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June 3, 2008

W杯アジア予選 日本対オマーン 3-0
梅本洋一

[ book , sports ]

 最近のフットボールファンは、協会会長というと川淵三郎を思い出すだろう。代表監督というと岡田武史、あるいはイビチャ・オシム、あるいはジーコ。だが、50歳を越えたぼくらにとっては、そのどちらも長沼健だ。最初に買ったサッカー本も長沼健のものだった。もう本棚に残っていないが、『チームプレー』という本だった。メキシコ五輪直後に出版されたものだったと思う。銅メダルを得た代表チームの戦術や、クラマー・コーチからの影響や岡野俊一郎の役割、そして、釜本、杉山などについて書かれた本だったように思う。うる覚えだが。その長沼健が亡くなった。ネルシーニョからは「腐ったミカン」呼ばわりされ、加茂でW杯に行けなかったら辞任すると言っておいて辞任しなかったことや、カザフスタンで加茂を解任し岡田武史を監督にすると発表したときのことは昨日のことのように覚えているが、もっと記憶に残っているのは、岡野俊一郎と一緒にジャージ姿でベンチに座る代表監督としての姿だった。ぼくが見たゲームでは、メキシコ五輪予選での対韓国戦(@国立、3-3だったっけ?)と駒沢でやった対パルメイラス戦(2-1)が特に印象に残るゲームだった。
 そして長沼を精神的な父親と慕う岡田武史は、今日の「負けられないゲーム」でオマーンに完勝した。記録を確かめたわけではないが、少なくともオマーンに負けた記憶はないので勝って当然なのだが、今日のゲームを見る限り、こうしたゲームを続ければ代表のゲームに観客も戻ってくるのではないか。この日の代表は、かなりモダンはフットボールを実践していたからだ。負けられない予選にありがちが、結果オーライの退屈なゲームではなく、相手を崩して流れの中から得点を奪い、力の差を見せつけたのだから。俊輔、大輔、遠藤の中盤のトライアングルは、個人の能力の総和がセレクションチームにもそのまま当てはまることを雄弁に示している。ピルロさながらの遠藤、自在にポジションチェンジしながら、創造的な中盤を作り出す大輔と俊輔。やはり彼らはアジアレヴェルでは完全に他を圧倒するだろう。大輔がさらに視野を大きくし長くて速いパスを送れるようになれば、スティーヴン・ジェラードにも匹敵するだろう。
 完勝したゲームだからこそ、問題点を指摘すべきだろう。まず両サイドバック。長友と駒野では攻守ともにもの足りない。アーセナルを見過ぎているせいだろうか。クリッシとサニャがぐんぐん上がって、中盤の両翼を常に追い越していくスタイルを見てしまうと、足の速さも、クロスの速度もぜんぜんダメだ。そして、ストライカー。これももの足りない。玉田と大久保も力を出したろうが、小柄なストライカーを2枚置くだけでは、点の確率が低い。高原の復帰はいつになるのか? そして、もっと強い相手が来たとき、遠藤、長谷部の両セントラルでは、ディフェンス力に問題が残る。もちろん俊輔も大輔もヨーロッパでもまれると、日本でやっていたときよりも数倍ディフェンス力が上がってはいるが。だが、この代表チームにもようやく待ち望んだ形が見えてきたことだけは明らかだ。