一気にスピードアップする瞬間がなくなるだけだ。
 ラグビーのフランス対イングランド戦の戦評をフランスの日刊紙で読んでいたら、フランスの敗因をオートマティスムの欠如に求めている記事があった。ワイドに展開するという決して単純ではない戦術を選択すると、確かにオートマティスムを産み出すのには時間がかかるだろう。ジーコの求めるフットボールに、流れるようなパスワークが繋がる快楽が欠けている原因もそこにあるのではないだろうか。
 なるべく長くボールをキープし、安全に攻めていくのが原則なのは、このゲームにも見えた。だがボールをキープする──たとえそれがワンタッチ、トゥータッチであっても──間に、セネガルは守備陣形を整え、アタックする空間が埋められてしまう。生まれたときからフットボールに親しんでいるブラジルの選手たちならば、それでもオートマティスムが生まれるかも知れないし、単独で仕掛けて相手を抜けるかも知れない。ロナウドやロナウジーニョを見れば納得できるだろう。だがこのゲームにおける中田を見れば、ゲームとしてのオートマティスムが必要なことは分かるはずだ。日本人でもっとも技術に長けている選手であっても、チームとしてオートマティスムがなければパスを出すために、一瞬のタメが必要になり、その瞬間、相手に囲まれてボールを奪われてしまうことがこのゲームには何度もあった。それは中田が不調だったからではなく、チームとしてのオートマティスムが皆無だったからだろう。バックラインでキープした後、誰にボールが渡るのか、その後、どのようにアタックが組立てられていくのか、最低限、その程度のオートマティスムは不可欠だと思う。(私はジーコの前任者を懐かしんでいるわけではない。彼のオートマティスムはバックラインの上げ下げだけで、それを愚鈍に実行していた宮本は何度も痛い目にあったし、アタックにおけるオートマティスムはトゥルシエ・ジャパンでは結局、そのラストゲームまで見ることはできなかった。)
 後半28分で小野伸二が入ると、膠着したゲームが動き始めた。ほとんどがワンタッチのクリエイティヴィティ溢れる彼のパスは流石だった。もしジーコに小野と同様のクリエイティヴィティがあったなら、稲本、遠藤、小野の3人を中盤の底に据え、中田をセカンド・ストライカーとして1,5列目に動かす工夫があったかもしれない。今回は招集を見送られた高原のパートナーは中田以外に考えられない。それに柳沢とアレックスを使う理由がこのゲームでもまったく分からない。ノーマークで足下に来たボールを空振りするストライカーはプロには必要ないし、相手の左サイドに置いて行かれる左サイドバックは適性を欠いている。レギュラー・クラスを寸評すれば、唯一の失点は坪井のフィジカルの弱さだし、彼はフィードができない。宮本は誰の目で見ても、このゲームではノーミス。山田、遠藤は及第点。稲本は、後半30分以降の動きを前半からやればチームはもっと活気づいたはず。大久保はガッツだけで勝負できないことを覚え、常にシュートを打つこと。そして俊輔は? 確かにフリー・キックは魅力だが、このゲームでもフィジカルの弱さが目立った。本山と黒部は、まだこのクラスに達していない。

(梅本洋一)

 

2003/09/10(wed)
ラグビー テストマッチ
イングランド対フランス 第2戦

 

 

 先週のマルセイユでフランスはあまりに美酒に酔いすぎたのではないか。事実、17対16という辛勝にもかかわらず監督のベルナール・ラポルトは、ノー・サイドのホイッスルと共にスタンドで両手を高々と上げて歓喜の表情を示していた。冷静にゲームを振り返れば、イングランドが勝てるゲームを落としたというのが正解であることはこのコラムにも書いた通りだ。そして、このゲームのイングランドはほぼベストメンバーであるのに対し、フランスは13人ものメンバーを入れ替え、バックアップの確認を、アウェイで──このゲームはラグビーの聖地であるロンドンのトゥエイッケナム、しかも7万の観衆を集めている──行おうとした。結果は45対14という歴史的、屈辱的(キャプテンのフッカー、イバネズの言葉)な敗北に終わる。ワールドカップ開幕まであと一ヶ月、1週間前のイングランドは対フランス戦の惜敗を立て直し、フランスは辛勝を完勝と勘違いした。
 まずフランスのメンバーについて書いておくべきだろう。自慢の第3列(ベッセン、マーニュ、アリノルドキ)を全員温存し、タバック、シャバル、ラビ、ハーフ団にはヤシュヴィリ、メルスロン、センターにはジョジオン、リンデンバーグ。そして対するイングランドには満を持してSOにウィルキンソンが起用された。メルスロンのPGが決まり、フランスがリードしたのもつかの間、前半は完全なイングランド・ペース。ベン・コーインの2トライ、ボシュローの1トライをはじめ、ウィルキンソンが3つのPGを決め、33対3というスコアで前半を終える。接点ではイングランドが圧倒し、フランスには生きたボールがまったく出ないし、何度もターン・オーヴァーを許す。そしてセンターのジョジオンとこの日ウィングに起用されたガルバジョザのタックルの弱さが目立つ。フランカーのタバックはイエローをもらい、この日のメンバーで合格点のつくのはナンバー8のラビのみ。イングランド対フランスBのゲームのようだ。もっともFWがこれだけ劣性ならば、SHのヤシュヴィリの力などはかりようがない。常にプレッシャーを受けた中での玉捌きを強いられ、浅く広いフランスのバック・ラインにボールが渡った頃は、イングランド・ディフェンスのタックルの餌食だ。
 後半メンバーを落としてきたイングランド(当然の選択だ)に対し、フランスは、マーニュ、ルージュリーを投入し、後半だけのスコアを見れば、なんとか11対12という面目を保ってはいるが、解説の小林深緑郎の言うとおり、フランスはベスト・メンバーを組まなければ、イングランドと対等に勝負できない。
 ラポルトは、この夏のテスト・マッチ・シリーズで徹底してワイドな展開を試していた。浅くワイドなラインでトライを取りに行く戦術は分からないわけではない。だが、そのためにはボール支配率が最低イーヴンであり、それも少ない人数で生きたボールをラインに出す必要がある。どのゲームでもラスト・パスがぶれて、攻撃が遅滞する。結局ラポルトの作戦が成功したシーンには一度もお目にかかったことがない。試みは是とするがすべて失敗している。どうすればよいのか。今のままでは、予選リーグは楽に突破するが、決勝トーナメントに入って苦しい。イングランドとはセミファイナルで当たるだろうが、勝ち目はない。まず接点におけるFWの強化──これはイングランドのように力で圧倒する方法ではなく、早さで勝負すること。接点をなるべく避けて、展開力で勝負すること。そして、バックスにおいては、ワイドのワンパターンから脱却し、それぞれのイマジネーションでひとり抜くこと。なんだ単に伝統的なフランチ・フレアじゃないか──その通り。こうしたときは、出発的に戻って考え直すしかない。

(梅本洋一)

 

2003/09/2(tue)
ラグビー テストマッチ
イングランド対フランス

 

 

 10月から始まるラグビー・ワールドカップへの最終的な調整のゲームが続いているが、8月30日と9月6日には、その中で最高のカードとなるイングランド対フランスの2連戦。30日は、マルセイユでその第1戦が行われた。
 実際にそのゲームを目にした者は、まず自らの目を疑う。これは調整マッチなどではないのだ。血で血を洗い、骨を削る本当のテストマッチの様相を呈しているからだ。イングランドはW杯の選手の最終選考を終わっていない。フランスは、すでにメンバーが発表済み。その差異はあるかもしれない。だが、イングランドには最終選考に残るために選手たちの必死の形相があり、フランスにはイングランドに勝利を収めない限りW杯の勝利はないといった拘りがある。つまり、このゲームは、局面局面において見所はあるが、ゲーム全体としては、両チームとも徹底して勝利に執着するあまり、冒険的な戦術を封印したままの、ディフェンス勝負になった。
 ゲーム開始直後からシャローのディフェンスで鋭いタックルが連発される。スクラムでも主審のEngage!の声で、両チームのプロップの頭が当たる騒音が聞こえる。出血による一時交代が相次ぐ。W杯直前で何よりも怖いのは怪我のはずだが、このゲームに限っては、まるでトーナメントに入ったW杯の本戦さながらに展開していく。イングランドのFWのものすごいプレッシャーでフランスは展開することができず、SOのミシャラクはキックしたボールを何度もチャージされる始末。つまりゲームは、ブレイクダウンの局面が何度も反復される。主審がノット・リリースやノット・ロール・アウェイのペナルティを──故意に──とらなかったこともあり、ゲームはひたすら停滞する。両チームともラックからボールをクリーン・アウトすることができない。
 ゲームはまず両チームが1PGずつの3-3から、ミシャラクのキックをチャージしたイングランドのティンドールがゴールポスト下に飛び込み、イングランドが10-3でリードする。ディフェンスのしのぎあいとPGでしか点の入らないゲーム。それでもFWはイングランドが圧倒しているようだ。フランスFWがハードタックルを繰り返しても、ほとんどターン・オーヴァーできない。再びもみあいの中からイングランドがボールを出してくる。だが、1回だけワイドに展開したフランスが、前半で唯一のトライを上げる。マーニュ、ドミニシ、FBのブリュスクの連携が一度だけのチャンスを生かす。前半は、ミシャラクのDGでフランスが14-13の1点リードで終わる。
 そして後半。前半のリプレイ、しかも展開は皆無。両チームともタッチキックが精一杯の状況。解説の林雅人は「つまらないゲーム」と形容したが、ラグビーの原点に戻ったような「激しさ」にはあふれたゲームになっている。結局、後半も両チームとも1PGのみでフランスが1点差で逃げ切る。確かにゲームは白熱したが両チームとも問題が浮き彫りにされた。まずイングランド。ハーフ団の力不足が露呈し、何よりもこのチームにはウィルキンソンが必要であるが証明されてしまった。フランスのディフェンスに合うと、センター・ブレイクだけでトライは取れない。どうやってトライを取るのかというコンセプトが何もない。結局ディフェンスとウィルキンソンのキックで勝利を拾うしかこのチームには戦術がない。そしてフランス。もっと早いラックでボールをクリーン・アウトしなければ、ワイドな展開は不可能だ。当たる前にパス・プレイで繋いでいく工夫がもっと必要だ。イングランドに合わせたゆっくりした展開ではW杯の勝利はない。

(梅本洋一)

 

2003/08/22(fri)
日本対ナイジェリア

 

 

 練習マッチにほぼ満員の国立。立派なAマッチじゃないか、という反論には、ナイジェリアで一流はババンギダだけじゃないか、と答えればよいだろう。およそチーム・プレイからほど通り個人技のみのナイジェリア──スーパー・イーグルズはもっともっと強いぞ!──に3-0ではダメだ。唯一の明るい材料は、高原の2点と、稲本のコンディションがいいこと。ふたりの調子が、ハンブルグとフルアムでシーズンを通して続行されれば、アジア予選の力になるだろう。
 こういうゲームではむしろ問題点を浮き彫りにすべきだ。まずゴール・キーパー。曽我端は見ていられない。パンチングかキャッチからの判断は、私とすべて逆だった。ついでバック・ラインの安定度が足りない。コンフェデ以降もこの問題は解消されていない。特に宮本は、「読み」をいう武器を発揮した部分もあるが、やはり1対1の能力に劣る。(それに比べて一旦抜かれた相手をもう一度抜き返す坪井はまだまだ伸びしろがある。)アレックスは、ゲーム開始早々高原にラスト・パスを送った以外、効果的な攻撃に絡めていない。幸い、ナイジェリアの右からのアタックがほとんどなかったので、守備力不足は隠蔽されてしまった。そして中村は、どうしてもパスが弱いし、ワンタッチ、トゥータッチでボールをさばけない。小野の怪我の恢復待ち。そしてお馴染みの柳沢。このゲームでも非在。つまりサンプドリアの控えのまま今シーズンを過ごせばよい。帰国せずに頑張れ!(皮肉さ。)曽我端、アレックス、宮本、中村、柳沢の5人には問題がある。ジーコは、この秋から冬にかけて、安定したキーパー、屈強のセンターバック、本物の左サイドバック、高原の相棒を血眼で探さねばならない。曽我端(楢崎)、中村(小野)、柳沢(久保)の代わりはすぐに見つかるだろう。バック・ラインを支えるふたりはいったいどこにいるのだろう。

(梅本洋一)

 

2003/08/18(mon)
2003年プレミアリーグ開幕 アーセナル対エヴァートン

 

 

 コミュニティ・シールドが開催されたカーディフのミレニアム・スタジアムの気温が35度、そしてこの日のハイバリーは16度C。コンディションの相違は、そのままフットボールの質の向上に繋がる。良いフットボールの展開には良好なコンディションが要ることは言うまでもない。アーセナルの開幕戦は、対エヴァートン。昨季は、このエヴァートン戦に逆転されてから、アーセナルの快進撃が止まったことはまだ記憶に新しい。降格候補のチームを7位まで引き上げた元マンUヘッドコーチのモイーズにとって、開幕戦が対アーセナルであることは、気力をそそるだろう。そしたアーセナルは、レヴァークーゼンからゴールキーパーのレーマンを補強しただけで、昨年と同じ面子。このゲームの趨勢が、今シーズンのアーセナルを占う上で極めて重要だ。
 ゲーム開始早々今シーズンも昨シーズンと同様の危機が早くも訪れる。キャンベルが一発レッド。ヴィルトール、アンリの2トップでスタートしたが、ヴィルトールを外し、急遽キーオン・イン。キーオン、トゥーレのセンター・バックに。それまでは、両チームとも相手の出方をうかがい、どちらかと言えば、エヴァートンのボール・ポゼッションが上回った展開だったが、10人になったアーセナルは、去年の前半のアーセナルに戻る。リュングベリ、ピレス、シウバ、ヴィーラの中盤で面白いようにパスが回り、アンリを含めた5人のアタックがピッチをリゾーム状に動き回る。ときにローレン、コールの両サイドまで含めたアタックは、波のようにエヴァートンのゴールに襲いかかる。まずアンリがPKをとり、後半開始直後には、アンリを追い越して一列目に出たピレスがアンリにパスを戻し25メートルの弾丸シュートが2年前までアーセナルのゴールを守ったこともあるライトを襲う。身体に当ててようやくボールを弾いたライトめがけて、ヴィーラが、ピレスがゴールマウスに向かい、ピレスが冷静に決める。2-0。勝負は決まった。この後、エヴァートンはルーニーを投入し、反撃を試みるが1点で終わる。2-1の結末。
 確かにアーセナルは、「良い」フットボールで勝利したが、キャンベルを欠き(4ゲームの出場停止になった)、チャンピオンズ・リーグを含めて日程がタイトな上、層が薄い。粕谷秀樹は、アーセナルはもう国内リーグに集中した方がいい、と言っていたが、チャンピオンズ・リーグ制覇は、ベンゲルの悲願のはず。いまこそ層の薄い選手をどう使い回し、「負けない」フットボールを展開できるのか──「負けない」とはボールを支配し続けることだ、とベンゲルは言うだろう──ベンゲルの本当の手腕が問われるときだ。

(梅本洋一)

 

2003/08/18(mon)
トライネイションズ 第6戦 ニュージーランド対オーストラリア

 

 

 トライ・ネイションズもその最終戦を迎えた。ワラビーズが、オールブラックスの完全勝利を許すのか。ワラビーズはどんな戦術でこのゲームに臨むのか。このゲームの焦点はその2点。
 まず結果から記せば、21-17でオールブラックスの完全勝利が実現し、ワラビーズの戦術は、1週前のスプリングボクスのそれを踏襲したことによって、失点は前の同じカードに比べて半減したが、オールブラックスの得点を上回ることはなかった。徹底したシャローのディフェンスとブレイク・ダウンの局面でのタイトな対応──これで確かにオールブラックスの華麗な攻撃の回数は減った。だが、現実はハウウッドが2トライし、ワラビーズが1トライを返すのは、ゲームの趨勢が決まった終了直前のこと。つまり、このゲームもまたオールブラックスの完勝だった。
 オールブラックスの長所は、まずディフェンスが固いこと。ワラビーズ・ボールになった瞬間、なんどかビッグヒットしたタックルに象徴される。ワラビーズのようにフワッと守るのではなく、常にタイトに第3列を中心にディフェンスする。そしてアタックに回っては、スペンサーを中心に華麗なパス回し。バック・スリーの決定力の活かし所を探していく。ハウウッドの1本目のトライでは、フラットリーが完全に置き去りにされた。短所は、このトライ・ネイションズを見る限り、スペンサーのPGの確率だけだ。誰でも言うとおり、競ったゲームになったとき、この部分が心配になるが、対イングランド、対フランス戦を除いて、今のところ、こうした心配は杞憂に終わっている。とりあえずトライ・ネイションズに関しては、ラスト2ゲームが点差の上では競ったものになったが、実際にゲームを見る限り、オールブラックスはどの局面でも完勝していた。
 オールブラックスに勝つにはどうすればいいのか? イングランドのようにFWが完勝するか、フランスのように徹底してワイドに展開するか、どちらかしかない。スプリングボクスやワラビーズは、ブレイク・ダウンの局面でいい勝負ができても、獲得したボールをどうやってトライに結びつけるかという方法論がまったく存在していない。
 トライ・ネイションズを終えて、とりあえず言えることは次のふたつ。まずワラビーズ流のボールのリサイクルを繰り返しながら相手ゴールに迫る方法は完全に時代遅れになったこと。次に、なんども書くが、新たなアタックの方法の醸成が急務であること。私の目から見れば、それはフランスで生まれつつある超ワイドな展開だと思うが……。

(梅本洋一)