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February 16, 2006

トリノ・オリンピック観戦記──1
梅本洋一

[ book , sports ]

 ソルトレイクのときも思ったが時差がある国に住んでいると、オリンピックをライヴで見るのはつらい。しかも、ぼく自身、ソルトレイクのときよりも早起きになっている。ユーロ2004のときのように、こちら側で時差を調整すればいいのかもしれないが、フットボールというゲームの時間が決まっているスポーツと異なり、オリンピックは各種の競技をずっと中継している。ポイントを押さえねばTV観戦も難しい。

 だからザッピングずることになるのだが、民放にチャンネルを合わせると、ハマちゃんとか中居くんが出ていてウザイ。ぼくはスポーツが好きなのであって、それにヴァラエティ的な味付けがされていると、ルールは知っているぜ、斜面は急だぜ、夜は寒いぜ、と言いたくなる。ぼくらは、トリノの前から、それぞれの種目のW杯を追って、ある程度の予想を立てて、トリノに臨んでいる。NHKでもまずルールの解説。ルールを知っている人もいるんだよ!

 まず注目の女子モーグル。
 上村5位。里谷15位。
 上村のメダルが期待されていたようだ。でも今シーズンのW杯で一度も勝っていない。長野7位、ソルトレイク6位。そしてトリノ5位。努力家の上村らしい成績だ。まるで牛歩。だが、彼女はストラテジーを完全に失敗している。3Gで臨んだエア、だが、愛子ちゃんに欠けているのはエアではなく、ターンだった。TVでは夏にプールにジャンプ台を作って3Gに取り組む愛子ちゃんを何度も見た。だが、3Gはできてもターンにスムーズさがなく、速度もやや遅くてはせっかくの3Gの得点も他の減点を補うだけになる。
 そして里谷。ひそかにぼくは里谷を応援していた。六本木の事件で世界選手権の代表を外されたが、ここ一番ではいつも力を発揮してきたからだ。だが、その里谷もエアの呪縛に捉えられてしまった。ターンなら一番だった彼女がエアに集中するあまり、ターンの速度をなくしてしまったのだ。第2エアでの着地を気にしすぎ、減速を余儀なくされてしまう。
 その点、シルヴァー・メダリストのカリ・トローは本当にすごい。余裕で予選を突破し、本番では鬼気迫るターンとここ一番のエア。タイムでも3番に入っている。彼女のターンを見ているとスムーズに早い。技術の高い証拠だ。

 ノーマルヒル個人。
 原田の200グラム体重オーバーによる失格(自己管理もできない選手を連れて行くのはまちがいだ)が話題になったが、伊藤大貴の18位が最高という順位は、現在のジャンプ陣の状況を明瞭に示している。葛西、岡部以外2本目に進めない状況が今年のW杯だった。彼らにしても岡部がようやく(日本開催以外の)W杯で一度だけ表彰台に届いた程度。3人とも距離にして5メートル足りないのは実力がないということ。コーチ陣を頻繁に代え、一定の指針を示し得なかったジャンプ強化陣の失態だ。ハウタマキ、ヨケルソイ、そしてアホネンなど、原田や船木の全盛時に若手だった選手たちは常に優勝争いに加わっている。ルールの改正に追いつかない日本チームという言い方がされてきたが、それ以上に、強化方針のブレが選手の迷いに繋がっていると思う。