カンヌ国際映画祭報告2012 vol.07 5月23日(水)

今日は朝からアッバス・キアロスタミへの合同インタビューに参加するため、批評家週間の会場に近いミラマーレ手前のマンダラビーチへ直行。その後、コンペ作品であるアンドリュー・ドミニク『Killing them softry』を見にSalle soixantiemeに向かうも満員。評判の芳しくない作品にも関わらず、やはりカンヌ。どのセクションも上映がないので、12時からのレオス•カラックス『Holly motors』の公式上映にあわせてのプレスコンフェランスの列に並ぶ。パスが青いからたぶん無理だろうと諦め半分だったが何とか潜入できた。

ドゥニ•ラヴァンは最前列に座った彼の娘たちにおどけてるが、  カラックスは、サングラスを付けたまま、火の付いてない煙草を右手にちかつかせ、かなり気だるそうだ。微妙な緊張感の中で始まった質疑応答を最後まで聞くことは出来ず、急いでSalle soixantièmeへ。

ついにコンペ作品、ホン・サンス『In another country』を。こんなにも少女のように可愛らしくて、無防備なイザベル・ユベールを見たのははじめてかもしれない。歩くこと、話すこと、見つめること、微笑むこと……至極当たり前の振る舞いの一つ一つがどうしてこんなにも魅力的で愛らしいのだろう。彼女の主演が決まった時はどうなることやらと思っていたが、さすがホン・サンス。

「批評家週間」作品、Ilian Metev『Sofia's last ambulance』。救急車での搬送を生業とする3人の男女が主人公だ。ファーストショットから徹底して主観を排し、ラストショットに至るまでほとんど救急車の揺れと三人のバストショットだけで構成されている。私たちは救急車内で起こる出来事を体験することはできない。野心的な試みではあるが、スタイルに拘泥ししすぎているし、俳優の顔が見えない何かを代弁するほどの力を持っているようには思えない。
即座に「監督週間」に移動し、Jaime Rosales『The Dream and The silence』。この監督はすでに2003年「監督週間」、2010年「ある視点」部門で紹介されているそうだ。「モノクロによって、より美しく、感動的なイメージを捉えることができる」と監督は語っていたが、彼が捉える家族の日常と風景は、ただ美しいだけにとどまっていた。ガレルのモノクロからはほど遠い。35ミリ、スコープ、モノクロ、フォーマットだけでは映画は撮れない。

夜は、今年の批評家週間のディレクターであり、指導教官であるシャルル・テッソンの好意で、批評家週間のディナーに招待される。

 

言わずと知れたベルトラン•ボネロや、『水の中のつぼみ』『トムボーイ』のセリーヌ•シアマ、各国の批評家、学生審査員たちと、カンヌというロケーションで夕食をとるという貴重な体験をしたが、キアロスタミのインタビューの時以上に緊張してしまい、美味しい料理をいただいたはずなのにあまり覚えていない……。