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June 28, 2004

『まだ楽園』佐向大

[ cinema , cinema ]

どこまでも、どこまでも移動しても同じ風景がひろがっている。どれだけ車を走らせても、目に入ってくるのは似たような街並みと同じような建物ばかりだ。またコンビニか……、また駐車場だ……。いや、そんなことはもう誰も気にかけていない。ため息をついていたらきりがない。特徴も違いもないだだっぴろい広がりの遠くに、巨大な都市群がかすんでいるようにも見えるが、そこに至るとさらに絶望的な風景がひろがっているのかもしれない。それもどうということはない。私たちはただ車を走らせつづけるだけだ。
やけに気になるのは、どこに車を走らせてもどこかで見たような同じような連中を見かけてしまうことだ。たとえばあの自転車の2人組。彼らのほうもせわしなく動きまわっていて、車を先回りしているのだろうか。でも自転車で?では、知らぬまに私たちのほうが同じ道路をぐるぐると回っているのだろうか?水族館の水槽のなかを必死で泳ぐ回遊魚のように、何度も同じ人たちの前を通り過ぎる、その繰り返しか。それもどうやらあやしいものだが、いずれにせよ走る車には何ごとも起こるまい。それこそ必死の全速力が、車じたいを移動の中に溶かし込んだとしても、車が回路の外に出るわけではない。猛スピードでちびくろさんぼを追いかけた虎はバターになったが、できたバターは奇妙なドーナツ型だった。前もなく後ろもなく、ただ疲労のためにあるかのようなこの移動。ひたすらつづくそれは、一カ所への拘泥とも旋回とも呼ばれかねない。
だが、とりあえず風景に何も期待しないこと。この<救いなき発見>とともにはじめること。目的地も持たず、ただ車輪と地面が接するかぎり移動しつづけることができる。そしてそのあいだだけは何度でも言うことができる──「まだ楽園」。それにもかかわらず、それでもなお──。

衣笠真二郎