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April 16, 2014

『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』マイケル・ベイ
高木佑介

[ DVD ]

レンタルビデオ屋の「新作」コーナーをぶらついていると、アメリカ国旗を背景に厳めしいポーズを決めているマーク・ウォールバーグと“ザ・ロック”ドウェイン・ジョンソンのふたりと目が合った。『トップガン』(86)並にダサいDVDジャケット、そして『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08)と同じような副邦題を持つこの作品のパッケージを手にとってみると、「トランスフォーマー」シリーズの大ヒットの陰に隠れてしまったのか、マイケル・ベイ監督作でおそらくはじめての日本劇場未公開作だった。日本橋にシネコンができる一方で、ハリウッド随一のヒットメーカーの作品がDVDスルーされるのだから、この国の映画マーケティングはいよいよよくわからない。90年代にマイケル・ベイ作品のほとんどをプロデュースしていたジェリー・ブラッカイマーが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズを境にゴア・ヴァービンスキーに乗り換えたこと、そして彼らがめっぽう面白い『ローン・レンジャー』(13)をつくっているかたわらで、マイケル・ベイによる「小品」がDVDスルーされることは、何やら現代ハリウッド大作の動向を分かつ分水嶺を表わしているようにも思える(深くは考えていないが)。とりあえず、見てみた。
冒頭、マーク・ウォールバーグが寂れたビルの壁に張り付いて腹筋をしている。彼は警察に追われており、その異様な場所での腹筋を切り上げて逃げようとするものの、追跡してきたパトカーにはねられてしまう。そこから「俺の名前はダニエル・ルーゴ、筋トレ・マニアだ」というモノローグとともに回想シーンへと移り、彼が筋トレ・マニアであり、スポーツ・ジムのしがないトレーナーであることがわかっていく。
90年代にマイアミで実際に起きたボディビルダーたちによる金持ちの誘拐事件に基づくというこの映画は、その後、マーク・ウォールバーグ、ドウェイン・ジョンソン、アンソニー・マッキー(『ノトーリアスB.I.G.』で2パック役を演じていた黒人俳優、『ミリオンダラー・ベイビー』にも端役で出ていた)たちによる誘拐計画の実行とその顛末を丹念に描いていくことになる。お粗末な計画であったばかりか、あまりにも現実離れした話――ボディビルダーたちにSMグッズ小屋に監禁されて全財産を奪われたというもの、そして被害者がとにかく嫌な成り金だった――であったことから、警察も当初はまともに調査をしなかったという「事実は小説よりも奇なり」的な題材・物語であり、ことの成り行きが終始コミカルな調子で描かれている(しかし事件を解決に導くのは真面目な探偵役のエド・ハリス)。事件そのものは常軌を逸した残酷なものなのだが、マイケル・ベイによる「3バカ大将」と言えばいいのか、3人の軽妙なやり取りと、信心深いキャラクターを演じているドウェイン・ジョンソンのこれまた常軌を逸した筋肉には目を見張るものがあった。金を手に入れて社会的に上昇することを決意するマーク・ウォールバーグは、『ブギーナイツ』(97)のパロディのように鏡に映る自分たちの筋肉を見ながらこのようなことを言う。「見てみろ、俺たちの身体はスーパーマンみたいだ。うまくやれば、もっと多くのものを手にすることができるはずなんだ」。
この映画における彼らにとって、日々の鍛錬によって強靭な肉体を獲得することは、そのまま「アメリカン・ドリーム」の実現へとつながっている。米軍のバックアップを得ながら撮影してきた「トランスフォーマー」シリーズで、ロボットたちの機械的な身体を主に描いてきたマイケル・ベイが、今作で「筋肉への回帰」を描いていることは何やら興味深い。誘拐を達成させるために大した筋力は必要とされないのだが、彼らは窮地に立たされると、何よりもまず筋トレをすることによって心を落ち着かせようとするのである。そのようにして見せられる過剰に鍛え上げられた肉体は、健康というよりも狂気に近いものとして捉えられている。そして、その狂気じみた行為の延長線上にあるものとして、本作は「アメリカン・ドリーム」(とその終焉)を描いているように見えるのだった。
一連の顛末が語られたのち、刑務所に収監されたマーク・ウォールバーグは、そこでも囚人たちの筋トレをサポートしている。そこで彼のモノローグによって語られる「アメリカン・ドリーム」は、どこまでも奇妙で倒錯的なものとして聞こえる。