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January 8, 2009

09 新年のラグビー
梅本洋一

[ cinema , sports ]

○まず1月2日の国立競技場の2ゲーム。

早稲田対東海 36-12
 ここまで魅力的なラグビーで勝ち上がってきた東海だが、早稲田の前に出るディフェンスに対すると打つ手を失う。東海の6番と8番を主なるターゲットに早稲田のディフェンスが前へ前へとプレッシャーをかけると、東海のアタックが寸断されてしまう。かつてのフランス代表のようなフレアを実現するためには、高度の個人技が必要になることが痛感される。
 スコアの上では圧勝の早稲田だが、はまったのはディフェンスであって、そこからのターンオーヴァーからのアタックでスコアを重ねたに過ぎない。仕掛けからディフェンスを破ってトライを奪うというスキルは、このチームにはないようだ。特筆すべきは、早稲田の10番の学習能力の低さだ。上空を舞う風などお構いなしに逆風に向かってハイパントを蹴り上げていた。いったい何を考えているのやら。否、きっと何も考えていないのだろう。自らの辺りの強さを活かしてトライした後はガッツポーズ。困ったものだ。

帝京対法政 36-10
 このゲームはものすごく退屈だった。国立競技場のピッチから遠いスタンドで、運動感の乏しいゲームを遙か彼方から見つめていると眠気と寒さで家に帰りたくなってくる。確かに強いFWを前面に押し立てて帝京は横綱相撲を取って勝った。文字を中心にした法政が何をやっても、帝京の堅牢な壁は微動だにしない。
 だが、帝京は自分たちよりも強力なFWと当たったらどうするのだろう。体重と筋力で劣った場合、どんなラグビーをするのだろうか。スクラムを初めとするセットピースで優位に立てない場合、このチームはいったい何をするのだろうか。そんな疑問がわき上がる。重いFWを集めて、基礎的なスキルをアップさせ、筋力トレーニングを施せば、大学のチームには勝てるかも知れない。
 トップリーグが開幕してから、大学チームの目標が下がったように見える。かつての早稲田や明治、そして慶應は、その強かった時代のターゲットを明らかに日本選手権の優勝においていて、成人の日の一発勝負で、どうやって日本一のチームになるかを目標にしていたはずだ。確かに帝京は大学チームの中では、「横綱相撲」をとれるし、早稲田がこのチームを倒すには、相当の工夫が必要になると思うが、帝京のFWが劣勢になれば、それはもう帝京というチームがギヴアップしたことを意味する。幸い大学チームの指導者たちは、時間の面で優遇されている。「打倒早稲田」とか「打倒関東」といった身近の目標ではなく、どうやったらナンバーワンチームになれるのかを考えて強化に当たって欲しい。

○ トップリーグ

サントリー対神戸製鋼 67-3
 新年のラグビーでもっとも面白かったのがこのゲーム。ディフェンスをしっかりやって接点で勝ち、ターンオーヴァーからアタック。サントリーは、それ(だけ)を80分間やり続け、最初はイーヴンに見えたゲームを大差のゲームへと導いていった。やっていることは早稲田と同じ方向。だが、そのコンテンツ、ひとつひとつの精度がまったく違う。FWの面子のひとりひとりの誠実さの度合いは同じでも、誠実さを支えるスキルが違う。とくにナンバー8の竹本はその誠実さを文字どおり具現している。早稲田のナンバー8が、生まれながらの体格と運動能力を中心にプレイしているのと、竹本の誠実さを比較するのも興味深い。そして、目に見える部分でレヴェルが著しく異なるのが、10番と12番。曽我部は、ここに来て、本当に成長した。10番でもっとも大切なことは、プレイの選択をまちがえないことだ。曽我部は、ゲームを見ているぼくらが想像する次のプレイを裏打ちするように実行し、その狙いをほぼ完全に成し遂げてくれた。ディフェンス力をもう一段上げれば、ぼくがジャパンの監督なら使う。そして12番。早稲田の12番も誠実なのだが、残念ながらセンターにしては小さすぎる。いいトレーナーについて、スピードを増しながら頑強な体格を作っていくことに挑戦すべきだ。対して、ライアン・ニコラス。文字通りのセンターとして彼の強さとスキルは、このゲームで冴えに冴えていた。辺りの強さ、タックル、それに得意のオフロード。彼につられて曽我部も平もうまくなっている。
 一方の神戸製鋼は? 一生懸命やっているのは分かるが、ひとつひとつのプレイへの密度が、サントリーに比べてずっと低い。バックラインに面子がいないのなら、接点での勝負をもっともっと厳しくやるしかない。

 さて、大学選手権の決勝の予想は? 早稲田が勝ちたいと思うなら、まずスクラムだ。そして理由のないフレアに走ることなく、しっかりしたエリアマネジメントで地域を取り、ラインアウトの精度を磨くことだ。帝京FWに無闇にぶち当たるのではなく、相手陣22メートルから、ピッチを広く使うラグビーを心がける。キッキングゲームを展開し、接近戦を避けながら、スクラムをフィフティに持って行き、リードを保ちながら走り勝つこと。そして何よりもディフェンス。