3話
ともに祈りましょう
隈元博樹
サン・ピエトロ広場に集う数多の聴衆を前に、大聖堂のバルコニーに立つパウロ教皇6世(トニ・セルヴィッロ)。車椅子姿から教皇庁の人々の手を借りて立ち上がった彼は、聖週間の始まりを告げるとともに、キリスト教民主党の党首であったアルド・モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)の無事を祈るよう人々へと語りかける。こうして声高らかな彼の演説によって幕が上がる第3話では、敬虔なキリスト教徒であり、また旧知の仲であったモーロが赤い旅団に誘拐されるなか、病を押してまでもモーロの解放に向けて尽力する教皇の「受難と祈り」が描かれている。
©︎ 2022 The Apartment – Kavac Film – Arte France. All Rights Reserved.
他方、本エピソード冒頭の赤い旅団創設メンバーに向けた裁判の場面は、「声明文11」の認定を主張する赤い旅団のメンバーたちと、裁判とは無関係な政治的表明であるという理由で声明文の読み上げを固辞する裁判長、またメンバーの主張に異を唱える裁判官、弁護士、メディア、それからメンバーに同調しアンセムを唱える傍聴人たちの声によって構成されている。争いを治めるはずの場は幾重にも飛び交う怒号の数々によって混沌とした様相を帯びていくわけだが、法廷劇に生起するベロッキオ映画の強度と言えば、近年の『シチリアーノ 裏切りの美学』(2019)におけるコーザ・ノストラの抗争を巡るいくつもの裁判の場面を想い起こすことさえできるだろう。むしろこうした法廷劇に漂う緊張、言い換えればサスペンスの強度を一身に浴びることで、まさに今ベロッキオの映画を見ていることをまざまざと認識するのである。しかし、そうした各所から沸き起こる抵抗と衝突の声々がもたらす画面の強度とは裏腹に、本作における庁内の教皇の姿と声はつねに細く、弱々しいものとして映るのかもしれない。言わばモーロ解放の鍵を握るフィクサーとしての一翼は担っているが、同時にどこか心許なさを感じてしまうことだろう。
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