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February 23, 2006

『レッツ・ロック・アゲイン!』ディック・ルード
黒岩幹子

[ book , cinema ]

 ラモーンズのドキュメンタリー映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』のなかで、一番印象に残ったのは、インタヴュアーの質問に対して、ジョニー・ラモーンが沈黙するさまだった。そんなに長い時間ではないけれど、めちゃくちゃ重い沈黙。この人はこの沈黙でもって長い間ラモーンズを続けてきたのだと思わされた。
『レッツ・ロック・アゲイン!』でのジョー・ストラマーは常に声を出し続けている。ただ歌い、ただ喋るのではなく、よく歌い、よく喋る。どこでも歌うし、誰とでも喋る。これまた彼の音楽に通じることのような気がする。
 バンドにも音楽にも自ら強固な縛りを課し、黙々とそれを持続させたジョニー・ラモーン。好奇心を大切にし、さまざまな音楽を受け入れ、多くの言葉を語りかけ続けたジョー・ストラマー。「沈黙は金、雄弁は銀」なんて諺もあるけれど、雄弁が有効なときもある。どちらが勝るかじゃない。そしてジョニーとジョー、どちらもすごいに決まっている。
 そう、ジョー・ストラマーがすごいことなんて、この映画を見なくても当然わかっていることだ。それでも、この映画のジョー・ストラマーの歌と言葉はぜったい聞いたほうがいい。なぜならそれは耳に心に響くから。それが耳に響くのは爆音だからだが、心に響くのはそれが切実だから。ジョー・ストラマーの歌と言葉は常に切実で、彼はその切実さを体現できる数少ない歌手だ。
 この映画で聴けるのは、ほとんどメスカレロスの曲だけれど、クラッシュのジョー・ストラマーしか知らない人こそ見るべきだと思う。メスカレロスの曲の良さがよくわかる(特に終盤の「ミンストレル・ボーイ」〜「ジョニー・アップルシード」が泣ける)。パンクとはアティテュードであると思うならばなおさら見るべき。少なくともテレビのオリンピック選手の感動秘話報道よりははるかに有益だ。

吉祥寺バウスシアターにて3月3日までレイトロードショー