これまでプロデューサーとして数多くの作品を生み出してきた越川道夫の初監督作『アレノ』がこのたび公開される。エミール・ゾラ「テレーズ・ラカン」を原案としたこの映画は、近年では異例とも言える16mmフィルムでの撮影という果敢な姿勢を見せていると同時に、妻とその愛人、溺死した夫ら3人の奇妙な人間模様を、俳優たちの親密かつ辛辣な演技によって描いた作品となっている。
今回、この『アレノ』という作品を巡って、製作・配給会社スローラーナーのプロデューサーとして日本映画のひとつの流れを築いてきた越川道夫監督と、脅威的なペースで仕事をこなしながら数々の重要な作品で活躍を続ける俳優・渋川清彦のおふたりに話を伺う機会を得た。演技をする俳優と演出をほどこす監督という役割を超えて、ただシンプルに「映画をつくる」ことに自然と向き合っているかのようなおふたりの会話から、この『アレノ』の魅力はもちろんのこと、「映画」そのものの面白さを感じてもらえれば幸いだ。
——この『アレノ』は越川さんにとってはじめての監督作品となります。これまでもプロデューサーとして数多くの映画の制作に携わってこられましたが、いかがでしたか?
越川道夫(以下、越川):はじめてと言えばはじめてですが、僕はものをつくるのが単純に好きですし、僕の師匠と呼べる方に澤井信一郎監督がいて、短いながら東映で助監督をしていた頃もあったんですが、でも職業監督になろうと思ったことは一度もありませんでした。これまでも小劇場の芝居の演出とか、台本も書いたりしていたので、はじめての監督作品ということで何か特別に気負うものがあるわけではないんです。
渋川清彦(以下、渋川):越川さんのことを知っている周りの人たちは、『アレノ』の監督は越川さんがやると聞くと「あー、やっぱりね!」という感じで反応していましたよ。越川さん、やっぱり自分で監督したかと。