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November 11, 2008

『赤めだか』立川談春
梅本洋一

[ book , cinema ]

 好評につき版を重ねている本をここで紹介するのは本意ではない。だが、誰からも、あれはめっぽう面白い本だ、と言われれば、どうしても本屋で手に取り、何ページか立ち読みしたくなるものだ。で、立ち読みしてみると、なるほど、これは面白い!と感じられ、平積みになっているその本を下の方から取って、レジに持って行ってしまうものだ。帰ってから寝る前に少しずつその本を読み進め、残りページが少なくなると、もう終わりかととても残念な気がし、もっと続いて欲しいと思いながらも、面白さにかまけてどんどん読み進め、ついにラストのページに差しかかるころには、うっすらと両目に涙が溜まっているのに気付く。
 『赤めだか』はそんな本だ。最近、そうもう20年近くになるか、ぜんぜん寄席にも行っていないし、古典落語をじっくり聞く機会を失ってしまった。小さいころは、祖父に手を引かれて寄席に出かけ、全盛期の林家三平に「坊や、いくつ? おじちゃんが笑っていいって言うまで大声で笑うのはやめておくれよ」と言われたことがあるし、高校の先輩には柳家小さん治がいるし(中本工事だって先輩だ)、20代中頃には、池袋西武百貨店の上にあったスタジオ200 で円窓二百噺という三遊亭円窓が毎月開いていた独演会にも通っていた。談志は、今はなき東急文化会館の地下でやっていた東横名人会で聞いたことがあるし、今もやっている「笑点」の司会をしていたころは毎週見ていた。だが──ごめんなさい、最近、めっきり落語を聞かなくなったもので──談春は知らなかった。談春が談志に入門して、前座になり、二つ目になり、真打ちになるまでが書かれたこの本を読むと、彼は古典しかやらないすごい落語家であるらしい。早速DVDを買い求めなくてはと思う。それよりも20年以上聞いていなかった落語を聞きたくて、談春のサイトにアクセスして、彼の独演会の日程まで調べてしまった。
 みんなが言うとおり、談春は文章がやたらとうまい。高田文夫は帯で「直木賞でももらっとけ!」と書いているが、お世辞でもなんでもない。立川流に集まった人たちの人物描写や談志(イエモトとルビがふられている)の人となりに吹き出し、笑いを止められないまま、ついに、談春が真打ちになる件がやってくる。そこで、談春は、一計を案じることになるんだが、これが、すごい!ここですごいことが起こるんです。ぼくには、談春みたいに書けないので、あえて書かないけれど、ちょっとやそっとの映画や小説のラストでは決して真似が出来ない心に迫る言葉が並んでいるわけ。ナミダ、ナミダ、ナミダ……。胸に迫るってこのことだよね。久しぶりに、小さんが聞きたくなったな。みんなそうなること請け合い!