2.10 女子モーグル/ノルディック複合前半ジャンプ

アメリカでのオリンピックの観戦は辛い。

何せ時差が16時間。ヨーロッパでのサッカーなら、日曜の午後の試合なら、日本時間の午前2時までつき合えば何とかなるが、今日の最初の決勝種目である女子モーグルが日本時間午前4時から。連休中なので頑張れるが、連休が終わったら、僕の生活は滅茶苦茶だ。そうまでしなくてもよいではないか。そんな声も聞こえてくる。だが、僕はオリンピックやワールドカップが大好きで、夏季のオリンピックなら東京の1964年から、冬季なら札幌の72年から主な種目はすべてライヴで観戦している。それに60年のローマ・オリンピックや、68年のグルノーブル冬季オリンピック(そうです! 『白い恋人たち』!)から映画版なら見ているぞ! 別 の声が聞こえてくる。サッカーならチャンピオンズ・リーグ、他のスポーツならそれぞれのワールドカップがあるではないか。オリンピックなんて時代遅れさ! まだ○○国がメダル△個なんて19世紀国民国家的イヴェントにつき合うのなんてアナクロだ! 後者の疑問は重要だ。
ソルトレイクの開催中のこの日記の中でその疑問には答えよう。

女子モーグル予選

今シーズンは、ワールドカップをすでに3戦見ている。カリ・トローの圧勝だろう。開幕戦でトローに勝っているシャノン・バークがどこまでトローに近づくか。それが見所だ。上村愛子ちゃん? 里谷多英? 確かに愛子は昨シーズンのワールカップの総合2位 は獲ったが、今シーズンは彼女のターンに点が出ていない。
今から30年前、まだこの競技がオリンピック種目になっていない頃、僕は奥志賀高原のコブ斜面 に挑戦を繰り返していた。膝をサスペンションにしてギャップを吸収する技術がやっと始まった頃だ。リフトが動き始めてから止まるまで奥志賀第2の30度の壁を何度滑ったことだろう。前日のトレーニングで他の選手が帰ってもただ一人コーチのスティーヴと練習する里谷を見ていて、昔の僕を思い出した。(もちろん技術には天地の差があるけど。)

予選。日本時間午前1時から。愛子がいい。日本のTVが伝えるように、何か期するものがあるのか? 里谷は使わないはずのトリプルを見事に決めた。愛子4位 。里谷6位。解説の三浦豪太は「ひじょうに……」を連発する。そしてトローの滑り。コブのレッスンを受けていた頃、「ヨウイチの滑りは豪快だけど、エッジを使いすぎだよ。もっとなめらかにエッジングを瞬間的に使えば、早いよ!」と何度も言われたが、トローの滑りはスムーズで、しかも早い。高い姿勢からそれほど攻めている様子もないのに早い。エアも完璧。アルペンのスラロームを見ていると、最終的に100分の1秒差でも勝つ人の滑りは最初の10旗門ほどを見れば判る。スムーズでなめらかなのだ。トローだけ別 次元の世界に入っている。当然、予選1位。

ノルディック複合前半ジャンプ

注目は荻原健司だ。なにも僕の息子も健司だからというわけではない。アルベールヴィル──フランス滞在中、そこにあるスキー場に何度も通 った──の団体戦で金を獲った後のシャンパン・ファイト以来彼のファンになった。日の丸を背負った暗さがなかったからだ。もちろん今シーズンのワールド・ランキングでは20位 と30位の間にいる健司に勝ち目はない。92年から95年までが彼のピークだったことは成績が冷酷に伝えている。彼のジャンプで他を大きく引き離し、その貯金でクロスカントリーを勝つというスタイルが崩れ始めたのは、なにもルールの改正やスキーの長さの規制によってばかりではない。周りの選手のジャンプの力が単に上昇したためだ。何度も引退が報道され、その度に引退を撤回し、ワールドカップに参戦する健司の姿。力のピークで引退し、今回はかつてのチームメイトの河野孝典がいる解説席にでも座れば、それなりに存在感を示すだろうが、健司は勝てない試合──そのことは誰よりも本人が知っているはずだ──に出場し続ける。
国内で台頭した若手・高橋大斗は今シーズンのワールドカップですでに表彰台に1度立っている。以前なら、一番最後にゴールドゼッケンを着けてジャンプしていた健司が、出場選手たちの中程でジャンプ台に立つ。1回目90メートル。かつての健司のジャンプだ。大斗90メートル50。有望な選手たちはいずれも95メートルを越えていく。2回目。健司、90メートル50。大斗94メートル50。健司は12位 。大斗4位。健司はこの順位を明日のクロスカントリーで維持できれば十分だろう。大斗は入賞圏内。少なくとも今から5年前なら健司の今日のジャンプでトップは間違いなかった。つまり健司の力は落ちていない。これはすごいことだ。

女子モーグル決勝

午前4時スタート。さすがに眠い。
でもディアヴァレー・スキー場は快晴!
コブの影がよく見える。飛ばしたい午後だ。愛子、里谷、そしてトローを見届けねばならない。 まず予選6位の里谷。左側のコース。第一エアまでに次第にスピードを上げる。ターンは見事。そしてエアも決める。中間のターン。これは鬼気迫るものがある。攻めているのがよく判る。カーヴィング(たわみ)を最大限に利用した滑り。姿勢が高い。瞬間的なエッジングで方向を変え、飛ばしている。第2エア。トリプル。高い! 乱れることなくゴール。長野(飯綱山)のときよりうまくなっている。当然、ここまででトップ。いつものように喜ぶでもなくゴーグルを外す里谷。 そして愛子。右側のコース。小柄なせいか、里谷より小さく、そして固く見える。もちろんターンはうまいがコブに飛ばされている。今シーズン愛子のターンに点が出ないせいか、予選の時よりも余裕がないように見える。さすがにエアは良い。だが、第1エアと第2エアの間でコブに飛ばされている。スキーが開き気味だ。(レヴェルはちがうがかつての僕と同じ欠点!)やっぱり点が出ない。
そしてトロー。ぜんぜん余裕! うまい、早い、美しい! 高い姿勢からスキーをスムーズに回し込み、雪面 との接点での抵抗を最小限に押さえ、ある程度のスピードを維持しつつ、エアに向かう。エア──見事の一語! それに高い!圧勝の金!

そして里谷、銅。 現時点で最高の力で攻めた里谷。いっぱいいっぱいだった愛子。彼女たちもそれなりに頑張った。 ワールドカップだと別に誰も応援していないが、オリンピックになると、里谷や愛子がまるで同じ町内の住人のようだ。顔見知りでもないのに、「愛子、行け!」なんてTVに叫んでしまう。とりあえず愛子と里谷のソルトレイクは終わった。