カンヌ映画祭日記⑦ 5/20-21

   5/20

    昨日のパーティの後、クレモン君とともにホン・サンス、イ・チャンドン、ポン・ジュノ、そしてなんとクレール・ドゥニ!と合流したからほとんど帰りは夜明けに…睡眠時間がここ数日3〜4時間のため、そろそろ体力の限界。今朝はどうにか頑張ってペドロ・アルモドバルの新作『The skin I live in』に並ぶ。今までイメージしていた色彩やタイトルバック、そしていつだって強烈な女優の顔ーー特にペネロペーーと比較すると…なんだろう、すべてが薄いのだ。この映画が皮膚を巡る物語であることを考えると映画の構造的にはアリなのかなと思ってはみたものの、一番薄かったのは私の意識だったと思うので公開されたらまた見ようと心に誓う。昼過ぎからはかなり評判のいいカウリスマキに再挑戦するもまた入れず。三本目の監督週間の作品『The giants』も30分前に着くものの、目の間の前で満員と告げられた。今日は本当についてない。上映する作品の絶対数が減っているからどうしても人は集中するのだろうか…しょうがないので、友達とお茶をしていると、独断と偏見で部門すら無視して何をパルムドールに選ぶかという話になる。カウリスマキ一票、ダルデンヌ一票、ジェフ・ニコルズでしょと言う人がいたり、河瀬(マジかよ)などなど、それぞれまったく意見は噛み合ないものの、ナナコパルムドールはボネロ『L'apollonide-Souvenirs de la maison close』に決定。夜はシネマテークの方々とディナーで、生ガキと白ワインでもう11時頃にはうつらうつら。いろんな誘いを断って今日は、早め…とは言っても1時過ぎに帰宅する。明日は私にとっては最終日。オノレの新作『Bien aimés』で締めくくられる予定。

 

   5/21

   朝からバタバタしつつ、荷造りを終わらせて、一番大きい劇場であるグランドリュミエールに向う。やはり、もう人はまばらになっていて数日前と比べて会場に入りやすい。前作の『浴室の男』も好きだけれど、今回はオノレお得意のミュージカルなので、スチール写真だけでかなりわくわくしていた。複数の女性の足から始まる映画のファーストショットは最近見直した『ゴールデンエィティーズ』であり、もちろんトリュフォーの『恋愛日記』を想起せずにはいられない。1963年からおよそ40年間の時間がサニエからドヌーブ、ラシャ・ブクビックからミロス・フォアマンによって繋がれる。キアラは劇中でドヌーヴの娘として登場し、一人で二つの時間を背負うことになるだろう。60年代の鮮やかでポップな色彩が、70年代、80年代…時を経るにつれて失われていく一方で、ドヌーヴからキアラに継承されたブロンドだけはその色を変えない。さまざまなクリシェーーパリの街、娼婦、3人で潜り込むベッドーーでもどれも40年後に同じようには成立しない。ジャック・ドゥミ的なものであり、ヌーヴェルヴァーグを継承しつつも、今、それが可能なのかという問いかけを発しているように思えた。この作品はある意味で歴史ものなのかも。今年のカンヌではボネロに匹敵するくらい好き。18時のTGVの時間までは空いていたので、ゆっくりランチをして、カンヌの街をお散歩。途中退席を含めれば、30本以上は見たことになるけれど、田中さんの話を聞くと、私は外れくじばっかり引いていたみたい…。初めての海外の映画祭、色々考えることはあるけれど、とりあえず、パリに帰ったらテレンス・マリック、ダルデンヌ、ウディ・アレンの新作を見よう。