——映画の冒頭に、湖のボート乗り場で渋川さんと山田さんのふたりが救助されるシーンがあります。そこで「ボートがひっくり返ったんです」という経緯を語っている渋川さんの台詞のトーンがすごく印象的でした。文学的な口調というのか、しっかりと型がつくられた口調で。

越川:あの台詞をどう言うかというところは、一番最初にふたりで話したところだったよね。台詞の言い方をもっと崩しても良かったんだけど、あまり崩さないようにしてやってもらいました。

渋川:あそこ、台詞を間違えてるんだよなあ。つい二回同じことを言っちゃってる。

越川:あのシーンだけじゃないんですが、撮っているときにあまり台本見てない(笑)。自分と佐藤有記さんで書いた台詞だけど、目の前にある役者の芝居を台本に従わせることに興味がないので、台本をその辺に置きっぱなしにしてました。それで「台本がない!」って言っていると、スタッフが拾ってきてくれる(笑)。「台本通り、一字一句言ってください」という従わせ方を僕はしないし、台本を画にしていくことにもそもそも興味がない。最後にKEEくんがラブホテルで「夫」(川口覚)の幽霊を探しまわるシーンは、台本にはなかった展開で、現場で芝居をつくっていく流れでそうなったんですね。そういう台本になかった箇所がそこかしこにあります。役者は台詞を身体化して演技をしてくれるので、僕は台本よりもそちらを撮りたいと思っています。KEEくんたちのほうをどう撮るかと考えていると、台本はあまり見なくなる……。

©2015 ユマニテ

——撮影は5日間とかなり短いですよね。しかもスーパー16mmのフィルムで撮影しています。渋川さんはこの映画をフィルムで撮ることになったと聞いたとき、とても喜んでいたとお聞きしたのですが。

渋川:それは嬉しいですよ。これも言葉にするのが難しいんですけど、感覚的にやっぱり嬉しかったです。やっていることはフィルムもデジタルも変わらないんですけどね。

——撮影できるフィルムに限りがあるので、現場のしまりが違ってきたり?

渋川:たぶん、そういうことも見えない部分であったとは思いますけど、演っている側としてはそこまで意識はしなかったな。言葉の響きなのかわかんないけど、「おお、フィルムか」という嬉しさがあって、それでちょっと気分が盛り上がったかもしれない。演技としてはフィルムだからこうやる、デジタルだからこうやる、という違いはあまりなかったです。

——フィルムで撮った理由は何だったんでしょう?

越川:企画の段階ではこの映画をフィルムで撮るとは決まっていなくて、撮影の戸田が「フィルムで撮りたい」と言ったからですね(笑)。撮影監督のアイデアです。助監督をやっていたときはもちろんフィルムの現場だったし、モニターもない時代でした。とはいえ僕はフィルム至上主義者というわけではないんですよ。映画の育ちとしてはフィルムなわけですが、デジタルになったときはそれで積極的に何ができるのか考えて、デジタルでしかできないことって何だろうと思いながらやってきたところがあります。映画の撮影がデジタル主流になったとき、それをどう映画と呼ぶかという問題にはもちろん突き当たるわけだけど、キャメラマンからこの映画をフィルムでやりたいと言われたときに、良いんじゃないかと思いました。これも何と言えばいいのか難しいんですが、この前『ドライブイン蒲生』(2014)でたむらまさきさんの監督補をやったときに気づいたんですけど、結局のところ、俺は80年代の後半くらいの映画の感触が好きなんだなと。雰囲気とか、質感がやっぱりそういう感触の映画になってしまう……。

渋川:ああ、やっぱりそうなっちゃうんですね。この『アレノ』でも、空き缶を積み上げるところの感じとか、ラブホテルの雰囲気とか、越川さんっぽいなあと思いました(笑)。越川さんこういうの好きだよなあと感じがすごいあって、俺も何か懐かしい感じだなと思いながらやりました。

越川:KEEくんが空き缶を頭に乗せたりするシーンは、すごく苦々しげに「これはワンカットですね」と戸田から言われました(笑)。でも、そういう雰囲気がやっぱり好きなんですよ。KEEくんが雨の中を走ってきて、向こうには古めかしいゲームセンターが見えたりする感じが。どの映画のどの場面とかを意識していたというわけではないんだけど、感触としてね。

渋川:その感じが、フィルムだとさらに増してくるということはありましたよね。

越川:若い頃、わけもわからずに見ていた映画の雰囲気になっちゃうと言うのか。撮っているときはそんなこと全然考えなかったけど、澤井さんの映画はもちろん、相米慎二監督や、根岸吉太郎監督の処女作のロマンポルノ『オリオンの殺意より 情事の方程式』が好きなのですが、どうしても80年代後半のあの時代の映画の感触になってしまう。現場でも「これ、いまの映画じゃないよな」とKEEくんと話しながらやっていました。

——ひとつの撮影でテイクはどれくらい重ねたんですか?

渋川:リハーサルはこうやってみようかと熱心に言ってくれたりはしますけど、本番はほぼ一発でやってましたよね。

越川:基本的に一回しかやらないという話でやっていました。もちろん映画のバジェットの問題もありますが、基本的にはワンテイクでいきたい。撮影前にがちがちに芝居を振り付けたり画面を決めていくということは基本的にはないので、テストでだいたいの流れが決まったら、一回で撮って、よほどの技術的な心配がなければそれでOKを出すという感じでした。

——撮影で難しかったところはどういったところだったと思いますか?

渋川:やっぱり濡れ場ですかね。真歩ちゃんをどういうふうに見せるとか、そういう身体の位置取りのようなことも考えながらやっていました。あまり濡れ場はやったことないんで、川瀬陽太さんに前張りは何がいいかとか、どうやったら相手の顔がちゃんと見えるかといった技術的なところも聞いたりして。

越川:フィルム・チェンジのタイミングを気にしていました。昔のスタジオの監督だったら、どこでフィルム・チェンジになるか読んで芝居をつくっていったわけじゃないですか。でも僕たちはそれに慣れていないから、役者さんたちに続けて芝居をしてもらいたいんだけど、途中で「フィルム・チェンジ」ってことになってしまう。フィルムを交換しているあいだに、4、5分であっても役者の演技の流れが切れてしまうから、撮影も一回そこで切って、撮り方を変えるということはありました。昔の人はそういうタイミングをちゃんとわかってやっていましたけど、いまは僕も含めてデジタルでの映画の撮影に慣れてしまっているので。

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