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2007年10月23日

I Get a Kick Out of You : 2007年ラグビー・ワールドカップ総括

キッキングゲーム
やはり開幕戦のエルナンデスのハイパントは衝撃的だった。スタード・フランセでの彼のプレイは見たことがないが、高々と上がったボールがなかなか落ちてこない。そこに殺到するフランスとアルゼンチンの選手たち。
キックで陣地を取る。それが合い言葉のようにどのチームも蹴る。蹴る。蹴る。これでいいのか、という疑問符を付ける暇もなく、蹴ってはボールを追う。99年のW杯準決勝のフランス対オールブラックスにおけるラメゾンのキックも衝撃だったが、それが衝撃的だったのは、キックが例外的であり、当時、ワラビーズのボールのリサイクルこそが主流だったからだ。ボールを保持し続け、フェイズを重ねてディフェンスの薄くなったところを攻める。それこそが99年のワールドカップを制したワラビーズ(あるいはブランビーズ)の戦術だった。そして、03年のW杯ではイングランドがウィルキンソンの左足で勝利をたぐり寄せる。
キックは確かに重要な要素だが、エルナンデスのまるでもうひとつのフットボールのようなキック(トラップし、アウトサイドやインサイドで多彩なボールを蹴り分ける)を見ていると、ラグビーがまったく異なる次元に連れて行かれるのを感じた。復帰したウィルキンソン、そしてモンゴメリー、あるいはフランスのボクシス。ワラビーズの敗退はまるでそこに名キッカーを欠いたがゆえのことだったようにも思える。
ロングキッカーを配して陣を進めたり、PG、DGを狙うといったスタイルが、あたかもワールドスタンダードになってしまったかのようだ。例外はあるが、全体的に見ると、戦術の多様化ではなく、単一化に向かっているようだ。一時、世界のフットボールで、アリゴ・サッキが産み出したプレッシング・フットボールこそがモダンフットボールといわれたように。
だが、3位決定戦でもフランスを敗ったアルゼンチンが、決してキッキング・ラグビーに拘らなかったように、キックこそが最善の選択肢ではないことはどのチームも分かっている。だが、強いFWのディフェンスとキックによるゲームの組み立てこそが、今大会を席巻してしまった。負けないこと=守りきることを主体にチーム戦術を考えると、どのチームも同じ結論に達してしまう。しかし、それはネガティヴなワールドスタンダードなのではないか。成功体験を大事にして、現在を過去のひな形に落とし込むのはどう考えても反動的なことだ。

オールブラックス、レブルーの敗因
フランスがオールブラックスに勝ち、黒衣軍団は帰国を余儀なくされた。フランスにとって、このゲームが唯一の会心のゲームだったろうが、それについては後述する。問題はオールブラックスが準々決勝で負けたことだ。今でもぼくはこのチームがW杯では1番だと思っている。アタックでもディフェンスでもベストメンバーならば、もっとも素晴らしい。カーワンは経験を欠いていると言ったが、問題は、経験よりも、キーになる部分に人材を欠いていたことではないか。どこに問題があったのか? フロント3だ。カーターとマカリスターを並べることで、確かに攻撃力は上がるだろうが、センターにはもっと突破型の人材を配するべきだった。グレアム・ヘンリーはしぶとく勝つのではなく、美しく勝つことを目指したのだろうが、カーターが怪我をしたら、パサーのニック・エヴァンスが登場し、ゲームの質が変わってしまった。マカリスターはカーターの控えに置いておくべきだった。
そのオールブラックスに快勝したフランスもイングランドとアルゼンチンに敗れ、後味の悪い自国開催になった。このことについては別のところ(狂会本)に長く書きたいのはここではその端緒だけ。ディフェンスについての方法論は確立されたが、アタックの面では最低のレブルーだった。このラグビーにクリエイティヴィティはない。逆にこのチームが準決勝まで来たのが不思議なくらいだ。

アイランダーズの健闘とジャパンの将来
フィジーとトンガは素晴らしかった。彼らはディフェンシヴなゲームメイクからPG、DGというチームではなかった。特にフィジーは、ゲームを進めるにつれて、自らに備わったDNAを少しずつ思い出していった。このチームも、もちろん第1回W杯で旋風を巻き起こしてから、ニュージーランドからコーチを招き弱点を消すことに走って失敗を重ねた。だが、一試合ごとに、自分たちの本能を目覚めさせた。最初のゲームが対ジャパン戦。接戦だったことを思い出せば、そのチームがウェールズに勝つことになると予想した人はないだろう。ディフェンスを強化して、じっくりと戦うのが、このW杯のメインストリームだとしたら、長短のパスとディアゴナルな走りでボールを繋ぐことを中心に据えたフィジーのラグビーは、完全な例外になる。前回W杯のウェールズのセクシー・フットボールがある程度の成功を収めたように、パス・プレイにはまだまだ可能性がある、そのことを見せてくれた。
そして、ぼくらだってアイランダーだ。
けれどもフィジーやトンガのようにはなれなかった。2勝するというチームの目標からは遠い結果しか得られなかった。失敗だった。原因はいろいろあるだろう。もちろんスキルの差。特にSOの差は目を覆うばかり。残念なのは、カーワンのリクルートがベストではないこと。素早いライン攻撃をすると自ら言うのなら、それなりの人材を当てはめるのがヘッドコーチの役割ではないのか。結局、このチームはジェイムズ・アーリッジの怪我から、ずっと悪循環が続いている。そして、アーリッジに代わるピースを見つけようともしなかった。これはHCの怠慢だ。
どうすればいいのか。
長期的な視野に立って、長い期間をHCに任せるという意見にぼくは与しない。毎年、目標を与え、その達成度を査定し、評価していく作業が必要だ。だが、もちろんジャパンの合宿で基礎的なスキルや戦術を反復練習しているようではいけない。各所属チームでのスキルアップが大原則だが。まずパシフィック・シックスネイションズで最低2勝。アメリカやカナダなどにはコンスタントに勝てるチームにすることが評価の基準になるだろう。

投稿者 nobodymag : 2007年10月23日 10:41

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