© 2025『旅と日々』製作委員会

 私はこの文章のはじめに、この映画に対して「独特な存在の仕方をしている」という言い方をした。映画内映画がまずあり、それから本編的な映画がはじまるという本作の構造は、変わっていると言えば変わっている。こんな映画はたくさんあるわけではない。それもあって私は独特という言葉を使った。
 ただ、本当のところでは、私は独特という言葉はこの映画にはふさわしくないと思っている。私が本当に心を動かされたのはこの映画の構造に対してというよりも、二つの映画が並んでいるその並び方なのである。この映画の構造に対しては独特と言ってもいいかもしれないが、二つの映画が並んでいるその並び方をあらわす言葉としては、独特という言葉は適切ではない。なぜなら、独特という言葉には、何か他と比較することによって意味や価値を見出そうとする態度、他とはちがうことに意味や価値を見出そうとする態度が含まれていると思われるからだ。でも、この『旅と日々』という映画において実現されている、二つの映画の並び方が素晴らしいのは、そういうものが他にないからではなくて、むしろその逆に「何かが並んで存在しているっていうのはまさにこういうことなのだ」と思わせるようなもの、さりげなくて当たり前のものだからだ。その並び方、存在の仕方からはやさしささえ感じられる。

金川晋吾(かながわ・しんご)

1981年、京都府生まれ。写真家。主な著作に『father』(青幻舎、2016年)、『長い間』(ナナルイ、2023年)、『いなくなっていない父』(晶文社、2023年)、『明るくていい部屋』(ふげん社、2024年)、『祈り/長崎』(書肆九十九、2024年)。近年の主な展覧会に「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、2022年)、「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」(東京都写真美術館、2024年)など。国立国際美術館で開催中の展覧会「プラカードのために」に参加。
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