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January 22, 2007

アーセナル対マンチェスター・ユナイティド 2-1
梅本洋一

[ cinema , sports ]

ゲームを見ていると匂いというか、予感というか、そんな名状しがたいものを感じることがある。それを感じているのはぼくばかりではない。ピッチ全体をそうした予感が蔓延しているのだ。
53分。エヴラの見事なオーヴァーラップからクロス。ルーニーが頭で合わせてマンUのリード。アーセナルの右サイドエブエは、クリスティアノ・ロナウドのディフェンスに追われている。だが、エブエのスピードでロナウドにシュートコースを与えていない。マンUはそこをつく。ふたりのスピードランナー、ディフェンスはエブエ。ドンピシャのパスとドンピシャのクロスとドンピシャのヘッド。
アーセナルはとりあえず追いつかねば今シーズンは終わりだ。67分、フレブに代えてファン・ペルシ。ロシツキを右へ。そして、この日、出場停止のジウベルトの代わりに入ったフラミニをジュリオ・バティスタに代えたのは79分。中央にアンリとアデバイヨール、中盤に左からファン・ペルシ、ジュリオ・バティスタ、セスク、ロシツキ。この攻撃的な布陣からアンリ→ファン・ペルシで同点に追いついたのが83分。誰でもこのゲームはドローで終わりだと考えたろうし、それを一番強く望んだのは、アレックス・ファーガソンだったろう。クリスティアノ・ロナウドに代えてエインセ。この日、何本もシュートを放ったが枠に飛ばなかったロシツキのサイドをこれで封じる策だ。
ロナウド対応でまったく上がれなかったエブエ。匂いが強く感じられ始めたのはこの時間帯からだった。ドローだろうという予感とエブエが何とかするのではないか、という予感がせめぎ合っている。このゲームを解説した桑原隆の何度かそう漏らしている。ファーガソンも桑原も、そしてぼくも感じた予感。エブエが右サイドを切り裂き、クロスに誰かが合わせるか、あるいは、右サイドから中央に持ち込んだエブエがシュート。
何人か怪我人が出てかなり長く取られたインジュリー・タイム。やはりドローかな?と誰でも思ったその瞬間。予感も匂いも所詮ぼくらの希望的な観測にすぎないのだろう、とぼくらが思ったその瞬間。エブエが走り始める。センターラインから奥深くまで走るとディフェンダーがつく。ロシツキにパス。ワン・トゥー。エブエ、クロス。低い弾道のクロスが、ファンデルサールとディフェンダーたちの間を抉るように走る。そこにはフリーのアンリが待っている。このゲームではリオに押さえ込まれていたアンリがなんとこの一瞬だけフリーになっている。アンリの頭は難なくボールを捉え、ボールはマンUのゴールに吸い込まれる。94分。アーセナル・スタジアムを埋めた満員のサポーターの熱狂。「6万観衆が揺れています」。西岡アナウンサーの言葉。彼らも、ぼくらの感じた予感を共有していたにちがいない。
それにしても、こうした予感を感じたのは今回ばかりではない。集中した重要なゲームで感じるこうした予感はいったい何なのだろう。