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March 16, 2005
『マリー・ボナパルト』ブノワ・ジャコ須藤健太郎
[ cinema]
マリー・ボナパルトは、その名から明らかなように、ボナパルト家の実子孫(かのナポレオン・ボナパルトの実弟ルシアン・ボナパルトの曾孫女)であり、また帝政ロシア最後の皇帝だったニコライ2世の従兄弟のジョージ公と結婚した公妃だった。幼少の頃より知識欲が旺盛だった彼女は、精神分析学に興味を持ち、フロイトへと接近する。マリー・ボナパルトと言えば、フロイトの仏訳者としても有名だ。映画は、彼女が性不感症の悩みをもってフロイトのもとを訪れるところから始まる。『マリー・ボナパルト』は、彼女がフロイトと過ごした日々を描く。
ふたりの関係は、その出会いから別れまで単一的ではない。はじめは医者と患者、または著者と訳者、師匠と弟子、そして恋人といったように、ふたりの関係は複数の層を持ち、『マリー・ボナパルト』はそれらすべてを漏らすことなくフレーム内に収める。だから、恋愛というのがその人のすべてを受け入れ、その人のために自分のすべてを投げ出すことだとすれば、『マリー・ボナパルト』は一種のラヴストーリーだ。80歳の男性と50歳の女性のラヴストーリー。
そして、『マリー・ボナパルト』はそんなふたりの関係を歴史という時間の中に置く。もちろん史実を扱う以上、その時代背景を無視することはできない。しかし『マリー・ボナパルト』は、それを忠実に再現するよりも、当時の記録映像を挿入することを選択する。精神分析を受けるマリーの回想シーンが挿入されるのと同じように、それは挿入されているが、それらの記録映像は、ふたりの過ごした日々が、第一次世界大戦が終わり、ナチスが台頭して政権を掌握する1920年代から30年代にかけてであったことを明示するのみでなく、フロイトの著作が禁書となって焚書され、彼がウィーンからロンドンへと亡命を余儀なくされる外圧的な理由の根拠としてもある。また、マリーの回想が精神分析中に構成される再現可能なものであるのに対し、それらの記録映像は、それと同じように挿入されることでなおさら変更不可能な、再現することのできないものとして位置づけられており、ふたりはそんな歴史の渦中に置かれている。ふたりは再現不可能な時間の中を生きているのだ。
マリーとフロイトのふたりを描く『マリー・ボナパルト』にあって、記録映像の挿入はほとんど必然的である。なぜなら、ふたりの物語はそれらに規定されているからだ。個人の思惑を超えたもっと大きな時間の流れが、外圧的に個人の行動を規定した時代。後半、それらの挿入される頻度がますます高くなるのと軌を一に、ふたりの行動は自由を制限されていく。
人は時間から、歴史から逃れることはできない。映画もまた同様だ。ブノワ・ジャコの確信は強い。与えられた自由と戯れる映画の多い昨今において、彼の試みはだからとても貴重なものとして映る。彼はふざけることを知らない。いたって真面目なのだ。
投稿者 nobodymag : March 16, 2005 10:31 AM
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