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juin 18, 2010

ゲーム戦術という治療法

 スペインがスイスに敗れ、北朝鮮にも見られたような自陣に立て篭もって、ディフェンスばかりする展開についてかなり議論が出ているようだ。これじゃゲームがつまらないじゃないか。W杯なのに、ゲームが地味すぎ。やっぱりチャンピオンズリーグの方がぜんぜんレヴェルが高いよ。どれもその通り。
 ビッグチームに所属する有名選手たちはチャンピオンズリーグで、5月まで厳しいゲームが続いていたから、W杯に入った頃には疲弊している。FIFAは日程を考え直すべきだとオシムが言うのも一理ある。それにナショナルチームは、滅多に集まる機会がなく、常に行動を共にして練習しているクラブチームの方がコンビネーションや戦術が練られているのは当然だ。98年のフランスW杯あたりから議論されている、国民国家の壁が崩れ、チャンピオンズリーグ中心の日程が支配するとき、もうW杯の役割は終わったのではないか、ということが、ゲーム自体の活気のなさや、選手たちの疲労を見ていると、ますます現実味を帯びているようだ。
 でも、まだ結論を出すには早過ぎる。始まったばかりじゃないか。それにグループリーグという性格上、負けないことが何より優先するので、グループリーグ突破のボーダーラインにあるチームは、ディフェンスを固めて、引き分け狙いを戦術の柱にするのは当然だ。有望なチームもピークを決勝トーナメントに置いているはずで、グループリーグからエンジン全開で来るはずがない。チームのピークを一ヶ月も維持することなど不可能だ。
 とすれば、スペインのデルボスケは、スイスにカウンターで1点採られたぐらいで、それまでの戦術を変えて、勝負に出る必要などなかったのではないか。ヘスス・ナバスを入れて右サイドからのクロス中心のアタックに変え、まだ50%程度のトーレスを投入して「勝負する」賭は、決勝トーナメントの一ッ発勝負に入ってからで良い。ボールがめまぐるしく回り続けるスペインの中盤がこの采配で消えてしまった。シルバを我慢し、まだ完全ではないイニエスタを60分まで引っ張り、イニエスタをセスクに変えて、スペインの中盤を徹底的に復習すれば、次第に質が上がってくるはずだ。どっしり構えて選手をやる気にさせるというデルボスケ自らの特長を忘れ、勝負に出るという、彼が未経験な分野に打って出たことがこのゲームのスペインの失敗だった。傷口にバンデージを貼る程度の治療で十分なのに、手術をしてしまった。
 それに対してボーダーライン上の韓国は、アルゼンチンに対して真っ向勝負に出て、見事に負けた。確かにギリシャ戦は快勝だったが、相手がギリシャだったからで、これといった戦術のない──つまり逆に言えば、すごく懐の深いアルゼンチンに対しては、そのディフェンスラインがいささか弱いことを理解した上で、あえてカウンターに徹するゲームメイクをしていれば引き分けもあったかも知れない。
 そしてフランス対メキシコ。メキシコの勝利は見事の一言。同時にフランスは、もっとずっと前に主治医を変えておくべきだったのに、未だに近代医学を信じず、星占いを治療の指針にしている無知無能な医師に治療を任せ続けたことで大失敗。選手たちも、誰も監督を信じておらず、敗戦に悔しさも感じていないようだ。患者が医者を信じなければ、病気は治らない。メキシコの誠実さは、スポーツにあってはもっとも重要なことであるが、不誠実なチームは、はやくピッチを去った方がいい。次期監督に決定しているローラン・ブランに次のゲームからでも采配を任せるべきだ。そうしなければ、フランスはグループリーグ最終戦で当たるホームチームに不覚をとるかもしれない。

投稿者 nobodymag : juin 18, 2010 11:13 AM