10/28(月)『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』宮一紀

名の知れたサーフィンの聖地、カリフォルニア州マーヴェリックス。ローカルの少年たちは髪を濡らしたまま町を歩いている。サイケな落書きで彩られたバンに乗り込み出かけていく若者たち。夜の砂浜では、焚き火を囲み、女同士の秘密の会話――「彼を守ってあげてね」「任せて」。あるいはまた、屋根を伝い女の子の二階の部屋の窓へのアプローチ。次の瞬間、女の子はきっとこう言うだろう――「両親が起きてきちゃう!」。すべての瞬間が正しく青春映画的で、ワクワクする。

もちろん最後には息を呑むような奇跡のビッグウェーブが訪れる。そこで体感される音響のカタルシスは凄まじい。20フィートの大波が砕けて重低音が轟いたあと、スクリーン一面に飛沫が飛び散り、カラカラと乾いた音が鼻先をかすめていく――本当にくすぐったくなるくらいに。しかし、このフィルムが上映時間のほとんどを費やして描き出すのは、ビッグウェーブがやってくるまでの12週間のあいだに起こる出来事である。主人公にできることと言えば、パドリングと息止めの訓練くらいのもので、ひたすら地味な特訓の日々が繰り返される。

近所に住む憧れのヴェテラン・サーファー、少しだけ先にサーフィンを始めた友人、幼なじみのかわいい女の子、意地の悪そうな先輩。家に帰らなくなった軍人の父親、酒に頼るようになった母親。どこにでもあるような町、どこにでもいるような人々、彼ら彼女らの暮らし。家の修繕、ピザ屋のバイト、裏口から忍び込む市営プール、無遅刻無欠勤による昇格、町のショーウィンドウで見かけた89ドルのラジオ、母親に貸した15ドル……。 驚くくらいシンプルに出来事が積み重ねられていき、それらをすべてひっくるめて、このフィルムは主人公の少年にこう言わせる――「Mavericks is real」。少年が目を輝かせてそう口にした瞬間から、このフィルムは私たちのことを語り始める。

宮一紀