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juin 12, 2008

Keep up your bright swords, for the dew will rust them.

 ポルトガル対チェコと言えば、好カードなのに実際のゲームを見ていてもさっぱり燃えてこない。
 今大会は彼の大会になる、と言われている「彼」とは、もちろんクリスティアノ・ロナウドのことだし、実際にこのゲームでもデコからのパスを受けて、彼が見事な1点を決めている。全回のユーロでお目見えした彼は、単なる高速ウィンガーだったのだが、この大会では、本当にトータルなフットボーラーとして成長している。と、書いてはみたが、デジャヴュな感じ。つまり、ロナウドは今大会における成長株でも何でもなく、彼の素晴らしさはマンUでの彼の姿を見た人なら先刻承知。この程度で驚いてはいけない。もう少し出来るのでは……と思うのが普通だ。チャンピオンズリーグの後半からデコの調子も戻ってきたし──とすればポルトガルは、センターバックのリカルド・カルバーリョを含めて、センターラインがしっかりしていて素晴らしいチームのはずだ。
 対するチェコだってすごい。毎回ユーロでは好成績を残すし、2006年のドイツW杯の緒戦、対アメリカ戦の3-0は今でも記憶に残っている。糸を引くようにパスが繋がり、その特徴である4-1-4-1のフォーメーションをもっとも効果的にしているのがこのチームだった。パスワークとコレルのアタマ。そして老獪なブリュクネルの采配。ロシツキの怪我による離脱はこのチームにとって(そして終盤のアーセナルにとっても)大きな打撃だが、ハードワークを惜しまない選手たちの頑張りはいつも感動ものだった。
 しかし、ゲームがつまらない。確かにポルトガルはパスが繋がるが、創造的なパスワークではなく、足下足下で繋いでいるだけ。得点もカウンターとロナウド、デコの個人技がらみ。そして、チェコの方は、寄る年波で運動量の減ったコレルではなく、これもすでに盛りを過ぎたバロシュのワントップ。つまり、最初からカウンター狙い。そう考えるとゲームの趨勢が読めてしまう。ブリュクネルは、俺たちには、ポルトガルにはないオーガニゼーションがあるんだ、とゲーム前のインタヴューで語ったそうだが、実際のゲームを見てみると、大した組織はなかった。
 否、このゲームだって、ひょっとすると否定すべきではないのだろう。クリスティアノ・ロナウドは活躍した。デコは前よりも良くなっている。それにコレルも後半には出てきたし、それなりの存在感を示した。問題は、ぼくらが、オランダとスペインを見てしまったせいだろう。ディアゴナルな距離の長いパスと、正確きわまりない個人技、そして誠実なランを組み合わせたオランダ。これ以上ないと思えるような適切な距離を保ちながら、その上に個人の創造性を発揮しつつ「人とボールが連動」していくスペインの中盤。それらに比べると、3-1で勝ったポルトガルも、かつてモニターの「フレーム外」へのパスを唐突に送りながらスペースを捏造したルイ・コスタのいたころに比べると、有機的な個人の連動性がないチームに成り下がり、チェコもその組織に創造性を欠いていた。先進的だった4-1-4-1にしても多くのチームが採用しているし、たとえば対ロシア戦の後半にスペインが見せた4-1-4-1の方がずっと魅力的だった。つまり、こういうことだ。どちらのチームも「想定の範囲内」でしかなく、「信じがたいものが展開する」(ゴダール)瞬間を欠いていたがゆえに、このゲームが魅力的に見えなかったのだ。思えばブリュクネルは、今大会で引退が伝えられ、フィリッポン(スコラーリ)は、このゲームの前日、チェルシー監督就任内定が公表された。フィリッポンは全回のユーロでも、この交代に冴えは見せたが、ゲームに創造性を吹き込んだことはなかったように思う。この人は、「戦術家」ではなく、セレクショナーなのだ。その意味で、チェルシーに相応しいのかも知れない。

投稿者 umemoto youichi : juin 12, 2008 11:11 PM