« 2004年12月20日 | メイン | 2005年1月20日 »

2004年12月31日

2004年12月31日

12月に入ってから、母親から何度も電話をもらっていた。内容はいつも帰郷の日程に関するもので、その最後にこぼれた「はよ帰ってきてや」という珍しく寂しげな彼女の言葉に、例年なら2、3日の小旅行ですませていた帰郷を、今年は思い切って2週間に引き延ばした。風俗の仕事を始めてから、お金にも時間にも余裕ができた、というのも理由のひとつだろう。
実家に帰ると、初日の大晦日から、地元の友人との忘年会に参加した。お盆と年末、慣習的にとり行われるこの飲み会での不変のテーマは、思い出話と、同級生のうわさ話と、仕事の愚痴だ。今年は元野球部の友人が比較的たくさんやってきたこともあって、厳しかった練習の話や、当時顧問だった先生の物まねなどが、話題の主な中心となった。そしてその懐かしさからくる切ない興奮がひと通り冷めて、飲み会がしんみりと落ち着いた雰囲気をまといだすと、8人ほど集まった友人たちそれぞれが、ゆっくりと現在の自分について語りだした。営業で業務用の製氷機を販売している友人は、冬場冷え込む山裾では必然的に落ち込む売り上げ成績について嘆き、近所のスーパーのお総菜コーナーでもう4年もバイトを続ける友人は、バイト中頭につけるバンダナの為に、慢性的にぺったりとした髪型になってしまうことを独りごちた。一昨年から思い立って、大学に入り直すために受験勉強を続ける友人は、センター試験が近いからと、ひとり早めに席を立った。土地柄もあってか一連の話は大方おもしろおかしくて、みんなの笑いを誘うものだったが、それらの内容は明らかに中学・高校の時とは違うものだ。友人の従兄弟が経営するお店で酒を飲みながら、自活を始めた友人たちのリアルな日常にふれた気がした。制服を着て、与えられたものをそれぞれ闇雲に享受していたあの頃とは違うのだ。現実に晒されておのおの全く異なった方向を歩みながら、途中様々なしがらみを積み上げて、誰もが見事に大人へと変化していた。ここに根を張る彼らは皆、とても逞しい。そして、ひとりが私に向かってこう尋ねた。「あんたはまだ東京におるんやろ? 今何してんの?」「あ、なんか事務してる」。私は用意していた言葉をそのまま言うしかなかった。地元でのうわさ話は尾ひれ背びれをくっつけて、あっという間に狭い田舎を駆け巡る。いつ両親に知れるともわからない可能性を帯びた土地で、本当のことなんて絶対に言えない。「……あれやったらこっち帰ってきいや。みんなおるし。東京は恐いでぇ」。さりげない気遣いに胸が痛い。「……うーん、でも、まだいいや。うん」。私は曖昧にお茶を濁し、話題は何となくそれていく。結局全部で4時間ほど飲み続け、私はかつてないほどべろべろに酔っぱらって終電に乗り込んだ。駅に着くと、そこから国道に向けて、家までは歩いて6分だ。途中、高校のときいつも帰りによって1本タバコすっていた公園があって、そこで凍えて縮こまりながら、昔と同じように私はタバコを取り出し火をつけた。煙を肺まで深く吸い込むと、お酒でぐちゃぐちゃにかき回された頭の中が、すっきりとすんでゆくような感じがした。遠くで除夜の鐘が聞こえる。この土地の1年を締めくくるお坊さんも、集団登校で毎朝一緒に小学校へと通った、2歳年上の友人なのだ。

投稿者 nobodymag : 2004年12月31日 16:23