——私が『COP CAR コップ・カー』(以下、『コップ・カー』)を知ったきっかけは、『今日、キミに会えたら』(2011)『あなたとのキスまでの距離』(2013)の脚本家ベン・ヨーク・ジョーンズが本作を2015年のベストの1本に挙げていたことでした。彼はあなたの演出や技術を真っ先に褒め称え、「とてもシンプルなコンセプトで非常にうまく作られていて、それぞれの要素がとても熱心に描かれている。素晴らしく感激した」と評しています。私もそれに同意します。

ジョン・ワッツ(以下、JW):おぉ、それは知らなかった!光栄ですね。

——『コップ・カー』にはさまざまなアメリカ映画的な要素が散りばめられています。ベン・ヨーク・ジョーンズが「まるでアンブリン社が暴力的なスリラーを制作したかのような映画だ」とも言っているように、『E.T.』(1982)や『グーニーズ』(1985)、または『スタンド・バイ・ミー』(1986)など1980年代の少年たちの冒険を描いたアメリカ映画を想起させます。あるいは、パトカーのナンバープレート(「149 PCE」)やクライマックスのカー・チェイスはスピルバーグの『激突!』(1971)、また緊張感のあるスリラーの中に時折ダークなユーモアを織り交ぜているのはコーエン兄弟的でもあります。前作『クラウン』はホラー映画でしたが、本作にもあなたに影響を与えた映画の記憶が込められていますか。

© Cop Car LLC 2015

JW:ハハハ、確かにその通りです。『コップ・カー』は、間違いなく自分の映画体験がたくさん内包された映画になっていると思います。そのような80年代の映画を実際に観てぼくは育っているので、そのときの自分の世界観や何を求めていたのか、何を世界に期待しどんなことを夢見たのかというのがすべてそのまま本作に反映されています。たとえばジョー・ダンテの『エクスプローラーズ』(1985)や『グーニーズ』などを観た後に、子どもっていうのは自分の庭に出て冒険に繰り出せば、もしかしたら海賊の宝物や追突してクラッシュした宇宙船に出会えるんじゃないかと期待します。だけど残念ながら実際にはそういったものに出会うことはなく、みんな大人になっていってしまう。だから約束された冒険は、実際には出会えなかったりするのが現実でもあるのかなっていうのも、実はちょっと『コップ・カー』には反映されています。もしお宝に出会えないのならば、何がそこに待っているか。どんな冒険がそこに待っているか。きっとそれは現実の世界ではもっと恐ろしく危険なものなのではないかということで、本作は犯罪のストーリーに絡めた作りになっているわけなんです。

——『コップ・カー』は詩情豊かな映画に仕上がっており、なかでも私はジェフ・ニコルズの『MUD マッド』(2012)を観たときの感触に最も近い印象を覚えました。

JW:『MUD マッド』は大好きな映画なので、そう言っていただけると嬉しいです。

——アメリカのジュブナイルな冒険譚の系譜を受け継ぎつつも、しかし本作には少年たちの退屈で平凡な日常のすぐ横に凄惨な殺人が横たわっています。家を飛び出した無邪気で幼いハリソンとトラヴィスは、現代のハックルベリー・フィンとトム・ソーヤーのようです。

JW:そうですね、これだけアメリカを舞台に少年が成長していくというシンプルな物語を取っていると、マーク・トウェインの影響から逃れるのはなかなか難しいことです。日常のすぐ隣にある暴力性に気づいてしまったり、それに触ってしまうことがいかに容易いことで、我々の生活とともに起きているのかを知ることが、すなわち大人になることでもあるのかもしれません。少年たちが大人になるからこそ、そういう怖いものがあって、それを見聞きすることが彼らの変化なのかもしれない。

© Cop Car LLC 2015

——ふたりの男の子の名前について伺いたいのですが、トラヴィスからは汚れた社会を嫌う『タクシードライバー』(1976)の主人公の名前を、ハリソンからは冒険活劇ヒーローを演じてきたハリソン・フォードの名前を彷彿とさせます。これは考えすぎでしょうか。

JW:それもいいですね(笑)。でも実は子どものころから知ってる幼なじみの名前から取りました。映画の中に出てくるたくさんのものは、ほかの映画へのオマージュと言うとちょっと違うかもしれないけれども、拝借したものだったりします。だけどこのふたりの名前に関しては、本当に知ってる子の名前なんです。でもそういう風に書いてくれてもいいですよ(笑)。

——「チンコ、ウンコ、プッシー、ケツ、ケツ穴」と木の棒を地面につきながらふざけあって何もない野原を歩くふたりの少年を映した冒頭が、大人の目線からの描写でないことも最高ですね。あなたが幼いころから繰り返し見ている夢が本作の着想にあたるそうですが、あなた自身は好奇心旺盛な男の子トラヴィスと気弱な男の子ハリソンのどちらに近いのですか。

JW:ぼくはハリソンに似ています。子どものころは、何かトラブルに巻き込まれるのも怪我するのも怖かった。ぼくは完全にビビリな方だったんだけれども、いっぽうでトラヴィスのモデルは実際にいて、ぼくの小さいころの友だちです。最後にぼくがトラヴィスと会ったときは、彼が刑務所から出てきたばっかりだったから、ぼくはトラブルに巻き込まれる方だったんだよね(笑)。

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