パリ滞在日記5 2013年5月14日(火)

午前中、ジャン=フランソワ・ロジェたちの出勤を見送ったあと、しばらく一人で家でお留守番。nobody関連のメールをせっせと処理していると、突然インターホンが鳴り出す。玄関を開けると水道屋らしき男が立っていて、中にはいって水道チェックをさせてくれ、と言われる。なんだかよくわからないので、一言「ノン!!」と言って追い返す。パリは日本と違ってこういう手口の強盗と詐欺(水道屋詐欺みたいな)があるのかも、と一瞬思ったからだが、さすがに半居候の身で知らないおじさんを家に入れるのは気が引ける。

昼からサン・ミッシェル駅まで行き、エコール通り界隈にあるビストロ「ル・プレヴェール」に行くも満席。「20分待ってくれれば入れるよ」と言われたが、ここでも「ノン!!」ときっぱり断り店を出る。その後、美味そうなビストロを自分の嗅覚を頼りに探していたら道に迷って30分くらい時間が過ぎてしまったので、ちょっと後悔。オデオン座あたりまで行ってうろうろした後、結局先ほどの店から100mほどのところにあるビストロなんとかでビーフシチューとクリーム・ブリュレを大急ぎで食べる。店主も感じが良いおっさんで、料理もなかなか美味かった。14時からグランド・アクションでやっているガス・ヴァン・サントの新作"Promised Land"を見なければ、と思い時計を見ると13:55分。やばい!と思ってクレモンに案内されたときの記憶を頼りに映画館にギリギリセーフで駆け込むと、そこは何故かグランド・アクションではなくて、デスペラードという映画館であった。元々はアクション・エコールというアクション系列の映画館だったが、槻舘さん曰く、映画作家のジャン=ピエール・モッキーがそこを買い取って自分の作品をけっこう上映している場所だとのこと。映画館を間違えるなんて、東京に出てきた18歳のころ以来なので、ショックを受ける。万事休す、こうなったらモッキー映画でも見るか、と思ったら、ミュージカル映画特集としてマーク・サンドリッチの『コンチネンタル』が14時から上映されていたので、これ幸いと鑑賞。マーク・サンドリッチの監督としての初めて大役作品であり、フレッド・アステアが映画デビューしたての頃の作品。それだけに、ミュージカルシーンの撮り方は形式がまだ定まっていないようなぎこちなさに溢れていたが、アステア&ジンジャー・ロジャースの共演をパリの映画館で見れることに感動した。冒頭、パリのレストランで財布が見当たらない有名ダンサー役のアステアが、ツケにしてもらうためにダンスを披露するという導入部がすごく良く、今作で初めて共演した若々しいアステア&ロジャースがコール・ポーターの"Night & Day"にあわせて踊るシーンにちょっと涙腺がゆるむ。コール・ポーターもパリに住んでたんだよな、そういえば。

その後、槻舘さんとオデオンのサン・ピュルシュス教会近くにあるカフェなんとかで会い、カプチーノを飲む。明日に控えているアクション・クリスチーヌ広報&『ベルヴィル・トーキョー』の監督エリーズ・ジラールに、アクション系映画館の話を聞く取材の打ち合わせ。カフェの看板には創業1662年くらいと書いてあったが、本当かいな。ネットで調べるとその時代は、日本では4代目将軍の徳川家綱のころ、あとパスカルの『パンセ』が出版されたころとのことであった。再び槻舘さん曰く、フィリップ・ガレルはこのカフェの2階でしか取材を受けない、とのことだった。 その後、槻舘さんにサンジェルマン界隈の本屋を案内してもらう。ギルバートなんとかでカイエ・デュ・シネマを購入後、シェイクスピア&カンパニーを見物がてら物色。ここがヘミングウェイやらジョイスやらが通った店か!と『ミッドナイト・イン・パリ』のオーウェン・ウィルソンみたいになる。その後、シネ・ルフレという映画書籍屋で、サッシャ・ギトリのシネアルバム的な本を購入。これは良いものを見つけてしまったとホクホクになる。

夜は先日会ったエンリコの友人のイタリアン・バンド"Wild Men"が出るというライブバーにクレモンと繰り出す。助監督をやっているというアンドレア、TV系の仕事をしているマイクに会う。どっちも気の良い連中だった。マイクはいつも楽しそうに笑うキュートなガイで、イタリアの女性とフランスの女性の違いについてあれこれ教えてもらう。バンドはドラムとギターだけの二人だけで、でかいサウンドで何を歌っているのかわからなかったが、音楽に対するストレートな心意気と魂を感じ、大いに楽しむ。その日は来ていなかったが、フランチェスコというイタリア人の男が音楽マニアで、日本で好きなアーティストは「暴力温泉芸者」だそうだ。

家に帰り、nobody渡辺さんに連絡をしようとするも、Wi-Fiの環境設定が悪いのか、PCのスカイプが使えず。渡辺さんを朝の6時からパソコン前で待機させてしまい、ちょっと怒られる。ごめんなさい。でも、パリは本当に不慣れで、ストレンジャーには何かと大変な街なので、勘弁してください。