カンヌ映画祭日記④ 5/16

      今日の一本目は、楽しみにしていたテシネの新作『Impardonnable』に向かう。予想通りのすごい人。でもテシネが監督週間で上映されることへの違和感は拭えない。ノミネートしている他の監督と比べると、テシネはあまりにも巨匠過ぎるからだ。次回作を準備中の作家と不動産業を営む初老の女性の出会い、その後の展開は、春夏秋冬、大雑把な時間経過が示されるだけで、事は私たちを置き去りにして知らない間に進んでいる。『証言者たち』以降、個人的にテシネの作品はかなり変わったと思っていて、70年代、80年代の重さ、暗さ、厳しさを乗り越えて、なんとなく軽さを獲得したように見える。『証言者たち』で、テシネはかつての映画の登場人物にもう一度生き直させていた。その中心にはエマニュエル・べアールがいて、小説家である彼女が彼らの物語をタイプライターに向かい、もう一度語り直す。結局のところ、男娼として生きることになるピエール(『深夜カフェのピエール』)も行き詰まっている舞台女優(『ランデブー』)も、かつてと迎える結末にさほど変わりはない。けれど絶望的な夜の風景の中に沈んでいくことはもうない。新作はというと、さらにというか恐ろしいほど軽い。何といえばいいのか、テシネが自身のクリシェと戯れているような映画だ。2000年以後のガレルの作品と似ているかも。

  Q&Aに出席していたらもう二時近くになっていて、テレンス・マリックに並んだけど、時すでに遅し。カンヌに来て初のまともなランチを食べて、16時半からのブリュノ・デュモン『Hors Satan』に並び、なんとか入れた。ブリュノ・デュモンの映画は個人的にはかなり苦手な部類だけど、あえて挑戦。『ユマニテ』『フランドル』『ハデウィヒ』…どの登場人物も、悪い意味ではなく表面的というか、物体として捉えられていてひとかけらの感情も見えない。だから、見ていて本当に恐ろしい。新作はいくつかの奇跡はあるものの、同じ姿勢を貫いているように思えた。つまりやっぱり苦手なんです。夜は、クレモン君に誘われて、韓国の映画セクションが主催するパーティに連れて行ってもらい、ポン・ジュノにご挨拶。ホン・サンスと再会できるかなと思って楽しみにしていたけど、まだ到着していないようだった。帰宅は1時過ぎ…明日も8時30分からのプレス上映には行ける気がしない。