「+11℃」。JR線の向こう側に見えるデジタルの温度計が、朝刊に書かれた最高気温より4℃も高い数字を示しているな、nobody6号の入稿に少しだけ目配せしてくれる。とはいえ、新宿コマ劇前の映画館から続いてゆく足並みは、「青稿」チェックのための事務所へと向かう。軽い解放感に加え、昨日のソニック・ユースのライヴの、暗さと明るさを吐いて固めたようなギターとジャンプを身体に張り付けながら、そう、まるで全てを背負って文章が増幅してゆく小説『月の砂漠』だな……、いやそれはまた別の話か。
月曜日の入稿が終わって終わり、ではなく、まだ作業は残ってます、「青稿」チェックが。「青稿」とは「仮稿」。全ての原稿が印刷された、まだ綴じられていない紙の束。文字が青いので「青稿」らしいが、とにかくこれが校正のラストチャンス。案の定、などと言いたくないけど、誤字脱字が諸々と……、嫌がらせかよ、ほんと。なぜって、お金がさらにかかるわけですよ、この時点で訂正を加えると。呪う呪う、半ギレ状態で校正していた2日前の自分を。
nobodyって「同人誌」でしょ、なんて言われると、そりゃ同人で作ってるから同人誌だし、そう見えるんだったら別にいいし、それに反論したってしょうがないし。ただ、極力「同人誌」的甘さを払拭するためにも、やはり校正作業は非常に重要。最多誤字脱字記録をほこる私が言うのもなんだが、そもそもミスはカッコワルイ。指に触れるページ、眼に触れる文字・写真の断片、その緩やかな結びつきの果ての、しかし読後にはあっさりと消えゆく不明瞭な快楽。そんなカッコヨサのために校正作業はある。
3月には店頭に並ぶ。君に見えるかい、オモテサンドーが?
松井宏