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2006年06月23日

ぞくぞくと決勝トーナメントの顔ぶれが決まってくる

 イングランドのエリクソンの実験とは異なり、オランダとアルゼンチンは「虫干し」だった。カイトがどのくらいやれるのか、メッシとテベスの2トップはどうかという試運転だったね。結果を見ると、カイトはちょっとね……。メッシとテベスはある程度、でもファンタスティックというほどじゃない。評価するにはちょうどいい相手だということ。ゲームとしての見所はなかった。0-0のドロー。

 予選リーグ屈指の顔合わせが、共に2連勝で決勝トーナメント出場を決めている、アルゼンチン対オランダのような消化ゲームではなく、真剣勝負で行われるのは嬉しい。イタリア対チェコだ。対アメリカ戦で素晴らしいフットボールをしたチェコがガーナに敗れたことが原因。チェコは、イタリアに勝たねばならない。チェコはコレルが怪我で──などと言い訳をしている暇がなくなっている。どうやってイタリアに勝とうとするのか? ブルクネルの解答はいつも通りで勝てるというもの。コレルの代わりにバロシュ。

 でもいつも通りで勝てる──それはブルクネルの慢心だったようだ。ネドヴェドが獅子奮迅の活躍。キレキレ。でもロシツキが消えている。素晴らしいパスとドゥリブルを持っているのに、まるで相手チームのピルロのように中盤下がり目でバランサーをやっている。負けないためなら、これでもいいかもしれないが、勝つためにはネドヴェドひとりじゃしょうがない。ネドヴェドのこぼれを拾える位置にロシツキがいなければ……。でもいない。いつもいない。
 中盤のつぶし合いからチェコにレッドが出ると、ブルクネルは1点ビハインドの後半から4-4-1にした。これでスペースのできた中盤をイタリアに完全に制圧されてしまう。打つ手なし。あるいは面子がいないのか。したたかなリッピは、インザーギを投入してまんまと追加点を奪う。万事休す。選手層が薄いのはつらい。

 そして2時間ほど仮眠して日本対ブラジル。結果は周知のとおり惨敗(1−4)。このチームの弱点がすべて露呈したゲーム。
 前半の20分ぐらいまでは、川口のスーパーセイヴの連続でなんとか傷口が広がるのを防いでいた。でも展開はべた押され。玉田の先取点でブラジルのアタックに火が点き同点にされると、後半一気に崩れた。火だるま状態。
 ちょっと詳しくこのチームの弱点を見ていく。

1. フォーメーションの問題
ブラジル相手にポゼッションできないことは子どもでも分かる。ならば、4-4-2のガチンコ勝負を挑めばこうした結果は見えていた。こういうゲームこそ、落ち着いて3バック。そしてワントップ。オーストラリアを怖がって3バックにし、ブラジルに真っ向勝負するのは暴挙。ぼくだったら3-6-1。スペースを埋め、ブラジルに自由にさせない。(「ブラジルにスペースを与えたらやられてしまう」ジーコの前日記者会見の談話。)それじゃ2点差で勝てないだろうと言われれば、その通り。でも絶対に2点差で勝てない──プレスにはそう言わなくても、そんなことは誰でも知っている。もし1点とれば、ブラジルは顔色変えて攻めてくる。負けるわけにはいかない。だから、このゲームはこのチームの有終の美でいい。引き分けを狙い、チャンスがあったら1点差で勝つ。それも後半が押し詰まってから1点とる。それがゲームプランであるべき。オーストラリアに負けて、クロアチアに引き分けて、3戦目がブラジルで、それに勝って、しかも決勝トーナメントに行くと考えるのは、1+1=100だと言うのと同じ。これがラストゲームだから、ブラジルに一泡吹かせ、選手に自信をつける。これが正解。

2. 個々の選手の問題
何度も書いているとおり、このチームは戦術で勝つことを最初から選択していない。選手個人個人の能力で相手を上回ることが勝ちに繋がるというのが国是。事実、選手の力は伸びた。アジアカップを思い出すといい。もっと早く勝負をつけられたのに、戦術的な手段をこうじないから、延長やPK戦という個人の力しか発揮できない時間に勝敗が遅延され、そして、アジア・レヴェルでは個人の力で勝った。W杯アジア予選でも同じ。ジーコは選手が判断に困ったときも助けない。W杯予選の対イラン戦で1点リードした後、俊輔がジーコに攻めるのか守るかを尋ね、満足な答をもらえなかったという逸話が「ピッチに立っているのはおまえ等だからおまえらで考えろ」というジーコの主張の証明(本当はジーコも迷っているかどうかは知らない)。
 確かにオフト時代に比べれば選手の技術レヴェルは向上している。だが、判断のスピードがとても遅い。何よりも、かなり長い時間同じ面子でやっているのに、メンバーが「同じ絵」を描けないのは大きな問題。ヒデと俊輔の描く絵とアレックスと加地の描く絵が異なる。これではチームが有機体にならない。ちなみに生まれたときから同じフォーメーションでやっている(4-2-2-2)でやっているブラジルの選手は、同じ絵を描くオトマティスムを持っている。フラットな4-4-2のイングランドでもそれは同じだろう。アヤックスの育成で育ったオランダも同じ。

3.スカウティングの問題
 1-1にされた後半、ペナルティエリア左側からブラジルがFK。この面子ではリヨンのジュニーニョがキッカー。日本チームは壁にふたりしか入らない。信じられない。リヨンのゲームを1ゲームでも見ていれば、ジュニーニョがゴール前で合わせるボールを蹴ることはあり得ない、絶対に直接狙うことが分かるはず。壁を4枚にしてもジュニーニョのFKは8割の確率で決まる。年間1000 試合見ていると豪語するジーコだが、チャンピオンズリーグには興味がないのか。ジュニーニョのFKが綺麗にゴールマウスに吸い込まれ、1-2になると日本選手は完全にファイティングポーズを失っていった。つまり、このFKはこのゲームの分水嶺だ。それに注意を喚起しないのはスカウティングが十分ではない証拠。

ではそうすればいいのか?
98年のW杯後は、経験不足が一番大きな問題とされた。ヒデがペルージャに行き、経験の端緒を示した。そして02年は自国開催だから予選リーグを勝ち抜けることが必須とされ、トゥルシエが招かれた。多くの軋轢をもたらしたが、当時でもちゅっと古くなったフラット3をスローガンにヒデ中心のチームを作り上げた。当時に伸二を始めとする黄金の世代が伸びてきた。ワールドユースの準優勝によって、伸二が高原が「海外」で経験を積むにようになる。
 そしてジーコ。トゥルシエの拘束と束縛と罵倒から解放された選手たちがジーコの「自由」を謳歌するのは当然だ。こうやれ、ああやれと何かとうるさい鬼のようなフランス人から、日本人のこともよく理解し、名前を看板にできる男の下で楽しい練習ができたからだ(ただしウザイシュート練習だけはいやだったが)。
 「海外」で経験を積む選手が増えたが、レギュラーを張れる人材はまだいない。ビッグクラブへの羨望もいいが、ヒデが成功したのが唯一ペルージャだったように、セリエA流に言えばまずプロヴィンチアでレギュラーを取り、実績を作ることからはじめる。時間がかかるが、それしか道はない。川口、大久保、伸二、稲本の失敗──おそらくヒデも失敗だろう──に学ぶこと。
 そして、もっと時間がかかるだろうが、経験と言えば、指導者側も「海外」のチームで指導経験を積むことだ。チャンピオンズリーグに出場するヨーロッパのチームのコーチに複数の日本人がいる時代が来なければ、代表チームも強くならない。

投稿者 nobodymag : 2006年06月23日 08:24