ミリタリー・マニアから大島渚、そして「バビロン」シリーズへ

――『バビロン2―THE OZAWA―』の宣伝チラシに書いてある文章を読んで知ったんですが、相澤さんは90年代にバックパッカーで東南アジアをまわっていたんですね。

相澤ハードなバックパッカーと比べると、やわなバックパッカーだったけど、昔からかなり行っていました。ベトナム、タイ、それにインド。金がないから、タイに一番多く行きましたね。『地獄の黙示録』(79、フランシス・F・コッポラ)とか『タクシードライバー』(76、マーティン・スコセッシ)とか、自分の好きな映画はだいたいベトナム戦争が絡んでいるものなんだけど、そういう映画を見てドアーズとかを聴くようになって、そこからヒッピーとかウッドストックとかのカウンターカルチャーにも入っていったんです。そうすると、「ヒッピー」とは一体何なのか、実際に見てみたくなってきて、それで90年代の中頃に、東南アジア諸国に初めて行ってみました。感想は、とにかく西洋人たちがすごかったの一言に尽きる。『ザ・ビーチ』(00、ダニー・ボイル)みたいに、やりたい放題に楽しんでいるわけ。「なんだこれは、アホか」と思ったけど、そういう光景とか「ゴーゴーバー」とかを実際に見てみると、やっぱりびっくりしてしまって。カウンターカルチャー的な空気もまだ若干は残っていて、「新しい世界をつくるんだ」みたいな雰囲気があったし、とにかくイケてる感がすごかった(笑)。

――ベトナム戦争中に撮られた映画や、その後の時代につくられたベトナム戦争映画には、やはり影響を受けているんでしょうか。

相澤 もともと映画をやろうと思ったきっかけが『イージー・ライダー』(69、デニス・ホッパー)だったんです。最初はファッションで見始めて、「これ、かっけーなー」みたいな感じだったけど(笑)。それからは後追いでたくさんベトナムものの映画を見たりした。日本映画だったら、大島渚をけっこう見ました。これ、nobodyのインタヴューで喋っても仕方ない話なんだけど……、大島渚の『無理心中 日本の夏』(67)で、主人公の佐藤慶が着ている迷彩服がやばいです!タイガーストライプっていうんだけど、あれ欲しい(笑)。『バビロン2』の宣伝チラシにも使っている柄なんだけど、佐藤慶があの映画で着ている迷彩服は最も価値のあるタイガーストライプ。ミリタリー・マニアは死ぬほど欲しがる服で、すごく高い。あれが市場に出たら10万以上はしますね。 『無理心中 日本の夏』は無茶苦茶な映画だった。佐藤慶が思い悩む役で、ヒロインは何も考えてない当時のフーテンの女の子が出ていたけど、今回の映画で何も考えていない小沢(富田克也)がいるのは、あの映画からの流れのなかにある気がしています。

――大島渚はテレビ番組「ノンフィクション劇場」の企画で、「南ベトナム海兵大隊戦記」を撮っていますよね。

相澤 そうそう。牛山純一さんと石川文洋さんの。お蔵入りになったやつ。たぶんそのときにベトナムに行ってあの迷彩服を持って帰ったんじゃないかと。「南ベトナム海兵大隊戦記」はすごく見てみたい。誰か見せてくれないですかね……。

「バビロン」シリーズの撮影方法と膨大なリサーチ

――この『バビロン2』はいつごろ撮影されたんですか。

相澤『国道20号線』が終わってすぐだから、2005年あたりからだと思う。『サウダーヂ』(11)の製作の前にはだいたい撮影が終わっていました。最後の新宿のパートだけ『サウダーヂ』が終わったあとに撮ったから、かなり前の話です。

――今作では富田克也さんを主演にされています。

相澤それはもう、主演を演るのは彼しかいないから。最初に富田監督たちと一緒にカンボジアに行ったあと、実は俺はベトナムに行かないで、彼らにキャメラを託したんだよ。だから、ベトナムのシーンを撮ったのはすべて富田監督です(笑)。富田監督は良いキャメラマンなんです。空族は基本的にみんなキャメラを回せるし。

――まさかベトナムの撮影現地に監督の相澤さんがいなかったとは……。

相澤基本的に「バビロン」シリーズは撮ってきたものを見て、あとでどう使うか考えています。もちろん、「新宿でキャッチをしていた男がベトナムに逃げなきゃいけないボンクラで……」というおおまかな設定はつくってあったから、あとは「とりあえず撮ってきてくれ」と。よく言われるけど、現地に行って遊んでいる映像をただ繋げているだけなんだよね(笑)。一応、演出はしているんだよ。たとえば現地の女の子が登場するシーンは、片言の英語で頼むわけ。“He is a rich man, and buy you.”みたいなへぼい英語で説明してさ(笑)。だから盗み撮りをしているわけではないです。

――「バビロン」シリーズの特徴として、歴史についての膨大なテキストが挿入されますね。これは空族の映画に共通することかも知れないですが、リサーチ量がとにかくすごいです。

相澤『バビロン2』に関していうと、俺はベトナム戦争マニアだから、もう20年くらいは研究しています。そこはまじめに取り組んでいます。映画自体は軽いけど、調べてきたことに対して、ある「重み」を自分のなかで感じられるようになってからつくっています。自分なりに積み重ねてきた20年の時間に、自分で納得ができるようになってから、ようやくつくっていると言うか。でもミリタリー・マニアのあいだでは、このシリーズに書いてあることは全部有名な話なんですが(笑)。

柳町光男さんが言っていたけど、柳町さんは映画を撮る前にすごくリサーチをするらしい。空族は基本的に自分のつくりたいものを撮るから、自分で調べて、その下積みがあるうえで映画をつくるというのはたしかです。『サウダーヂ』にしても、別に『FURUSATO2009』(09)があるからあの映画ができたというわけではなくて、ブラジル人のことも、ほかのことも何年もかけて全部リサーチしているんですね。だから空族の大概の映画は、一本つくるのに何年もかかっています。

――この映画のエンドロールに参考文献リストが出てきますが、実際に調べている量はあんなものじゃないですよね。

相澤あんなものじゃないです。だからこの映画よりも、興味をもった参考文献を読んでもらったほうがタメになると思う。そっちのほうが面白いと思うし、自分はそうやってハマっちゃった口だから。それに、実際に現地を旅していると、この映画に出てくる小神(伊藤仁)みたいな変な奴に本当に会うんだよ。胡散臭い男で、「マルコスの隠し財産があるから、ベトナムで1年間駐在してくれ……」って頼まれたことがある。ほかにも「俺はさる大物政治家の息子だ」とか言う奴とかね。もちろん、本物の日本赤軍の人もいたりするし……。さすがにマルコスの隠し財産の話にはびっくりして、笑っちゃったけど(笑)。

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