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July 17, 2007

『ザ・フューチャー・イズ・アンリトゥン』V.A.
結城秀勇

[ music , photo, theater, etc... ]

 今年9月に公開予定の映画(邦題『LONDON CALLING/ライフ・オブ・ジョー・ストラマー』)のサントラである。『レッツ・ロック・アゲイン』『VIVA JOE STRUMMER』などストラマーの死後、彼についての何本かの映画が公開されている。正直、またか、と思わないでもないが、この映画に少なくともひとつの見るに値する部分があるとすれば、それはジョー・ストラマーの声をもとに彼の人生を再構成している点だろう。
 邦題の『LONDON CALLING』が意味するのは、クラッシュのアルバムの方ではなくて(もちろん伝説的なアルバム名をタイトルにすることの宣伝効果もあるだろうけれども)、ストラマーが1999年から2002年までやっていたBBCのラジオ番組のタイトルである。この番組の抜粋である彼のDJ振りを随所に配しつつ、主に彼自身の言葉によってジョー・ストラマーという人間の人生が語られるというのがこの映画の構成だ。もちろんトッパー・ヒードン、ミック・ジョーンズといった元クラッシュのメンバーの証言や、幼なじみかつての同級生、そしてボノやジョニー・デップ、スコセッシといったセレブ(ジョン・キューザックやスティーヴ・ブシェミまで)によって語られる「証言」の部分もあるけれど、それらの声を繋いでいるのは間違いなくジョー・ストラマーの声なのである。「偉大なるラップのオリジネイター、Mr.U-Roy!Let's it roll!」
 監督のジュリアン・テンプルはこのサントラのブックレットに、「究極のコミュニケーター」としてのジョー・ストラマー、というこの映画の明確なコンセプトを記している。ミック・ジョーンズはジョーの歌詞があればあっという間にいくらでも曲が作れたと語る。ボノはクラッシュの音楽が自分たちにとっての世界地図だったと言う。それらの言葉は、プレスリーからMC5、ウディ・ガスリー、ディラン、ニーナ・シモンといった人々の名前を繋ぐストラマーの声によって、このアルバムがまぎれもないジョー・ストラマーのアルバムとなっていることを明らかにする(その点ではこのサントラに不満があると言わねばならない。彼が番組内でかけた音楽はもっともっと多様な顔ぶれだったのだから)。
 余談だが、なぜかこの映画には証言者として登場しないポール・シムノンが監修した、昨年発売されたコンピレーション『Revolution Rock: A Clash Jukebox』が非常に好きだ。このサントラとも通じるところがあるセレクションは、クラッシュがかつてプレイした、あるいはプレイしていたとしてもおかしくない楽曲を選んだのだとシムノンは語っていた(と思う、おそらく)。「I Fought the Low」「Brand New Cadillac」「Police and Shief」とカヴァー曲である代表曲には事欠かないクラッシュだが、その彼らのあり得たかもしれないカヴァーアルバムとしてのこの『Revolution Rock: A Clash Jukebox』の魅力と、この映画のなかで世界にむかって呼びかけ、音楽を繋いでいくジョー・ストラマーの声の魅力はとても近しい。
 この映画を見ていると、ひとりひとりがいろんな側面について語っているかのようで、実はひとつのイメージに収束してしまう「関係者」の発言よりも、絶えず同じひとつのことを続けながら、しかしそれ故に時に矛盾した発言もし、そして常に限りなく誠実なジョー・ストラマーの声をずっと聞いていたいと思うのだ。願わくばBBCがラジオ番組の「LONDON CALLING」を完全収録したコンプリートボックスとか出してくれないものか。

9月渋谷アミューズCQN他、全国ロードショー