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March 29, 2005
『サラ、いつわりの祈り』アーシア・アルジェント須藤健太郎
[ cinema]
本作を見て何よりも驚いたのは、エンドクレジットもひと通り流れ終えた後、「for Jean-Yves Escoffier」と出たことだった。ジャン=イヴ・エスコフィエのことは、まったく考えていなかった。驚いたのは、だからというのもあるが、実は、私がカメラマンの仕事に意識的になったのは、彼の存在が大きかった。だから彼の名前に極度に反応してしまったのだと思う。
ジャン=イヴ・エスコフィエのことは、やはりレオス・カラックスとともに人々に記憶されているだろう。私は『ボーイ・ミーツ・ガール』をある種の熱狂とともに見たが、それはカラックスの天才を明示していたのみならず、カメラマンであるエスコフィエの仕事が明瞭に反映された映画だった。モノクロームのそのあまりに美しい映像を見たとき、誰がそれを撮っているのかとても気になった。それがエスコフィエだった。以後『ポンヌフの恋人』までカラックスの映画の撮影を担当し、その後、彼はアメリカに渡った。たまに、アメリカ映画を見ていて彼のクレジットを見つけたりした。
『サラ、いつわりの祈り』は固有名に溢れた作品だ。アーシア・アルジェント自ら演じる母親が次々と男を変えていくのにあわせ、息子のジェレマイアはさまざまな人々に出会っていく。そんな人との出会いを主軸にした物語を語る本作は、また別の意味で人との出会いを抜きに語ることができない。多くの固有名がこの映画にまとわりついている。マドンナ、トム・ウェイツ、コートニー・ラヴ、ナン・ゴールディン、ガス・ヴァン・サント、リヴ・タイラーなどなど各界のセレブが賞賛の声を寄せる原作小説。13歳にしてすでにヘロイン中毒の男娼だったというJ・T・リロイの自伝的な小説は、その内容だけでなく、そのような周囲の賞賛の声が話題性を増す要因でもあったろう。監督、脚本、主演をこなすアーシア・アルジェントにだけでなく、原作小説に共感した多くの人が本作に協力しており、ソニックユースやランシドのティム・アームストロングの楽曲提供、ウィノナ・ライダー、マリリン・マンソンのカメオ出演など、食事もままならないその日暮らしを描くその物語とは逆に、ある意味ひたすら豪華なのだ。
この映画とエスコフィエとの間にどんな関係があるのか? 本作の周囲にある固有名と比べると、カラックスと密接に結びついてしまう彼の名前は、とてもシネフィル的に映る。もちろん本作の撮影を担当しているのでもない。撮影は、ガス・ヴァン・サントやラリー・クラークと組んできたエリック・エドワーズだ。
いまエスコフィエのキャリアを振り返ると、『ガンモ』でハーモニー・コリンと、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でガス・ヴァン・サントと組んでいたことが強く思い出される。アメリカに渡り、映画だけでなく、CMの仕事などもこなしながら、シネマの嫡子とも言うべきカラックスの後は、アメリカのインディーズの、言わばシネマの私生児たちの作品の実現にひと役買っていたのかもしれない。技術に詳しい彼は、監督の我儘をかなえることのできる撮影技師だった。
ロバート・ベントンは、彼の死に際して、「ネストール(・アルメンドロス)の次は、彼を失った」と落胆を隠さなかった。2003年4月1日に、エスコフィエは死んだ。もうすぐ2年になる。
投稿者 nobodymag : March 29, 2005 01:44 AM
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