« previous | メイン | next »

February 27, 2006

『人生なんて怖くない』ノエミ・ルヴォヴスキ
須藤健太郎

[ cinema ]

 ノエミ・ルヴォヴスキはデプレシャン『キングス&クィーン』にマチュー・アマルリックの姉役で出演していた。99年に製作されたそんな彼女の3作目の長編である。『キングス&クィーン』繋がりで言えば、舞台女優を目指していたエマニュエル・ドゥヴォスがそもそも映画の世界に入ることになったのは、ノエミのFEMIS卒業制作に出たことがきっかけだったようだ。ドゥヴォスはこの作品でも謎の哲学の先生として登場し、見る者に強烈な印象を残す。また、このフィルムで中心となる4人の女の子のひとりエミリーは、『キングス&クィーン』に「中国女」として出ていた女の子だった。『キングス&クィーン』を見てからこの作品を見ると、彼女がかつてはこんなにぽっちゃりとしていたのか! と衝撃を受けるはずだ。
 それにしてもなんてはちゃめちゃで可笑しく、面白い映画なのだろう。主人公はステラ、エミリー、マリオン、イネスの4人だ。そして、4人の女の子たちが通過する出来事が、なんの連関もなく連続的に捉えられているだけだ。じっと見ているのがつらくなるような、飛び跳ねるほどウキウキさせる瞬間の連続だ。彼女たちの身を包む色とりどりのファッション、カラフルなコスチュームのように、この映画は騒々しく、楽しげであり、カラフルである。彼女たちにはそれぞれの家族があって、それぞれ好きな男の子がいて、それぞれの悩みや楽しみを個別に持ちながら、それを分かち合っている。
 この映画で描かれるいくつもの事件や出来事は、彼女たち以外の他人にとってはどうでもいいことばかりだ。しかし、彼女たちにとって、それは他には替えることのできない何より大切な瞬間なのだ。例えば、先生の悪意によって純情な恋心を踏みにじられただけで、それはもう世界の終わりなのだが、自分にとって大事だということがこの映画では驚くほどの強度でもって、実現されているのだ。彼女たちはヴァカンスを利用してイタリアへ行く。そして3年後。
 そして、いくつもの出来事を通過し、人は成長していく。この映画において「3年後」という字幕は、単なる時間の経過を示唆するものではない。いや、正確に言えば、物語を効率よく語るためでなく、単に時間の経過を示すのみに使われているのだ。本当に3年が経過したかのように、彼女たちは美しく成長しているのだ。成長するとは、きれいになることだ、とでもいうように、彼女たちは見違えるほどかわいくなっている。
 本特集のカタログによれば、この作品と対をなす2部作の第1部があるようである。2、3年前に撮られた作品だ。主人公は同じ。ノエミ・ルヴォヴスキは彼女たちの成長を追ったのだろうか。調べてみると、「カイエ・デュ・シネマ」が公開時にインタヴューをしている。製作状況のことなど知りたいことはたくさんある。読まなくては! いや、是非読みたいと思ったのだ。

「人生は小説=物語である」
〜アルノー・デプレシャンによる特別セレクション〜
東京日仏学院にて開催中