――話は変わりますが、先日の「TOCHKA NIGHT」にしても、東京国際映画祭への出品にしても、この作品には何か広がりが感じられるなと思っていたんです。

吉川広がりがあるように見えれば成功ですね。この映画の存在自体は前から知っていたんですが、あるとき劇場公開をしたいという相談を受けたんです。すごく力のある映画で、ぜひ関わりたいと思っていたんですけど、実は初めて見たときは職業柄「これを売るのは大変だろうな」と思ったんです(笑)。その話が僕のところに来たんでうわあと思ったんですけど(笑)。
この映画って通常の商業映画の枠では売れないと思うんです。今の映画ってタイアップのようなかたちで切り口を小分けにして売っていくことが多いのですが、それは今回絶対にしたくないと思った。そこでまずわかりやすく説明するのはやめようと考えました。この映画がどういうふうに見られるべきかということを考えて、チラシやポスターのデザインにも反映させています。あえてわかりやすく呈示せず、これは「そのように見えるのであればそういう映画ですよ」という映画なんです。
「TOCHKA NIGHT」というイベントはもちろん映画に絡んだイベントなんだけれど、映画に音楽を提供しているミュージシャンに出てもらうんじゃなくて、映画に関わっていない人に映画の音を素材として自由に加工して作り上げてもらった。いわば音楽による映画批評なんです。映画のコアな部分はそのままに外側に広げていったものが「TOCHKA NIGHT」だったんです。
東京国際映画祭に関しては、「日本映画・ある視点」部門を担当している人にここ数年インディペンデント映画を中心に、いろんな映画を推薦しているんです。それで今年は『TOCHKA』が選ばれたんです。選考ではものすごい意見が割れたらしくて、2時間くらいもめたらしいですね。絶対いやだって言う人もいたそうで(笑)。

――それはいいことですね(笑)

吉川通常の映画の売り方ではない売り方って何だろうって考えてきたことの結果だと思うんですね。劇場用パンフレットもかつてないものになっているのでぜひ読んでいただきたいんです。鎌田哲哉という批評家が寄稿してくれて、僕らの考えていることがその文章に集約されています。その文章は実はある種の『TOCHKA』批判なんです。肯定では全然ないんです。僕らはむしろそういうふうに見てほしかったというところがあるし、ある意味では望むところだったんです。僕らが望んでいる映画批評ってそういうものなんです。映画を作っている人や批評をやっている人、あるいはそれらを目指す人にはぜひ読んでほしいですね。

松村最終的な結論が「『チェンジリング』の方が面白い」なんですよね(笑)。そこから考えろということなんですね。何が足りないんだろう、君たち(僕たち)には、と。

吉川「いろんなインディペンデント映画があって刺激的で面白い。だけど『チェンジリング』の方が面白い」(笑)。でも、『チェンジリング』の方がわれわれの作るインディペンデント映画よりどうして面白いのかって大事なところだと思うんです。

――松村さんも在籍していた映画美学校には「最強のインディペンデント映画作家を養成する」という理念があったかと思います。

松村遠い昔にありましたね。最近は誰も言わなくなりましたね(笑)。「自主」っていうことで自己正当化することほど気持ち悪いことはないですよね。自主っていうのは精神であるだけでなく条件でもあって、それは自分で選び取るものであるのと同時に、経済的な条件なんだということは前提に考えないといけないですよね。もちろん自主映画の精神を僕も持っているつもりだけれど、それは同時に、自分が決定していると思っていることに逆に規定されていることでもある。

吉川インディペンデントであることを自己弁護に使うなということですよね。それによって何かを免れるということはない。インディペンデントでやるということは、後ろ盾のない場所で、自分たちの頭で考えて判断し、そして最終的に自分たちが責任を取るということです。そもそも生きていくってそういうことなんじゃないかと思いますね。

――そういう意味でこの映画のひとつ挑戦的なところであり素晴らしいところは、プロの俳優をキャスティングされている点だと思うんですよね。

松村さっき言った「観客に対して開く」というのは、「混ぜる」ということだと思うんですよね。住み分けをするのは楽なんだけど、役者さんたちは普段ここまで少ない予算の映画にはあまり出られていないと思うんですね。そういうところを混在させていくことはすごく刺激的だし、何かにつながっていくんじゃないかと思います。もちろんそれで迷惑をおかけしたり、あるいはこちらが傷つくこともないわけではないんですけど、でもそういうことをやっていきたい。

渋谷ユーロスペースにて、10月24日(土)よりレイトショー!

『TOCHKA』(公式サイト

『TOCHKA』

2008年/93分/DV-CAM/カラー/スタンダード
監督・脚本:松村浩行
撮影:居原田眞美 録音・編集・整音:黄永昌
出演:藤田陽子、菅田俊、上野龍成、上野凌雅

松村浩行(まつむら・ひろゆき)

1974年北海道札幌市生まれ。初監督作品『よろこび』(99)が映画美学校製作短編集『Four Fresh! 99』のひとつとしてユーロスペースにてレイトショー公開された後、2000年フランス・エクサンプロヴァンス短編映画祭、2001年ドイツ・オーバーハウゼン国際短編映画祭(国際批評家連盟賞受賞)などに招待される。その後ブレヒトの教育劇に基づく実験作『YESMAN / NOMAN / MORE YESMAN』(02)を発表。2003年京都国際学生映画祭で準グランプリ受賞。また、高橋洋監督『ソドムの市』では精神科医「ドクトル松村」を演じている。

取材・構成=田中竜輔、宮一紀
写真=鈴木淳哉