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December 26, 2007

『宇宙の柳、たましいの下着』直枝政広
結城秀勇

[ book , music ]

 この本を手にしてから早一ヶ月、完読してから三週間以上が経とうとしているが、いまだこの本は家の本棚に並ぶことはなく、読みながら行った引っ越しの際に片づけ損ねた本やCDのはいった段ボール箱の上に置いてある。本棚にしまったと思ったらまた引きずり出してしまうので、めんどくさくなってそのままだ。それがこの本に対する不当な処遇ではないのだということを言い訳してみる。
 どこかへ出かける準備をするたびについついページを開いて、今日はこの辺のものを探してみようなどといちいち手に取ってしまうから結局そのへんに置いてしまっているという事実をもってしても、この本のガイドブックとして優れていることはわかっていただけるかと思う。その一方で、文章中からいまだ聴いたことのない音楽を掘り出すという楽しみ方は、この本の魅力の半分、いやもっと少ない部分しか引き出せていないという思いがますます募ってきている。残りの魅力は、この本が引っ越しで片づけ損ねた段ボール箱の上に置かれていることときっと関係している。引っ越し作業なんて(役所の手続きとか粗大ゴミの手配とか)ほんとに疲労と嫌悪感しか生み出さないものだと思うのだが、その中で今回唯一慰めになったのは、おれが持っている物のうち価値ある物の大半は、自分が新品で買った物なんかではなく、中古で買ったり人からもらったり借りてそのまま返してなかったり、とにかく誰かの手を介してそこにあるということにふと気付いたことだった。
 そんなことを考えていたところに、この本の終盤にある以下のような文章に巡り会った。「夢を決めた友人たちは大切なレコードをそっくりおれに預けて輝かしい顔で社会へ出ていった。おかげさまでおれのレコード棚には何枚も同じレコードがある。『アビイ・ロード』のLPなんていったい何枚あるだろう。あの日Nが買った『ステレオ!これがビートルズ 第一集』『カーニー』『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、Kの自慢だった『Dr. Demento's Delights』、Yの姉貴のボブ・ディランのレコード全種すらおれのところに集まってしまった。いいよ、おれが受け持ってやるよ」。
 それはもう、趣味や何かの価値判断ですらない。与えられたり奪ったりして澱のように溜まったもの。そこに心動かされる。boid上で展開されている各方面からのリアクションは、眠っていたり忘れていたり、ただ動き出すきっかけを待っていたりするものを揺り動かす、この力によって引き起こされているに違いない。
 陳腐な言い方だが、これこそ愛だ。