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May 19, 2005

NBAプレーオフ Conference Semi-Final スーパーソニックス対スパーズ 90-103
結城秀勇

[ book , sports ]

互いにホームで2勝ずつあげ、スパーズ本拠地のサンアントニオに戻っての1戦。試合は開始直後ランニングゲームの様相を見せる。これが文字通りの意味であるならば、フロントコート陣ではスパーズにどうしても劣るソニックスに有利に働くのだろうが、彼らのシュートの確率は悪い。それというのも速い試合展開という状況は、コート上の10人の中のたったふたり、トニー・パーカーとマヌ・ジノビリのスパーズバックコート陣によって作られているからだ。その状況をソニックスが利用するための決定的な鍵であるレイ・アレンは、ボーエンの文字通り張り付くようなディフェンスで第1Qの間沈黙させられる。リバウンドでは劣るシューティングチームであるソニックスがその持ち味を発揮するためには、ボールを回しシュートの確率を上げるしかないのだが、その核となるレイ・アレンは封殺され、ちょっともたつけばスパーズの攻撃的バックコート陣の餌食となりターンオーバー、リズムの合わないままシュートを打ってリバウンドを取られるという展開が続く。
 その展開を断ち切ったのが第2Qのレイ・アレンの働きであり、それに対するスパーズの的確な対処を見せた第3Qの初めの5分までがこの試合のハイライトだろう。それまでなかなかボールにからんでいなかったアレンが左45度の角度でボールを手にする。そこにリドナーがスクリーンに行くが、ボーエンはそれをかわしつつアレンにぴったりつく。さらにそこにジェームスやフォートソンがスクリーンをかけて、アレンは内に切り込んで台形の頂点でジャンプシュート、あるいは決定的な位置にいる人間に捌く。彼のきれいなジャンプのフォームもあってか、その一連のやりとりが最後の選択が違うにせよ極めて正確に反復されるような印象を受ける時間帯が続く。気付けば15点あった点差は消えている。
 だが、ハーフタイムを挟んだ後、スパーズは勝負を一気に決める。それは第一にゾーンディフェンスによって第2Qのアレンの反復運動を防ぎ、また彼にボールをさわらせないという徹底した意識によるものだが、それよりもなによりも見ているものの目にはその5分間たったひとりの男の動きしか映らなかったと言っても過言ではないだろう。3試合ぶりに先発に復帰したジノビリは、その過剰な運動量でソニックスを翻弄する。アレンの最良の動きが、何度行っても忠実に反復しているかのような錯覚を与えるとしたら、ジノビリのプレーはいつどの瞬間をとっても、傾いていたり重心がブレているように見える。それでいてボディバランスは驚くほど良く、まったくラフではない。体が床に平行になるほど傾けて切り返し、あらゆるルーズボールを追う。ブレているように見える高速のフェイントからのペネトレイトは不思議な軌道を描いて、あたかも彼の通る道をディフェンスが空けているかのようだ。少しでも離せば3Pがものの見事に決まる。5分間でスパーズは20点をあげ(おそらくそのすべてに彼がからんでいた)、その間ソニックスはたった3点に留まる。勝負は見えた。
 同じチームとどちらかが4勝するまで戦い続けるプレーオフの形式では当然ディフェンスの強いチーム が勝ち残ってくる。知り尽くした相手の良い部分を的確に最速でつぶすというのは鉄則である。それはこのゲームにももちろん当てはまるのだが、その部分を完璧にこなした上でこれだけ過剰なパフォーマンスを展開されると見るほうとしてはとても楽しい。