おもしろかったら、なんでんよか!

−−過去これまでに地方開催されてきた爆音映画祭のプログラムですが、その地では未公開となっている作品の上映はもちろんのこと、各々の地に潜む特異性を模索しているような意図も伝わってきます。それこそまさに爆音の魅力のひとつであるわけですが、福岡爆音では具体的にどういった試みが挙げられるのでしょうか。

木下:基本的に最初は他の地方で上映された爆音のプログラムをにらみながら、それをもとに樋口さんから色々とアドバイスをもらうようにしています。その中でも第2回からは、この福岡爆音のためだけの上映枠を設けたことがひとつの魅力でしょうか。たとえば『ジャッキー・ブラウン』(1997、クエンティン・タランティーノ)は海外の権利元に交渉して実現した爆音上映です。このあと東京でも上映されることになりましたが、元々『ジャッキー・ブラウン』は僕も永島さんも大好きな作品で、二人で上映を熱望した作品なんです。ちなみに、今回やる『パルプ・フィクション』(1994)も、初年度から一番リクエストの多い福岡爆音限定の上映作品です。第1回は『デス・プルーフin グラインドハウス』(2007、クエンティン・タランティーノ)をクリスマス・イヴの夜に上映しました。せっかくのイヴなのにあんな映画に付き合って頂いて……(笑)。ただ結果的に場内は拍手喝采だったので、福岡は今後ともタランティーノ推しで行こうと心に決めました(笑)。

『パルプ・フィクション』
©Courtesy of Miramax / Park Circus

−−そのほかに、福岡爆音のプログラムを組む上で有力にしている情報源などはあるのでしょうか。

木下:今回はTSUTAYA天神駅前福岡ビル店にもいろいろとタイアップして頂いてますが、そこのバイヤー諸氏の意見は色々と参考にしました。日本のミュージシャンのライブ映画をかけることにしたのもその方のアドバイスです。あと、『ブリングリング』(2013、ソフィア・コッポラ)はレンタルが異常に高回転で、どうやら「天神女子」に絶大な人気を誇っているということをお聞きして取り入れました。

 正直なところ、福岡爆音のカラーをまだ完全に打ち出せてはいないと思っています。福岡の観客の独特なノリもまだ捉えきれてはいません。東京の爆音で動員出来た作品が福岡で入るとは限らないんです。去年の「爆音・大友克洋」が顕著な例。ただ、強いて言うなら映画にかぎらず福岡の人は「むずかしいこと言わんでも、おもしろかったらなんでんよか!」っていう精神の持ち主が多いということでしょうか。だから好奇心をそそられる新しいものにはすぐに飛びつくし、基本的にみんなで盛り上がれる作品にはよく来てくれる。つまり批評の文化ってあまり成立しにくいんですよ。だからきっと「NOBODY」も福岡ではあまり売れないのかもしれません(笑)。そうした福岡人のメンタリティにフィットしたと思った作品は、去年の『ブルース・ブラザーズ』(1980、ジョン・ランディス)。あとは『ソウル・パワー』(2008、ジェフリー・レヴィ=ヒント)のような黒っぽいものも、福岡では好まれるのかなと思っています。個人的には特集で「爆音ホウ・シャウシェン」とか「爆音ジャ・ジャンクー」、あと「爆音ブレッソン」とかやってみたいんですけどね。厳しそうだな(笑)。でも、野望は捨てずに頑張ります。

あらたな観客と環境を求めて

−−ズバリ「爆音映画祭 in 福岡 2014」のオススメ作品を教えてください。

「爆音映画祭 in 福岡×TSUTAYA」の様子

木下:やっぱり目玉は20日の『ストップ・メイキング・センス』(1985、ジョナサン・デミ)でしょう。これはあまりにも有名なトーキング・ヘッズのライブドキュメンタリーで、東京ではピーター・バラカンさんのイベントの中で上映時に樋口さんと久保田真琴さんが共同で爆音調整して非常に反響のあった作品。それにこの日は『ロッキー・ホラー・ショー』(1975、ジム・シャーマン)の上映に駆けつけてくださるファンクラブの方々が、一緒に場内を盛り上げてくれるそうです。これらふたつのプログラミングは、かなりイケイケだと思いますよ(笑)。

 21日の『シャイニング』(1980、スタンリー・キューブリック)もこのあいだ久しぶりに自宅で見直しましたが、爆音だとかなりスゴいんじゃないかと期待しています。22日の『キリング・ゾーイ』(1994、ロジャー・エイヴァリー)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2014、マーティン・スコセッシ)は爆音初上映作品ですし、「さよならバウス」でも上映された『ドラキュラ』(1992、フランシス=フォード・コッポラ)は、去年樋口さんが「コッポラの『ドラキュラ』とゴダールの『リア王』ができたら俺はもう爆音をやめる」と言っていたほど思い入れのある作品です。そして最終日の『トゥルー・ロマンス』(1993、トニー・スコット)は諸事情により金沢爆音で上映中止になった作品。福岡のみなさんをはじめ、遠方から来ていただける方々にはぜひ見ていただきたいです。

−−福岡爆音には、これまでにどういった客層の方々に多く来ていただいていると感じていらっしゃいますか。

木下:もちろん作品にもよりますけど、基本的に男性客や映画好きの人のほか、意外なことに福岡は若い女の子がよく来てくれるんです。これには樋口さんもビックリしていたし、相方の永島さんの上司も「西鉄ホールの他のイベントにも、このくらい若い女子たちに来てほしいのにな」とボヤいてました(笑)。

−−その一方で、これからどういった方々に福岡爆音へと足を運んでいただきたいと考えていらっしゃいますか。

木下:うちの事務所に勤める3、40代で映画好きを豪語するスタッフでさえも、ふだん見ている映画はほとんど新作の日本映画ばかりで、ガッカリするほど外国映画やクラシック映画を見ていません。もちろん、面白い日本映画は積極的にプログラミングしていきたいんですが、すべてがそう叶えられるものでもない。だから、「爆音」というキャッチーな響きに惹かれてくる若い層に、そういった映画の面白さや「深さ」をどんどん発見して欲しいです。それと、通常の上映会では見かけないような層の方々にも来てもらえるとうれしいですよね。第1回で『サウダーヂ』(2012、富田克也)を上映した時は、明らかに「親富(不)孝通り」と呼ばれる天神のゲットーから来たような観客がたくさん来てくれました。それで、終わったあとの客席にガムが吐き捨てられたりしているんですが、むしろその荒れっぷりに感動しました(笑)。

 映画をめぐる状況は、ここ数年で急激に変わってきているんだなと改めて痛感しています。だからこそ、爆音がそれまでのものの見方が180度変わってしまうような体験そのものになってくれれば良いなと思います。それに、大勢の他人と暗闇の中で体験を共有することに代えられるものはないと思うんですよね。そのためには、いまの画一的なシネコン的映画環境とは違うものを、この福岡爆音で提供し続けていきたい。そして惨憺たる福岡の映画状況を逆にきっかけとして、普段見ることの出来ない作品をきちんと見られる機会として残していける映画祭にしていきたい。「どうせ福岡では上映されないしなぁ」と状況を憂いているばかりではどうしようもありません。単純に自分が見たい映画を理想的な環境で上映したいという欲望もありますが、まずはそういう場を自分たちで創出していくことが、この福岡の街にとっても大事だろうと思っています。

取材・構成・写真:隈元博樹
写真提供:爆音映画祭in福岡 実行委員会

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