5月2日(水)

フランクフルト国際空港に着いたのは、現地時間の14時ごろ。到着ロビーには映画祭スタッフの黒河内麻耶さんが待機してくれていて、ヘトヘトなぼくを空港からホームステイ先まで親切に案内してくれた。滞在先は中央駅からSバン(近郊電車)で3駅ほどの「Frankfurt west」という郊外。麻耶さんはドイツ人と日本人のハーフで、英語も堪能なトライリンガル。横浜の高校に通っていたこともあるらしく、来年は日本へ留学する予定とのこと。電車で移動中のあいだ、フランクフルトの街並みの特徴や名産品、簡単なドイツ語などをくわしく教えてもらった。
 
「Frankfurt west」のホームステイ先に到着。お世話になるファビアンと彼女のソフィーが元気に出迎えてくれた。映画祭の会場まではボッケンハイム大学の一角で、ここからだと歩いて10分もかからないらしい。1時間ほどで支度をしたのち、ボッケンハイムの閑静な住宅街を散歩しながらファビアンに会場まで案内してもらう。
 
会場の入口にはすでに多くのお客さんが並んでいた。プレスのマスコミやテレビ局のカメラマンが取材用の素材をパシャパシャ撮っている。そんななか映画祭のレセプションがスタート。レセプションでは出品作『しんしんしん』(11)の眞田康平監督や、『ENCOUNTERS』(11)の飯塚貴士監督など日本でも顔なじみだった方々と再会を果たす。また本映画祭のメインプロデューサーであるマリオン・クロムファスや「NIPPON CINEMA」部門ディレクターのペトラ・パルマー(グヴィネス・パルトロウにそっくり!)にもあいさつし、フランクフルトのことについて色々と尋ねた。
 
 
その後2階にあるニッポンシネマ部門の会場へ移動し、開会式に参加。スポンサー企業やマリオン、ペトラ、プログラミング協力の方々があいさつをしたあと、オープニング上映の新藤兼人監督『一枚のハガキ』(11)が始まった。第二次大戦中を舞台にした広島の戦争未亡人の悲劇を中心に据えた作品ではあるけれども、会場からは意外にも絶え間ない笑い声が響き続ける。だけど考えてみれば、あんなにコロコロと出兵、戦死を告げる同じシークエンスが小気味よいリズムで連続するならば、いくぶん滑稽に見えない気もしない。笑いといえば茅葺きの家屋を燃やすシーンの大竹しのぶさんは尋常じゃない。燃えている家屋に突入し、次のカットで先ほどのヘアースタイルとはまったく異なる大竹さんがそこにいる。かと思いきや、突然一升瓶の酒をあたり一面に噴き散らす戦争未亡人。何なんだ、これは!でも笑いが起こるのもそういうことなのか。大竹さんの鬼気迫る怪演は、ヘトヘトでクタクタなぼくの骨身に十分沁みまくった。
 
 
 
高緯度な地理のせいか、ドイツの日照時間はほんとに長かった。『一枚のハガキ』を見終えた午後9時半をまわった頃でも、外はまだ薄明かりが射している。遅ればせながら控え室にて、ギリシャのベジタリアンな夜食とラーデベルガーの瓶ビールで喉をうるおし、休む間もなく映画祭初日は幕を閉じた。