03.1/11

 

 竹下通りを途中で折れて脇道に入ると、東郷神社の隣に渋谷区立中央図書館がある。今日は次号の表参道特集に向けて、現地調達で資料収集。渋谷区議会議事録など紐解いてみるも、どうもこの手の情報は頭に入るスピードが極端に遅い。結局目当ての同潤会アパート絡みの資料は見つけられず、手に取ったのが「原宿物語」。86年に朝日新聞で連載された、原宿界隈で暮らしている、働いている、遊んでいる人々に対するインタビューをまとめた本。この本、何よりその人選が目を引く。佐藤勝久(ラフォーレ原宿館長)、高橋直樹(ラグタグ社長)といった人々は当然として、町内会の会長や原宿駅の駅員、果ては原宿区域担当の佐川急便のドライバーにまでインタビューしている。
 書名の通り、有名無名を問わず、あの町に関わっている人々のストーリーを描いていくというコンセプトが単純かつ明快で良い。ただ、一貫して当時一気に原宿に進出してきたアパレル関係者の威勢の良い発言と、急速な町並みの変化と地価の高騰に対する地域住民の不安が不協和音を生んでいる印象がある。10日の黒岩の文章ともリンクしているが、15年以上が経過した現在、土地の問題は別にしても、地域住民にとって住みよい町になったとはとても言えないだろう。しかし、本書の中で何人もの人によって繰り返される「原宿は若い奴が一儲けして名前を上げる場所」という言葉だって最早無効になっている。
 この本、脚注が多いのも便利な点で、用語解説はもちろん、本文に関連した様々な調査資料も掲載されている。その中に原宿地域住民に「原宿のシンボル」について聞いたアンケートがあった。1位 表参道のケヤキ並木 2位 明治神宮 3位 竹下通り とのこと。特に1位は圧倒的多数。2位は私たちのような若輩者にはピンと来ないが、地図を見ればわかる通り正確には「原宿」という地名は存在せず、表参道のほとんどは「神宮前」になる。命名の由来はもちろん「明治神宮の前」だ。昔から住民の思い入れは大きい。ラフォーレや、(当時はまだ残っていた)セントラルアパートを挙げた人は皆無に等しかったらしい。

中川正幸

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