5月3日(木)

午前中はフランクフルト中央駅周辺をぶらり。ドイツ最大の金融街なので、高層ビルを要したさまざまな銀行が多い。市内の中心にはユーロ圏最大の欧州中央銀行がそびえ立っている。いっぽう付近では「Occupy!」の横断幕を掲げたテント集団が居座っていた。おそらくデモが起こればこの一帯は暴徒化するのだろうか。いっぽう市内では大規模な再開発が進んでいた。あらゆる場所で工事中の看板が見受けられる。巨大なクレーン車もフル稼働中で、市内の景観や状況はここ数年で変化するのかもしれない。嵐の前の静けさのなか、シラー像のある公園の鳩たちが呑気に見えた。

午後には映画祭会場に戻り、日本で作成したプレス向けのサンプルDVDを設置してもらえるようスタッフの方との交渉。またその後の交流会ではネームプレートに「¥」と大きく書かれた関係者の方々にDVDを配布したりもした。結局日本から用意してきた40枚近いサンプルは、映画祭終了時にはすべてなくなっていた。

22時半からは梅沢圭監督の『Coming out Story』(11)を拝見する。京都在住でトランスジェンダーの中学教諭に密着し、彼女の性適合手術前後をくまなく追いかけた作品だ。だけどこのフィルムは、単に彼女を追いかけるだけの形式にとらわれない。映画の進行につれて彼女を追いかける撮影班のスタッフ、そして監督自身までもが自らの性と向き合っていくのだ。それは「自分は女性ではないのか」と戸惑う撮影班のスタッフにカメラが向けられ、「たのむから撮らないでくれ」と衝突する緊迫感によって体現される。または監督自身の回想を交えたナレーションによってなのかもしれない。そうしたジェンダーへの意識に端を発した入れ子構造のカミングアウトのなかで、どんなに酔いつぶれても酒を呑みまくろうとする中学教諭とそれを気づかう友人の姿に、客席からは安堵にも似た表情が見受けられる。お好み焼き屋で友人と語り合い、一度店を出るものの「もういっちょ呑むか!」とふたたびその暖簾をくぐる姿には、どこか突き動かされるものがあった。