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October 3, 2005

プレミアリーグ リヴァプール対チェルシー 1-4
小峰健二

[ cinema , sports ]

 CL予選に引き続き、今週2度目の対戦であるリヴァプール対チェルシー。この対戦には最近遺恨めいたものが生まれつつある。去年のCL準決勝におけるゴール判定や数日前の審判のミスジャッジなどが原因らしく、試合前から舌戦が繰り広げられていた。アンフィールドのファンも興奮している。むろん、ミッドウィークの「静かな闘争」(梅本洋一)の興奮を、極東にいる私たちもまた引きずっている。

 試合は前半20分まで、素晴らしいとしか言いようのないほどコンパクトな展開。ジェラードが相手の隙を探しボールを捌く。右に左にとポジションチェンジを繰り返し、正確で速いパスを放りこむ。しかし、それを仕事人マケレレが潰し、出しどころを消していく。逆にランパードはマケレレ、エッシェンと三角形を崩すことなくじわりじわりとポジションを上げていく。20分間続く緊張は3日前のそれに等しく、現代フットボールの極上な部分を堪能させてくれた。しかし、リヴァプールのバックが少しずつ後退するとスナイパーのごときドロクバはそれを逃さない。次第に間のびしだしたレッズのエリアにチェルシーのパスが通り始める。リヴァプールの弱点はバックスで、モウリーニョはそこが穴だとすでに知っているようだ(事実、チェルシーの全得点がバックスの裏を狙ったところから生まれた)。バックの裏に通ったパスをトラオレがミスし、PK献上。これをランパードが決める。いささか興奮しているのかランパードはレッズサポーターを挑発する。このしぐさがこの試合のボルテージを引き上げる。レッズも負けずにセットプレーから同点に追いつき、試合が面白みを増すかに見えた。
 だが……。またすぐにドロクバがサイドバックを美しいテクニックでかわしダフが加点する。前半を終えて、チェルシーのリード。リヴァプールはリーグ戦を考えた場合、引き分けでは満足できない。チェルシーに大きく勝ち点差をつけられていることを考えればこの試合には必ず勝たなければならなかったはずだ。しかし、ベニテスは動かない。クラウチはテリーとカルバリョに消されていたのだから、アタッカー陣に変化をもたらすべきだった。事実チェルシーに穴があるとしたらセンターではなくサイドだ。シセを投入するのはいつもギャンブルに変わりないが、この日のクラウチは何もできていなかった。とにかくベニテスの采配に疑問が残る。
 反対にモウリーニョの戦術は老獪そのもの。チェルシーが3点目を決めた後、動くべきはベニテスのほうであったにも関わらず、モウリーニョはすぐさまロッベンを投入し玉砕をはかった。その後4点目を加点して試合は決まる。モウリーニョの目は、勝ち越した時点で、次のCL予選での対戦に向いていた。つまり、完膚なきまで叩き潰すこと。そのことでレッズを心理的に追いつめようとしたのだ。
 モウリーニョの戦術、先を見越した作戦、そしてそれを理解して動くプレイヤー。今のチェルシーは憎いほど強い。しかも、そのフットボールは批判されているほどつまらなくない。むしろ、その辺のチームより展開があり、美しいとさえ言える。5分に一度は効果的な仕事をするマケレレひとり見ていても興奮できるだろう。ミッドウィークあれだけの試合をしたリヴァプールは後半からは見る影もなく、意気消沈していた。リーグはチェルシーの独走になりそうだ。