パリ滞在日記4 2013年5月13日(月)

10日〜13日の日程で、パリからミラノに移動し、しばらく滞在する。かつてはヴィスコンティ家が治めた都市であり、中心部にあるドゥオーモから放心円状に広がっているのがミラノだとひどく大雑把に把握する。もちろん、ミラノと言えばミラノ・コレクションがあるからして、プラダ、グッチ、アルマーニ等々、モンテ・ナポレオーネ通り沿いに有名高級ブランドが軒並みを揃えている。特に買いたい物もなかったので、クレモンに頼まれたClaudio Caligari監督の"Amore Tossico"のDVDの購入したほかは、ジェラートやピッツァを食べながら街を散歩する日々。『武器よさらば』でヘミングウェイが記述しているカフェ・コーヴァ、ミラノ中心部の南西に位置するナヴィリオ運河あたりがなかなか良いスポットで、滞在最終日にミラノ郊外に位置するマルペンサ空港に行く前に、朝早くからナヴィリオ運河沿いを散歩して記憶に焼き付けておく。ミラノではパスタ、マルゲリータ、オッソブーコ(リゾットに羊肉の煮込みが添えられたもの)、コトレッタ・ミラネーゼ(ミラノ風カツレツ)などを食べる。どれも美味いが、オリーブオイルを過剰に摂取しすぎて少し胃がもたれる。そろそろ日本のハンバーグやとんかつが食べたくなってきた。しばらくの休業を経てから今年閉店してしまった上野のとんかつ「双葉」のように、もたもたしていると一生食べれなくなると非常に辛いので、次にいつ行くことができるのかわからないこの海外滞在でも、食えるときに食っておかなければと、サイフと相談しながら動き回っていた。

その他、ブレラ絵画館で彦江さんに見ることを勧められたヴェロネーゼによるキリストの晩餐を描いた絵画を見たり、ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」が納められた教会で日曜日のお説教を聞いたり、老舗食料品屋ペックにてロジェ家へのお土産を購入したり等々、とにかく適当にぶらぶらする滞在となった。ブレラ絵画館ではマリオ・シノーリという画家に少し興味を惹かれる。ミラノには路面電車が街中を走っていて、それに乗って知らない場所まで行くのが一番興奮した。路面電車の一番後ろから見える風景は昔と現在で大きく異なれど、ルキーノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』でアラン・ドロンと彼女のふたりが飛び乗る路面電車がまだちゃんと走りまわっていることに素直に感動する。横浜から路面電車がなくなったのは不便なことと経済的な理由によるものだったのだろうが、歩いたほうがおそらく早い路面電車のその「不便」なところがたまらなく良いことにミラノで気づかされる。『若者のすべて』は経済成長の高まりを見せていたミラノの街を訪れた貧乏な南イタリーの家族の物語だったが、あの映画の冒頭に登場するミラノ中央駅はまだ当時の面影を残していて、その駅から空港へと向かう列車に乗りながら、ヴィスコンティのことをあれこれと考えつつパリへ帰った。今年のカンヌ映画祭にはアラン・ドロンが来るので、ぜひ一目見てみたい。そういえば、今年のコンペに入っているジェームズ・グレイもヴィスコンティの『若者のすべて』が好きなのだと教えてくれたのは、梅本さんだったな。

パリに戻ってからロジェ宅にて、バケーションから帰ってきていたジャン=フランソワ・ロジェとパリでようやく会うことができ、槻舘さんたちを交えて食事。クレモンに教えてもらったニコラというワインショップで買ったけっこう上等なワインを手土産として渡す。何年か前にシネマテーク・フランセーズで行われたサッシャ・ギトリのこと、日本やフランスの映画批評のこと、カンヌ映画祭のこと(マネー・クレイジーがいっぱいいる変な場所だぞ、と言われた)、あと何故か鶴田浩二のCDを聞きながら、日本のヤクザのことなどについて談笑する。ロマンポルノの話題のときに、クレモンが右翼の邸宅にセスナ機で突っ込んだ俳優・前野霜一郎のことについて嬉しそうに話し出し、なんでそんなことまで知ってるんだと少し驚いた。