『やさしい人』公開
ギヨーム・ブラック×三宅唱
“だからぼくらは映画をつくる”

1年前『遭難者』(09)と『女っ気なし』(11)の公開によってギヨーム・ブラックは、みずからがいまフランスのみならず、世界でもっとも重要な映画作家のひとりであることを日本の観客に知らしめた。そして、こんなに早く彼の新作が見られるとは! そんな喜びをまったく裏切らない、いや、むしろさらに大きな驚きをわたしたちに与えてくれる、それが初長編作『やさしい人』だ(前作同様16mmでの撮影だ)。
今回はそんなギヨーム・ブラック監督と、『Playback』(12)の反響も記憶に新しい三宅唱監督との対話を企画した。わたしたち同様『女っ気なし』 を愛する三宅監督は、『やさしい人』に、そしてギヨーム・ブラック映画になにを見いだしたのか。映画づくりにおける「リスク」について、俳優との関係について、カメラについて、編集について、あるいはともに映画をつくる友人たちについて。映画をつくるときにもっとも重要なこととは? なぜ映画をつくるのか? ふたりの作り手の言葉には、映画に関わるすべての人々──映画を見る、語る、つくる、届ける──にとって重要なことが、たくさん隠されているはずだ。

リスクを抱え込む

三宅唱(以下S.M.):まず、ひとりの観客として『やさしい人』をみながら、ものすごくハラハラしました。マクシム(ヴァンサン・マケーニュ)はいったいなにをしでかすつもりなんだ?と。とてもスリリングな映画でした。それと同時に、映画の作り手のひとりとして、とてもハラハラしたんです。なんてリスキーな映画なんだ!と。……いや、いま少しカッコつけて「作り手として」と言いましたが、『女っ気なし』のファンだからこそ、勝手にそんなことを感じたのです。

ギヨーム・ブラック(以下G.B.):ああ、ぼく自身、他の監督の作品をみながらハラハラというか、不安を感じることがよくあるよ。この作品はある瞬間に崩れ、失敗してしまうんじゃないか?と。このことはとくに自分が好きな監督、さらに言うと比較的若い監督たちの作品に対してよく起こる。もちろんモーリス・ピアラのような偉大な監督の作品ではそんなことを感じないけど(笑)、そこで描かれている世界やその描き方を自分が愛している監督作品ほど、最後の最後までやたらと不安を感じる。もし最後の瞬間に崩れさってしまえば、とても悲しくなるよね。

続き・・・

ギヨーム・ブラック Guillaume BRAC

1977年生まれ。配給や製作の研修生として映画にかかわった後、FEMIS(フランス国立映画学校)に入学。専攻は監督科ではなく製作科だが、在学中に短篇を監督している。2008年、わずかな資金、少人数で映画を撮るため、友人と製作会社「アネ・ゼロ」(Année Zéro)を設立。この会社で『遭難者』『女っ気なし』を製作。2013年、長篇第1作『やさしい人』が、第66回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品される。なおロカルノ国際映画祭では本篇106分だったが、その後、監督みずからの手で100分に再編集され、2014年1月にフランスで劇場公開された。

三宅唱 Sho MIYAKE

1984年札幌生まれ。映画監督。『Playback』(12)、『やくたたず』(10)など。現在boidマガジンにてビデオダイアリー『無言日記』を毎月配信。また最新作として長編ドキュメンタリー映画を仕上げ中。

『やさしい人』

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

2013年/フランス/カラー/100分/フランス語/DCP/1:1.85/5.1ch
監督:ギヨーム・ブラック(『女っ気なし』)
脚本:ギヨーム・ブラック、エレーヌ・リュオ、カトリーヌ・パイエ(協力)
撮影:トム・アラリ
出演:ヴァンサン・マケーニュ(『女っ気なし』)、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ、ジョナ・ブロケ、マリ=アンヌ・ゲラン
原題:TONNERRE 日本語字幕:高部義之
配給:エタンチェ 宣伝:テレザ
© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

『やさしい人』オフィシャルHP
2014年10月25日(土)ユーロスペース 他全国順次公開!

あらすじ

フランス・ブルゴーニュ地方、まもなく冬を迎える小さな町トネール(Tonnerre)。パリから一人の男が、父親の住む実家に戻ってくる。かつてはインディーズでそれなりに名を馳せたミュージシャンのマクシム。人気の盛りは過ぎ、目の前にあるのは、先行きのない未来だけ。ギターを手にしても、でてくるフレーズにはどことなく甘酸っぱさが残るが、若さはもはや過去のもの。しかし人生にはときに素晴らしい贈り物が差し出される。マクシムにはそれは若い恋人だった。だがそれは、かつてない無情な速さで失われてしまう。突然消えたロマンスを追うマクシムは、人生を揺るがしかねない危うい行動にでる。