Facebookに投稿されたMさん情報により、「らー麺 山之助本店」。鶏白湯をベースにしたラーメンでこんなに美味いものを食べたのは初めてかもしれないと思うほどに美味。初日にプレスを受け取ったアズ七日町から目と鼻の先にあることにもびっくり。
『白塔の光』チャン・リュル。『柳川』に続き主人公のフードライターをシン・バイチンが演じているが、全編を通じて「影の生じないもの」として佇む白塔(原題は"Tha Shadowless Tower")をはじめ、北京と北戴河との往来によるロケーション、またそうした空間から浮き彫りとなってくる人物たちの複雑な関係性が絡み合うことで、チャン・リュルならではのマジックリアリズムがいつもとは異なる質感によって体現されている。また主人公が入院先の病院で元妻に再会し、おそらく彼女の現在のパートナーと思しき韓国語講師から、去り際に「サラン」と発せられる場面。韓国語では「愛」、ウイグル語では「馬鹿」を意味するそうだが、上映後のQ&Aで「まるで正反対のような言葉ではありますが、馬鹿にならなければ愛にはならないということですね」と受け答えする監督にシビれた。
上映後は映画祭同行中のHくん、Kくんと百目鬼温泉で疲れを癒す。駅から車で15分程度。露天風呂から山形市内の夜景を眺められるのもオススメ。その後一度ホテルに戻ったあと、立ち吞み「円」に入って一献。東北芸術工科大学の文化財保存修復学科に通われているバイトの方とお話していたところ、映画祭の3回券を買ったものの1回分を残してしまった模様。翌日の受賞作の上映スケジュールをお伝えすると、すごく喜んでくれた。
さよならパーティの参加から最終地点のほっとなる横丁まで、この夜も多いに長かった。だけど今回の滞在でさまざまな再会と出会い(もちろんそれはすべてが幸福な瞬間だと呼べるわけではないけれど)を果たせたことに大きな感謝。「今まさにこの瞬間」を凝縮したくなるような山形だった。山梨から車で自走してくれたKくん、滞在中に刺激的な議論を展開してくれたHくんにも謝々。(隈元博樹)。前々々日へ
『雪の詩』波多野勝彦。厚く降り積もった雪が忘却を許すが、しかし忘却に覆い尽くされた中では生きられない。大笑いする子供がそっくり返りすぎて、そのまますってんころりんとひっくり返るシーンがあった。雪がクッションとなる世界では微笑ましい一コマだが、雪とともに生きることの困難さは、前日までの野田真吉特集でも繰り返し語られていたことを思い出した者は多かったのではないか。
閉会式。受賞結果はこちら。映画祭の受賞結果について云々する気はないし、特にコンペの選考に関わるようになってからは、この作品に取って欲しかったなどということも減っている。それよりも一本でも多くより良い作品を紹介し、それがしかるべき人に届くためにどうしたらいいかを考え続けていかねばならない。ただそれでも、ジャン・モンチーの受賞は彼女と出会ったことのあるあらゆる人にとって喜びだ、とだけ言いたい。
閉会パーティ、そしてその後のカラオケ大会と、受賞した者もしない者も監督も製作者も映画祭スタッフも関係なく入り混じる楽しい時間。この時間にはこの映画祭の核となる精神が流れている。
翌日の新聞に、ロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『何も知らない夜』パヤル・カパーリヤー監督のコメントが載っていた。「歴史を消去し、書き換えようとする勢力が存在する今日の政治状況において、私たちが経験して目の当たりにした時間を記憶にとどめておきたかった」。忘却が、争いが、加害が、いまも我々の世界を覆い尽くしていこうとしている。この映画祭の存在だけでそれを止めることなどはできない。しかし私たちは、2年後またここに胸を張って戻って来れるようにこれからを生きるだろう。そしていつの日かあなたたちも私たちに加わるのを望んでいる。(結城秀勇)
(追記)あ、ジョン・レノンでまとめた気になってたけど、今回した取材をまとめるまで映画祭は終わりじゃなかった......。ダミアン・マニヴェル、イレーネ・M・ボレゴ、そしてジャン・モンチーのインタビューが来月公式サイトにアップ予定です。山形の穏やかな空気のおかげか、なかなか充実した記事になるんじゃないかと。お楽しみに。前日へ