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juin 10, 2008

All the world's a stage

 ユーロ3日目にして、ようやく「世界の舞台」が始まったようだ。眠いせいもあって、それまでのゲームも何となくドメスティックに感じたし、事実、スイス、オーストリアという地味な開催国のせいもあったのだが、「死のグループC」のこの日は、「世界の舞台」を堪能した。
 まずチューリッヒのフランス対ルーマニア戦。ルーマニアが守備を固めてカウンターという戦術に来るのは、ドメネクだけではなく、このゲームを見る人全員が分かっていたろう。それをフランスがどう崩すのかが焦点だった。だがフランスは安全な采配。怪我のアンリ、ヴィーラの代わりにベンゼマ、トゥララン。後は誰でもが予想通りの──つまり、「驚き」の欠片もない──人員配置。セントラルに「球拾い」がふたり並んだのだから、崩しは両サイドということになる。右のリベリ、サニョール、左のマルーダ、アビダルの連携が鍵になるはずだ。だが、その連携がない。リベリは確かに貫禄が出たけれど、もともと他との連携で崩すタイプではないし、チェルシーでは控えに甘んじるマルーダはドリブラーだ。ボールの欲しいベンゼマは空しく走り回り、(いつものように)アネルカは外しまくる。輝いて見えるのが、マケレレ。どっしりして安定感抜群なのが、ギャラスとテュラム。みんな「昔の名前」だ! ルーマニアの引いたディフェンス陣を崩すには、ワンタッチ、トゥータッチの中盤での素早しパス回しとサイドへの大きな展開の組み合わせが原則だ。だが、フランスのパスワークは遅く、オートマティックな連携が見られない。つまり、ポゼッションはどんどん上がるが、攻めあぐねている状況。驚いたことに、ドメネクは、この膠着状態を破る手を70分過ぎまで打たない。まずアネルカとゴミスの交代が72分、そしてベンゼマとナスリの交代が73分。この交代も納得できない。ポゼッションが高いのだから、2ボランチの1枚を交代させ、トップ下を置くのが定石。ならばトゥララン→ナスリがまず最初の交代(これは後半アタマからでいい)、そして、このゲームを見た人なら分かると思うのが、ベンゼマはアネルカよりも出来が良かったから、アネルカを別のFWに交代。そうあるべきだ。「別のFW」と書いたのは、ボールをこねくり回し、判断の遅いゴミスはやはりこのレヴェルではまだ力不足という感じ。アンリが怪我ならゴブーだろう。引き分けに終わったのは、ルーマニアにとって満点、フランスにとって苦しい。「ナンバー」誌で原博美は、このグループの勝ち抜けはイタリアとオランダと言っていたが、信憑性を帯びてきた。フランスが引き分けに終わる主な原因を作っているのは、ドメネクであるのは当然。
 そしてベルンのオランダ対イタリア戦。スイスの夕焼けは本当に綺麗だ。ゆっくりと日が沈んでいき、夏のヨーロッパの「蒼い夜」が静かにやって来る。「蒼い夜」の久しぶりのオランダの花火が上がった。
 このゲームは面白かった。オランダの「常数」である4-3-3をやめて、4-2-3-1を採用したこのチームが、カテナッチオをやめて4-3-3にしたイタリアとどう戦うのか──興味は膨らむ。結果はオランダの3-0の完勝。しかも、このチームに4-2-3-1が本当にマッチしていた。特筆すべきは、デヨンク、エンヘラールの両ボランチと、スナイデル、カイトの2列目の中盤。セカンドボールを拾いまくる両ボランチに、ガットゥーゾ、アンブロジーニは完全に後れをとっていたし、ピルロにボールが回るのはペナの前で前線は遠かった。それにブンデスリーガでは通用したトーニがオランダのセンターバックに歯が立たなかった。そしてスナイデル、カイトが自在に走りまくり、ザンブロッタ、パヌッチをオランダ・ゴールから遠ざけた。後半半ばから登場したデルピエーロはさすがに見せ場は作ってくれたが、ゴールネットを揺らすことはない。トータルフットボールの代名詞がオランダだが、この日に見せてくれたのは、全盛期のアヤックスを思わせるシステマティックなフットボール。金曜日のフランス戦にも十分勝てるような気がする。イタリアは苦しい。次のルーマニアにも、そしてフランスにも勝つ必要がある。トーニでは、ルーマニアの堅いディフェンスを破れないだろうし、ギャラス、テゥラムを崩すことができないだろう。このグループの勝ち抜けは、イタリア対フランス戦の来週の木曜にかかっている。ひょっとすると、ルーマニアとオランダが勝ち抜ける可能性だって十分にありそうだ。ユーロでは、この種の「番狂わせ」に事欠かない。04年のギリシャや92年のデンマークを思い出せばいい。

投稿者 umemoto youichi : juin 10, 2008 12:14 PM