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March 20, 2006

スキーW杯 スラローム最終戦
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 トリノ後の志賀高原で2位、5位というリヴェンジを果たし、アキラもいよいよ最終戦。スウェーデンのオーレだ。「腑抜けた野郎だと思われたくなかった」「曇りでも初めて下が見えた」いずれも志賀高原でのアキラの発言だ。確かに「金以外考えていない」はずだったが、2本目の片反。「腑抜けた野郎」だと誰でもが思ったろうし、誰でもには、アキラ本人も含まれている。自分自身が「腑抜け」に思われるとき、人は発憤せざるを得ない。「下が見えないのでやる気をなくした」とのアキラの発言は正しくなく、実は、乱視なので、曇天では雪面の凹凸が見えにくい、が正解。志賀高原は、リヴェンジの場だったわけだ。特に第1戦の2本目は鬼気迫る滑りだった。滑り全体からオーラがわき出ていた。スキーウェアを着ているし、ヘルメットとゴーグルをしているのに、滑りからオーラが見えるのは本当に不思議だ。昔からレースを見続けているがコンマ1秒の差がスキーに見えるのだ。
 そして最終戦のオーレには上位25人しか出場できない。アキラと賢太郎が出場。日本チームとしては快挙だ。なにせ1952年のコルチナダンオエッツォの猪谷千春の銀メダル──ちなみにこのときの金はトニー・ザイラーだった──以来アルペンのメダリストは皆無で、ここ30年近く、第1シード(上位15人)を滑ったのは、海和、岡部、木村というスラローマーがいたが、それぞれ時代を異にしていて、一度にふたりが第1シードを占めたことは有史以来初めてのことだ。ぼくがスキーを熱心にやっていた30年前はトップとの差が5秒あって当たり前の時代だった。それがコンマ差でラップを争う。これはすごいことだ。だから最終戦に残った面々は全員にチャンスがあるし、どの選手も知っている人ばかり。ぼくの贔屓のカレ・パランダーが靱帯を伸ばして欠場しているが、他の全員は参加。1本目。まず大本命のベンヤミン・ライヒがコースアウト! だが、ここしばらく不調だったジョルジョ・ロッカが機械のように見事な──スキー教本に出しても良いような滑りでラップ。アキラは1.62の差。これは絶望的だ。気合いは入っていたが、途中の緩斜面で失速。バランスの幅が少ないアキラの欠点がここでも出る。そして2本目。途中までラップ。だが、内足に一瞬加重されてまたバランスを崩す。だが、今シーズンのアキラはゴールする。結果9位。
 今シーズンのスラローム・ランキングは最終的に7位になった。これは大きい。第1シードの15人の中の7人をトップ7と呼ぶ。ここに入れることは常に好条件のバーンを滑ることができることを意味する。50番台のゼッケンを胸にようやく2本目に残り、2本目のラップで、2位に滑り込んだヴェンゲンが3年前。そして今、彼は世界のトップ7に入った。「表彰台に乗らなければ注目されない」「表彰台に乗り続けたい、そして来シーズンはぜったい1番をとりたい。さもないと俺は口だけの野郎になってしまう」。レース直後のインタヴューのアキラの言葉。来シーズンもぼくは応援するよ。