02.11/28

 

 先週の月曜、心身共に健康状態がすぐれない体をひっぱって、プリンスのコンサートのために何年ぶりかの日本武道館へ足を運んだ。知らない人のために言っておくと、彼の名前はプリンスに戻っています。もっと知らない人のために言っておくと、彼は93年から自らの名前を発音不可能な記号(仕方ないので「The Artist Formerly Known As Prince」と呼ばれてた)に変えていました。思えば、90年代のプリンスはまさに不遇の時代を送っていた。94年くらいからはヒットチャートから姿を消してたし、契約トラブルの噂ばかりが聞こえてきたり、3枚組アルバムとか4枚組アルバムとかが連発されてたりした。スーパースターの座からは落ちてたし、熱心なファンからもそのカリスマを次第に失っていったようだった。
 そんなだから侮っていたのだが、武道館はほぼ満席。年代的には30代前半くらいの人が多くて、やっぱり80年代のヒット曲になると盛り上がっていた。だけど比較的、新作『The Rainbow Children』から選曲されていたり、そっから脱線してアドリブ的な展開が10分ぐらい続いたりするというのが今回の指向で、ヒット曲はさわりをメドレーでどんどん流していく感じ。ここらへんのバランスは、かつてのスーパースター・プリンスと次の一歩を踏み出したいプリンスが鬩ぎあってるみたいだった。なんせ作年末に出た『The Rainbow Children』は前作『Rave Un2 The Joy Fantastic』と全く違うアルバムに仕上がっていて、驚く程ブラックミュージック寄りのファンキーな作品、殿下完全復活と言われていたのである。プリンスという名前で敬遠してる人にこそはっきり言いたいのだが、R&Bからテクノまでを含めた全てのブラック・ミュージックを見渡してみても、こんなファンキーなグルーヴを聴かせるアルバムはここ数年ないってくらいの出来だ。でも結局『The Rainbow Children』は音楽メディアを賑わすことなどなかったのだが。
 ショウの方はと言えば、殿下はそつなくこなされていて、緩急自在に盛り上げていた。だけど、やっぱりバラードのピアノ弾き語りから、ホーンとドラムの嵐のようなファンクまでこなしてしまう、その音楽性のレンジの広さは殿下の良いところなんだろうけど、「ジ・アーティスト」時代と決別をしたかのような『The Rainbow Children』の後に何処へ行くのか、その方向性をもっと見せて欲しかったかな。

新垣一平

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