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2007年09月26日

Written on the Wind : カナダ対ジャパン 12-12

 ボールをプレイスし終わり、構えに入って、相手ゴールポストの位置を見つめる大西将太郎の瞳はとても澄んでいた。ひょっとしたら入るな、と思った。このチームの中では彼に肩入れしたくなる。解説の小林さんも涙声になった。ぼくもちょっと感動したけど、ちょっとだけ。なぜなら、このゲームは勝てるゲームで、頑張ったから引き分けられたのではないからだ。
 金が入ってからバックラインが動くようになった。球捌きが「まとも」だからだ。ウェールズやオーストラリアには通用しなかったディフェンスもカナダには通用していた。つまり、カナダは弱い。その証拠にジャパンは対カナダのテストマッチに勝ち越している。高さの差はあるが、ウェイトの差はあまりない。ラインにスピードがない。パスプレイに芸がない。それでも、遠藤の個人技のトライ以外、前半、ジャパンはまったくいいところがなかった。ウェイトの差があまりなければディフェンスは粘れるだろう。だが、ロビンスのキックがまったく伸びない。同志社時代、確かSOだった大西とポジションを代えればいいのに、そうした知恵もない。マイボールは吉田の捌きがもったりして、速攻を仕掛けることができない。何度も書くがトップリーグでやっている東芝のSHでは、劣勢のFWをリードすることはできない。事実、金が入ってから何度もラインブレイクしていた。
 3試合に敗れたジャパンは、つまり、完全に「負け犬」になっていた。いつも相手が強いと信じ切り、凡庸にディフェンスするだけ。勝つためには、ボールを奪い、マイボールをトライラインは運ぶか、ボールをゴールポストの間を通過させる手だてを考えなければならない。たとえば、こんな場面があった。77分、カナダ・ゴール近くで得たペナルティ。ゴールほぼ正面。ジャパンはスクラムを選択した。このとき5-12。インジュリータイムを入れればあと5分近くはあるだろう。この判断はまちがいだ。PGを入れ、3点とって(誰でも入る位置だった)、8-12にし、カナダのキックオフからライン攻撃が正解。結果論ではない。ぼくはスクラムを選択したジャパンに「バカ!」と叫んでしまった。競ったゲームを勝った経験が余りにも少ないから、どうやって勝つのか知らない。結果的に勝っているのではなく、結果としての勝利をゲームの中でどうやってつかみ取っていくのか、というのが正しいゲームメイクだ。
 こんな場面もあった。今村がターンオーヴァーしたが、結果的にノットリリースになり、自陣ゴール前でのカナダのPG。ここでカナダのキャプテンであるSHは左ウィングにキックパスに左ウィングは難なくトライ。セットピースから何の抵抗もなくやられている。前半から、両ウィングがタッチライン際にずっと貼り付いていたことは、このゲームの見た人なら誰でも分かっている。キックされた瞬間、有賀があわてて追いかけたが、遠藤はまったくつめていなかった。これでは、それまでゴールラインを背にして粘っていたディフェンスの価値がなくなる。遠藤はワントライ取ったが遠藤のミスでワントライ取られたので、何もならない。
 つまり、どう考えても、勝てるゲームを引き分けにしてしまった、ということだ。

 ジャパンの4ゲームを振り返ってみよう。
 まずリクルートの問題。これはJKの責任だ。安藤と心中まではまだ許す。だが、その後に呼んだ選手がまったく活躍できなかった。ハーフ団の問題は、勝てるゲームを落とす原因になった。多くの人々が書いているように、辻が必要だった。そして、バックアップ選手にも入らなかったが、セレクションしたことのある廣瀬(東芝)が必要だった。そしてゲームメイクの問題。これはもちろんハーフ団のセレクションとも関わるが、これはJKの責任とばかりは言えない。必死に頑張るだけでは勝てない。ゲームをどうやって勝利に導くのかを考え続けることがゲーム中の選手たちに求められる。それができていない。いろいろな部分では劣るけれども、ゲームは勝っていく。そういう戦術眼を選手たちが身に着けるためには、経験が必要だろう。競ったゲームを勝つ体験、あるいは、どうやって競ったゲームを勝っていくのかというラグビーを思考する経験。それが圧倒的に欠けている。ワラビーズやウェールズに、負けても善戦する体験と、トンガやサモアやフィジーに対して負けゲームを勝ちに持っていく経験。プロ化以後、たとえばスーパー14やトライネイションズを見ていると、ゲームメイクで勝ちを拾うゲームをいくつも見ることができる。
 そしてJKの評価。目標の2勝を達成できなかったのだから、その意味ではマイナス。まず選手たちのディフェンス能力を上げるだけでW杯を迎えたということだろう。JKは、育成型だ。長いスパンで同じチームを育てるのに向いている。短期決戦に勝つには向いていない。勝負師というよりもスキルを伝えるコーチだ。
 フランスには来たけれど、ワラビーズ戦だけに登場した選手たちの労をねぎらいたい。ワラビーズに勝つためにはどうすればいいのか考えて欲しい。ぼくらにとってワールドカップは、ようやく少しだけ始まったばかりだ。アイルランド対アルゼンチン、フィジー対ウェールズなど楽しみなゲームがこれからだ。ぼくは、北半球のチームがどうやって巻き返すのか見ていきたい。

投稿者 nobodymag : 2007年09月26日 11:41

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