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juin 11, 2008

How dost thou like this tune?

 インスブルック。この街で行われるフットボールを見るのは初めてだ。冬季オリンピックが2度開催され、年末年始のヨーロッパジャンプ週間の1戦もこの街で行われている。チロル。スキー。この街の夏の映像を見るのは初めてだ。雷の後の雨が強い。背後にチロルの山々が霞んで見える。スペイン対ロシア。前評判の高いスペイン──ぼくもテストマッチを見たが、大好きなフットボールをする──対「策士」ヒディンクのロシア。強い雨を見ると、これはロシアが番狂わせを起こすかも知れないと思う。ロングボール、背の低いスペイン・ディフェンス、雨で滑るピッチ、中盤のパス回しに狂いが生じるスペイン。
 この日のスペインは予想された4-1-4-1ではなく、ビジャとフェルナンド・トーレスの2トップ。つまり4-1-3-2。セスクがベンチスタート。ほぼ互角の立ち上がりから、次第にシャビを中心にしたスペインが中盤を支配し始める。雨が降っているのを忘れるような、それにほとんど雨の降らないスペインのチームであることを忘れるように、ボールがぐんぐん回る。イニエスタのドリブル、シャビのセンチメートル単位の配球。バルサになくなったものがこのチームで再生しているようだ。トーレスにスルーパスが通り、GKと1対1、キーパーを交わすとトーレスはビジャにパス。ビジャは問題なく決める。これがスペインのハーモニーの始まりだった。ミドルレンジのパスが連続的に繋がり、アンカーのセナと両サイドを含む8人がスペースを求めて走ると、そこにスゥーとパスが出る。ロシアの中盤は、定石通り厳しく行くが、シャビが、セナがそれをかいくぐってパスを出す瞬間、2トップが動き出し、別のハーモニーの始まり。絶好調のビジャが2点目を決め前半が終わる。これで勝負は決まった。
 スペインの若い中盤は、確かに後半開始直後は押し込まれたが、アラゴネスは、この日、絶好調のビジャを残し、トーレス→セスク。別にトーレスが不調だったわけではない。4-1-4-1を試したかっただけだろう。中盤に人が増えたスペインは、もっと多彩なハーモニーを奏で始める。回りで見ているだけのロシア。するとビジャがまた決める。ハットトリック!
 セットプレーからロシアに1点献上したが、終了間際にセスクが決め、結局4-1。雨も悪い予感もヒディンク・マジックも関係ない。ミュージシャンたちが集まり、フリー・インプロヴィゼイションを始めると、もう誰もそれを止めることはできない。饗宴に次ぐ饗宴。そして、彼らはまだまだ底を見せていない。次はどんな音響を聞かせてくるのか。楽しみだ。

投稿者 umemoto youichi : juin 11, 2008 10:31 AM