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August 29, 2004

『Baby Blue』メアリー・ルー・ロード

[ music , sports ]

baby_blue.jpg1日8時間の路上演奏を日課とするらしいメアリー・ルー・ロードは、その活動の形態やカレッジ・ラジオでのDJ経験があるという経歴からか、他人の曲をカヴァーを非常に積極的に行なう。彼女のファンサイトには100曲以上のカヴァーのレパートリーがずらっと載っている。メジャー・デビュー・アルバムである『got no shadow』から6年ぶりとなるこのセカンド・フルアルバムの表題曲もバッドフィンガーのカヴァーだし、他にピンク・フロイドの「fearless」や、ほとんど共作者といってもいいようなニック・サロマンのバンドであるベーヴィス・フロンドのカヴァーもあり、実質今回彼女が作曲に関わっている楽曲は全14曲中3曲だけである。ちなみに日本盤のボーナストラックには、彼女が2001年に発表した当時久しぶりの新録音源だった3曲入りシングル「speeding motorcycle」がそのまま入っており、こちらの表題曲もまたダニエル・ジョンストンのカヴァーである。
彼女はかつて、エリオット・スミスとの対談においてこんなことを尋ねていた。
「あなたが曲作りのことをしゃべってるのを聞くといつも、「僕が書いた曲」(the songs I wrote)って言わないわよね。だいたい「僕がでっち上げた曲」(the songs I made up)って言うじゃない。どうしてかしら?」。
それに答えてエリオット・スミスは、「曲を書く」っていうほど腰を据えてひねり出すという感じでもないし、ぱっとひらめくようなものだからそう言ったほうがしっくりくるのだというようなことを言っていたが、実はこの「the songs I wrote」と「the songs I made up」との違いがメアリー・ルー・ロードの音楽を成り立たせているのだという気がする。ただしこの場合のmake upは、エリオットの答えとは反対に、writeよりも持続を要する。
ブックレットにも書いてあったが、メアリー・ルーは自分の作業をA&Rの仕事になぞらえている。曲を見つけてくる、人を連れてくる。その曲や人が上手くいくように努力する。それらはもといた場所から引き離されて違う何かと出会う。そしてそれらがもといた場所に帰っていく、あるいは違うどこかへ行くのを見届ける。そんなふうにして彼女の「the songs I made up」が出来上がる。
地下鉄の駅で通勤する人々に歌を聞かせる彼女の日常もきっとそうなんじゃないだろうか。人がやってきて、立ち止まり、立ち去っていくのを前に、彼女は毎日歌い続ける。

結城秀勇